神様がくれた休日

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森利右衛門5代記 41 関東編 大正12年

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 阪本小学校、東吉、達次郎、妹のセイが卒業した小学校であった

東京市でも初期にできた伝統ある気高い小学校である

東京は人口の割に土地が狭いから校舎はロの字に作られ、校舎に囲まれた中がグラウンド、それだけでは元気な子供たちには不足だから、学校の隣が小公園になっているパターンが割とある、阪本小学校もそんな学校の一つだった

余計な話だが、谷崎潤一郎は東吉のこの学校の9年先輩になる。

 

 東吉が家族が、「学校に避難した」と聞いて安心したのは小学校の隣が日本橋消防の第一分署があったからだ

ところが行って見て驚いた、学校は倒壊しているし、頼りの洋風館風の消防署までも

破壊されていたのだった

とにかく目に入る周囲のほとんどが全壊、半壊しているのだが、そこに周辺の住民が避難して集まってくる

とりあえずは、このスペースで次に起こる出来事に備えると言う心理であろう。

 

 少し揺れも落ち着いたようなので、東吉と達次郎は両親と妹をここに置いて、いったん家に戻り今のうちに金目の物や必要なものを取りに行った

しかし、倒れた家の残骸の中に潜り込むこともたいへんだし、柱一本持ち上げるにも色男だけが取り柄の兄弟は力が無くて思い通りに行かない

ただただ時間を浪費しながら、攻めあぐねている、そんな時だった

「火事だ! 火が出たぞ、火事だ」と言う声が聞こえた、近いところ遠いところから、幾筋かの煙が登るのが見えた、風も完全に収まっていないから下手すれば燃え広がる恐れがある、消防だってこのがれきの山の中を容易に来ることはできまい。

 

のちに風速5mは超えていたと言う、あっと言う間に火の勢いは増して、あちこちで火の手が上がりだした

「達次郎、これは危ないぞ、この様子では火にまかれちまう、逃げよう」

そういったか言わぬうちに学校の方でも火の手が上がった、なにしろ風で火の粉が舞い上がっているのだ、同時に黒や白の煙が立っている

「こりゃいかん、急げ、母さんたちをなんとかしなけりゃならん」

しかし、近づくと学校が燃えているらしく、もう近づけない、こうなれば両親、妹の生死は天に任せるしかないと思ったのは、切り替えの早い東吉兄弟ならではの機転であった、まだ心の中には大ごととは捉えていないのであった。

 

 逃げては見たものの、行く先々で行く手を阻まれる、とにかく人人であふれている東京なのだ、もう遠くも近くも火と煙だらけだ

しかもこの辺りは運河が巡っていて、小さな橋が多く、そこで人の群れは渋滞している

そこに火の粉が落ちてくる、大八車に布団、家具を山積みにしている者もいて、それが通行を妨げるだけでなく、降った火の粉で燃え上がるからもう地獄絵だ

ようやく広い通りに出た、電車道に線路が折れ曲がり、路肩に乗り上げた路面電車もある、広い通りは見通しも良いから遥か遠くの大火災も見えて、ようやく事の重大さ、命の危機に人々は気づいたのだった

そして活路を求めて大勢が右往左往して、我だけが生き延びようと必死に退路を求めている

「兄貴、どうすりゃいいんだ」達次郎も必死な声になった、しかし東吉はさすがに一家を支える長男であった、こう見えても生きるための修羅場を少しは超えた遊び人である

度胸が据わっていた、それは自分でも思いがけないことだだった(おれは案外度胸が据わっていたのか)と自分に感心した東吉であった

そして冷静に分析を始めた、(今どこにいる?日本橋区役所のあたりだろう、よしここは、まず大川の向こうに渡ろう)という気になった。

 

登場人物

森山東吉 東京市日本橋区三代町の住人、森山家の長男

森山達次郎 東吉の弟

森山セイ 東吉、達次郎の妹、17歳