遊泳する言葉

言葉が追いつけないものがある。言葉に追いつけないものがある。だから言葉を追いかける……

夜に向かって山に登るな 

振り返ってみれば それぞれの途上で いくつかの分かれ道があった と言うほど大げさなものではないが それらしいものはあった 古い話だが 1700メートル級の山が はじめての山が そこにあった それが一つの分岐点になった あるいは動機になった かもしれない 僕は23歳だった 2年近い療養生活のあとで 再び大学に復帰するか 東京の生活を始めるか 大きな決断をしなければならなかった さまざまな混迷と焦燥と 不...
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ホタルブクロは記憶の袋か 

すっかり夜になって ふたたびハンドルを握る 小さな町を過ぎ温泉地を過ぎると 明かりもない高原の道になったが まっ暗で雨も激しくなったので どんなところを走っているのか 見当もつかないまま走り続ける ワイパーで打ちつける雨をかき分け 見にくいヘッドライトで 闇を探りながら走っている この道は初めてではない 昼間であれば 広い高原の中を縫いながら 一本道を快適に走っているところ だがいまは雨の中を も...
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朝霧の中から蘇生してくる 

雨が上がったあとの ひんやりと湿った風が 運んでくる匂い 水のにおいかな 葉っぱのにおいかな 木肌のにおいかな それとも地面から土の いや根っこのにおい などなどの匂いが 新鮮なようで古くて 濡れたままの記憶の ずっとずっと遠いところ まだ夜明け前の霧が だだっ広い草原を駆け上ってきて 開け放った病室のドアから 波のように押し入ってくるのを じっと横たわったままで 動けない体と頭の端で 待ちわびて...
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