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50代男性が健康と幸福を追求する日常をつづります

それは猫とか鼠とかの類ではなくて

朝ドラ「あんぱん」が始まって1ヶ月以上経って知ったのですが、女性主人公のモデル、やなせたかし先生の奥様は高知出身じゃないんですね。若い頃のエピソードを二人がからむ形でふくらませたかったので幼なじみという設定にしたのだそうで。それで女子師範学校の描写が薄かった理由が垣間見えたように思いました。教員として登場したのが実質的に黒井先生一人だったり、先輩や後輩との接点もほとんど描かれていなかったり。この辺には重きが置かれていないようです。

一方、男性主人公は幼い頃に高知に移ったのにずっと東京の言葉を話していますが、これはモデルのやなせ先生とは逆ですね。作劇上の深い意味があるのか、それとも北村匠海くんの負担を減らすためなのか……。注目しています。

物語はこの先、長く厳しい戦争を経て、二人が高知の新聞社で同僚として働くことになるのでしょうから、まだしばらくは高知を舞台にする回が続きます。

何が言いたいかというと、竹野内豊ファンが彼の土佐弁を楽しめる期間はまだまだ続きますよーということです。

本作での演者たちの土佐弁について以前書きましたが、県外の人からは竹野内くんの評判が圧倒的ですね。

土佐弁に長く接してきた者からすると、イントネーションに違和感があることもわりとあるのですが、たしかに全般的に説得力を感じます。あんな感じのしゃべり方をする高知のインテリ男性というのは実際にいるんです。

とりわけ声のトーンというか音高。これはSNSで指摘する人がいて気づいたのですが、土佐弁話者男性の声の平均的な周波数帯というのがおそらくあって、それは標準語話者男性よりも低い。「あんぱん」の竹野内くんの話し方はちょうどその平均的な感じに収まっているように感じます。高知に観光で行く方は、ぜひ高知県男性の声のトーンにも注意して言葉を聴いてみてください。

一般の視聴者の注目が集まるのは声のトーンよりも、後にアンパンマンで引用される名言だったり、次いで語彙やイントネーションだったりでしょう。後者でよく聞かれるのは、あの「にゃあ」がいいという声です。

「ありがとにゃ。のぶちゃん」とかね。

「にゃあ」は終助詞で、標準語でいう「なあ」「ね」に相当します。幼い頃から普通に使っていたので、かわいいと言われる日が来るとは思いもしなかったなあ(土佐弁では「思わざったにゃあ」かな? ちょっと自信なし)。それは竹野内くんだからか。

そういえば、土佐弁の助動詞で「ちゅう」というのがあって、これは古語の完了の助動詞「つ」が変化したものです。「ちゅう」のおかげで、日本語話者が苦手とされる英語の現在完了形も、土佐弁話者は何の苦労もなく理解し習得することができます。

「にゃあ」と「ちゅう」を並べたことでおわかりの通り、土佐弁を他の地方の人に紹介する際には、自虐的に猫やネズミの言葉と言うことがあります。そういえば幼い頃に友達の家に行ったとき、友達のお母さんが「そんな猫かネズミみたいな言い方しておもしろいわね」なんて言っているのを聞いた覚えがありますが、今思えば県外の出身だったんですね。

ところが、これも最近知って愕然としたのですが、「にゃあ」はすでに若い人の間では使われなくなりつつあるそうです。「使うのは団塊の世代ぐらいですね」という状況なのだとか。ほんまかえ! おっちゃん団塊よりも二回りぐらい下じゃけど普通に使うで。

数年前まで高知の若い衆と直接話す機会がたまにあって、その際にも彼らの話し言葉が標準語や関西方言に浸食されつつあるのは感じていました。県外に出たら相手への気遣いからよそ行きの言葉で話しているのかと思っていましたが、ふだんの話し方も変化しているのですね。今や想像以上に絶滅の危機が近づいているようです。寂しいことです。

素敵な選TAXI

連続テレビ小説 あんぱん Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド)

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