古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話 (一般書)の感想
ヒエログリフやフェニキア文字など、主に地中海沿岸地域の古代文字の研究者の半生。古代文字との出会い、学生時代の学問遍歴等々三者三様で面白い。それにしても同じ古代文字とはいっても甲骨文字など中国の古文字学とは随分スタンスが違うなと感じさせられた。大城先生の、好太王碑のような漢字資料には興味が持てないというのには共感を覚えた。これは私が秦漢簡にもうひとつ興味が持てない理由でもあるのかもしれない。
読了日:12月04日 著者:大城 道則,青木 真兵,大山 祐亮
罪と罰の古代史: 神の裁きと法の支配 (歴史文化ライブラリー 624)の感想
要するに日本古代法制史。古代の法制に直接影響を与えた唐の法制、あるいは西洋や現代日本の法制との比較もかなり盛り込まれている。尊属殺人の話題では朝ドラ『虎に翼』でも取り上げられた裁判が紹介されている。また首を斬って晒すというのは後の軍記物から武士の風習と思われがちだが、古来より存在するとのこと。平安時代の死刑の停止については、死刑制度が廃止されたわけではなく、本来死刑にすべきところを勅命による恩赦によってその都度免除するという形式が取られたらしい。
読了日:12月06日 著者:長谷山 彰
成瀬は都を駆け抜けるの感想
京大に進学した成瀬の活躍と新たな仲間たち。森見登美彦作品が読みたくなる効果もある。森見作品はまったく読んだことがなかったが、何となくエッセンスは窺うことができる。前巻までの人物も登場し、城山などは「こんなやついたっけ?」となってしまった。今回は京都が舞台なのかと思いきや最後はきっちり滋賀で締めている。今巻で完結ということで名残惜しい気もするが、いつまでも続けるのもあるいは成瀬らしくないかもしれない。
読了日:12月08日 著者:宮島未奈
日本の就活──新卒一括採用は「悪」なのか (岩波新書 新赤版 2088)の感想
主旨としては新卒一括採用擁護本。もっともな論点もあるが、どうも現状追認という側面が強いように思う。読み所はそこよりむしろ日本の大学生の就活の歴史と現状、問題をまとめている点。就職氷河期世代の感想としては、就職難ということではリーマンショック世代やコロナ世代とは比較にならず、しかも採用停止による企業側のデメリットなど、我々の世代の就職難によって認識された問題点が可視化されて後々改善されていったということで、就活という面では我々は本当に割を食ったんだなと思った。
読了日:12月10日 著者:常見 陽平
中国TikTok民俗学: スマホからはじまる珍神探訪 (NHK出版新書 754)の感想
抖音にアップされている動画を手がかりに中国内地の淫祠邪教……もとい民間信仰を探る試み。通常中華圏の民間信仰というと台湾や東南アジアでの報告となるのだが、前作に引き続き大陸をメインフィールドとし、文革によって廃れたとされていたシャーマニズムなどの民間信仰がしっかり生き残り、かつ現代的な展開を遂げていることを生々しく報告。豊富なカラー図版とともに中国の旅あるあるも追体験できる。前作のテーマの無常信仰にも続考があり、読み応え抜群。
読了日:12月12日 著者:大谷 亨
歴史小説のウソ (ちくまプリマー新書 510)の感想
かつて歴史学徒であった歴史小説家による「歴史とは何か」。歴史小説と歴史学との違いというのは歴史学の入門書で必ず話題にされることだが、歴史学と歴史小説の両方に関わってきた佐藤賢一ならではの切り口になっている。当然歴史小説家としての立場というか、歴史学より優位な点をアピールするものにもなっている。「司馬史観」が戦後日本で受け入れられた事情の考察も面白い。歴史小説の愛読者だけでなく、歴史学に関する本の愛読者にとっても得るものがある本になっているように思う。
