
今回は一條次郎さんの『レプリカたちの夜』を紹介します。
第2回新潮ミステリー大賞受賞作です。
一條さん作品は以前に『ざんねんなスパイ』を読んだのですが、独特で奇想天外な世界観がすごく印象的で、他の作品ではどんな感じなのだろうと気になっていました。
そして、うん、積読に埋もれてしまっていましたね。
やっと救出して読む。
伊坂さんは一條さんの作品を絶賛しているので、やっぱり本作も気になります。
目次
あらすじ
夜のレプリカ工場で、主人公はシロクマと出くわした。
工場長の命令を受け、シロクマの正体を追うことになるが、なんだか変てこりんなことばかり起きる。
身に覚えのない自分の目撃談、シロクマのスパイ説、消えた上司、ドッペルゲンガーにクローン。
最後に知るのは、この世界のおそろしい秘密。
感想
何がなんだかわからない、どういうことなんだ、という奇想天外炸裂ワールドなのですが、なぜか先が気になっちゃって読む手が止まらないのです。
わけわかんないのに、それでそれで? と楽しくなってくるのです。
あの文章、あの世界観には、引力とか魔力とかそういうものがあるのではないかと思う。
お話も不思議でしたが、読みたくなる魅力も不思議でした。
掴みどころのない不思議系って、途中だれちゃって、読む気が失せてしまうものなのですが、一度もそんなことなく読み切りました。
だけどやっぱり、意味わからん。笑(良い意味で)
いろんな意味で不思議なお話でした。
あ、ひとつわかったこともあります。
多分、お話の中で一番大事なところなのですが、世界の秘密(しくみ)が最後にわかって、ゾッとしました。
こりゃすごい。伊坂さんが推すのも納得。
まず、会話のリズムが心地よい。絶妙なテンポ。
ボケもおもしろいけれど、主人公がナチュラルにつっこむのも超おもしろい。
そんな会話がたくさん出てくるところが、読みたくなる、妙に目が離せないお話と思わせるポイントでもあるのかなと思います。
ちなみに私の一番好きなところは、ブラジル人女性の「なにじる人ダ?」という問い。
もう、ブラジル人一択しかない問いで、その強引さが好き。
登場人物は、言うまでもなく皆個性的です。
工場長は強引で理不尽。
自分が招いたのに
「お話は以上です。もうこの部屋から出ていってください。めいわくです」
本文P28より
用が終われば追い返す。めいわくって、それは言い過ぎな理不尽。笑
粒山は、髪が薄くて中年に見える容姿のわりに、女性にモッテモテ。
うみみずは、きつい性格だけど一番まともそうで、でも動物のこととなると、お口がヒートアップしてしまう。
特にこの言葉はわかりやすくてハッとしました。
「人間にわからなくて動物にわかることって、ほかにもたくさんあるよ。聴覚だけじゃなくて視覚も」
本文P109より
人間はどの生物よりも優れているという世の中の風潮を嫌う彼女の、この言葉は説得力があります。それぞれに優れているところがあって、誰が一番なんてことはないのだと。
ナシエは不気味オブ不気味で、でも力は本物っぽいから尚不気味。
粒山に群がる女性たちも、なんとなく不気味。
シロクマの鳴き声がグルルとかガウとかウオーではなくアール! なところは、意外で意表を突かれた気分で、すごく好き。
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登場人物は饒舌な方たちが多くて、どこか哲学的な雰囲気も感じます。
特に人間は人間自身を特別視していることとか、自我のこととか。
なので、このお話は分類するならばSFだけれど、ミステリーや哲学などの要素も入っていて、その分場面展開もたくさんあって、だから掴みどころのない印象を受けたのかもしれません。
世界の秘密については最後にわかるのですが、その世界の仕組みがわかったときに、主人公がなぜ記憶が断片的で曖昧になるのか、なぜ記憶にないことを人々に言われるのかなどの謎が腑に落ちることになります。
私は読みながら、パラレルワールドなのかなとか、ドッペルゲンガーの増殖かなとか、クローンとか考えましたが、まさかもう全ての生き物が〇〇だとは衝撃的で、何もかも疑いたくなりました。
「仮に自分が偽物だとして、それは自覚できるものなのかな」
本文P294より
この言葉がより刺さる。
自分は唯一の存在と思って疑わない。
瓜二つの誰かがいたとして、自分こそが本物でオリジナルだと疑わない。
でも、何をもって、そう言い切れるのか。
証拠も証明もないのに。
そう思うと、自分自身の存在を不思議に感じます。
偽物やクローンだって、きっと自分が本物だと思っているだろうに。
ちなみにシロクマスパイ説はどうなったかというと、それも世界の秘密によって正体が明らかになります。
最後に
自分が何者かなんて、実際のところ曖昧で、もしかしたらレプリカの可能性もあるかもしれない。
へんてこな世界の果てに見る世界の秘密に驚愕するお話でした◎