遊泳する言葉

言葉が追いつけないものがある。言葉に追いつけないものがある。だから言葉を追いかける……

秋の夕やけに鎌を研ぐひと 

きょうの夕焼けは 空が燃えているようだった よく乾燥した 薄い紙のような雲に 誰が火を点けたのか 激しく静かに燃えている 炎の広がりに染っていると どこか空の遠くから 秋の夕やけ鎌をとげ と叫ぶ祖父の声が聞こえてくる 夕焼けした翌日は晴れる 祖父は稲刈りをする 鎌をとぐ祖父は百姓だった 重たい木の引き戸を開ける 薄暗い家の中に入ると その家だけの土壁の匂い 踏み固められた土間が 風呂場と台所に続い...
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さんま苦いか塩っぱいか 

信楽焼の長方形の皿がある なんとなくその上に 拾ってきた落葉をのせた 今の時期なら この皿の上には秋刀魚 それがいつもの習いなり なのにその姿はない 去年もなかった 一昨年もなかった 秋刀魚はいつのまにか 手が届きにくい魚 遠くの魚になってしまった スーパーの秋刀魚は 腹わたも無さそうな痩せっぽち 高島屋の秋刀魚は ツンとお澄まし高級魚 どんなに秋刀魚を恋していても つれない顔に見えてしまう さん...
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5球スーパーラヂオに恋してた 

深夜のラヂオを抱きしめる 真空管がピーピー鳴るんだ 温かいねラヂオの匂い 5球スーパーマジックつき シゲがラヂオを自慢する なかなか合わないダイヤル すばやく逃げる電波 耳をすまして追いかける ニュースも音楽も恋も 新しいものは遠くにある 見えないものはすべて 波に乗ってやって来る ラテン音楽はうねりながら 眠れない夜を犯しにくる ベッキーサッチャーの声に誘われ トムソーヤーが山から下りてくる 電...
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