読了日:12月14日 著者:佐藤 賢一
中国学術を貫く視座: 章学誠の可能性の感想
「章学誠の可能性」とあるが、章学誠との距離は論者によって様々である。李弘喆論文では譙周の『古史考』が『史記』批判の書ではなく『史記』の校訂書であったと評価する。楊維公論文では『三国』など、章学誠の俗文学観を問題にするが、章学誠は意外にも『説唐』『楊家将』、更には『金瓶梅』も読んでいたようである。章学誠の書簡を問題にする陳佑真論文では、同時代の学者との交友や地方志編纂への関与から、その人間性の面倒くささを垣間見れる。
読了日:12月18日 著者:
ラフカディオ・ハーン-異文化体験の果てに (中公新書 1056)の感想
ハーンの生涯と交友、その作品と思想について。妻のセツをはじめ、朝ドラ『ばけばけ』のモデルと思しき人物や事件についても触れられており、よい副読本になりそう。ハーンは当時お雇い外国人の立場から「日本通」として著名な存在だったようだが、一方で交友のあったチェンバレンとの論争、日本人女性との結婚や日本への帰化をめぐる他の外国人の視線、宣教師への非難などを見ると、どうも日本在住欧米人の中では浮いた存在だったようだ。
読了日:12月20日 著者:牧野 陽子
イスラームが動かした中国史-唐宋代から鄭和の大航海、現代回族まで (中公新書 2886)の感想
中国ムスリムの歴史と現在。特に近代以降は宗教集団としての回民か少数民族としての回族か、中国ムスリムのアイデンティティないしは政治的な位置づけが揺れ動くさまが描かれる。それと付随して開封のユダヤ人、あるいはウイグル族など回族以外のムスリムにも触れる。文革の引き金となった「海瑞罷官」、あるいは紅衛兵のネーミングに回族が大きく関わっていたという点が意外。また蒲寿庚、海瑞などをはじめとして関係する歴史上の人物や、歴史学者として著名な白寿彝など、現代の著名な回族出身者の紹介もある。
読了日:12月22日 著者:海野 典子
大大阪という神話-東京への対抗とローカリティの喪失 (中公新書 2885)の感想
ラジオ放送、吉本の漫才、プロ野球、宝塚歌劇といった文化面から「大大阪」時代の大阪を見る。これらは大阪(あるいは関西)らしさを示すものと見なされがちだが、この大阪らしさというのは近代に東京との対抗上打ち出されたもので、東京と同じゴールを目指してらしさを強調すればするほど却って大阪のローカリティーや独自性を喪失していくという逆説が述べられている。つまりは「大大阪」は日本全体の均質化を牽引する先進地域だったということになりそうである。
読了日:12月24日 著者:長﨑 励朗
飲中八仙歌:杜甫と李白の感想
杜甫の「飲中八仙歌」に詠まれた酒飲みたちと杜甫との交友を描いた短編連作。詩人が多く登場して各種の唐詩が取り上げられているという点で、中国のアニメ映画『長安三万里』と好対照になりそうである。終盤では著者がこれまでの作品でテーマとしてきた安史の乱が取り上げられている。『長安~』と比べて李白が美化されているなあと感じるが、それもまたよしである。李林甫に見目のいい幼子が献上されるというのは中国現代ミステリ『検察官の遺言』を連想した。この李林甫が学のある者を嫌うというのも、何やら当世とかぶりそうである。
読了日:12月26日 著者:千葉 ともこ
困ったときは中国古典に聞いてみるの感想
菱岡憲司『その悩み、古典が解決します。』の中国古典版みたいな内容であるが、こちらは漢詩や『論語』『菜根譚』など思想書からの引用が多い。また、アニメ映画の『ナタ2』など、エンタメ作品も言及されている。本題の悩みの解決を古典に求めるということのほかに、中国での古典の受容のされ方や現代の中国思想のエッセンスも読み取ることができる。中国思想入門として読むこともできるかもしれない。
読了日:12月28日 著者:伏 怡琳