Happy Birthday Maiki!!!

Happy Birthday Maiki!!

This is from festivewind, jen_kat, milk_of_lime, kurot and me XD; Hope you like it!



世の中は祝日だ。普段しないや出来ないことをする日。
しかしこの一家にとって、祝日とは平日とあまり差がないものであり、いつも朝早くから始まるものだ。
陽光がまだ野原を照らす前の暁方に、一人の青年は道場で木刀を構えている。目を閉じて深呼吸をしながら心を静める。集中を高めて姿勢を崩さずに腕をゆっくりと上げる。息を吸うと同時に前に一歩を進み、息を吐く瞬間に刀を振り下ろす。空気を切る音は殆どなくてもその感覚はちゃんと青年の身体に伝わる。
俺は強い、と青年は思っている。そう信じている。でも強さとは常に進化しているものだ。だから精神と集中を修行しなければならない。その時の自分を超えるために、毎日の訓練は怠りなく行わなければならない。
汗が軽く滲み出て居心地の良い痛みが身体を走り巡ったところで青年は目を開ける。窓からすっかり昇った太陽の光が差し込んでいる。
もう朝だ、と緑の瞳を細めながら青年は思う。
「おはよっ、テラ。お疲れさま」
「アクアか。――おはよう」
テラと呼ばれた青年が振り返ると視線の先には一人の少女が立っていた。短い水色の髪をしている少女――アクアは軽い足取りでテラに近づきタオルを差し出す。
礼を並べてからタオルを受け取ったテラは汗を拭き始めると、アクアが微かに笑う。
「どうして笑っているんだ?」
それを不思議っているテラに対してアクアは頭をふる。
「今日は、こんな朝早くじゃなくても良かったのに、と思っただけ。でも日々の努力を欠かさないのはテラだよね。皆が見習うべきでしょう」
そう言ったアクアは何かを思いついたように、くすっと笑う。
「でもまだ寝ているのは――っ」
アクアはいったん言葉を止め、テラと視線を合わす。
「ヴェン」
同時に二人がその名前を口にして、笑い出す。その楽しそうに笑っている声が広い空間に響きわたる。



良い一日になる。微笑みながらアクアはそう思った。
「じゃ、先生とヴェンが起きる前に私は朝ご飯つくりにいくね」
「俺はっ」
「テラはシャワー浴びて着替えてくる。朝はまだ冷えるから」
テラは瞬きして、そしてゆっくりと頷く。
「すまんな、アクア」
「いいの、気にしないで」
アクアが入り口に向かうとテラは片づけに入る。身なりと精神は一心同体であり、きちんとしないといけない。ものをあるべき場所に戻すのが礼儀である上、誠実な心の証であることにも思える。だから時間がかかってもテラはちゃんと片づけを自分でする。
丁寧に木刀を置くテラを眺めているアクアは穏やかな笑顔を浮べて、そのまま本家に入って台所に向かった。


男三人と暮らしていると色々不便がある。でもアクアは結構この暮らしが気に入っている。エラクゥス先生の養子になってから長くは経っていないけれど、この広い家でちゃんと家族になっていると感じる。
大きなお椀に小麦粉に卵と牛乳を混ぜながらアクアは今日の予定を考える。普段はバレー部の練習はあるけど、今日は特別だ。街の記念日であるこの日に全部の学校は休みになっている。生徒も先生も街の住民皆も今夜の祭りに向けて準備をしている。今年は踊りも屋台もやらない方なので祭りをゆっくり楽しめるはずだ。近頃皆が部活や仕事で忙しくて全然そんなことが叶わなかったから、久しぶりにテラとヴェンと先生、全員で出かけたら嬉しい。それを想像するだけで嬉しくなりアクアは無意識に鼻歌を小さな声で歌いはじめる。
「早いな、アクア。君たちに朝ご飯作ってやろうと考えていたのだが先起こされたらしい」
「あ、エラクゥス先生、おはようございます」
「おはよう」
一枚目のホットケーキを焼き上げたところで一人の中年男はキッチンに入る。白いシャツと黒いズボンに身を包んだエラクゥス先生はテーブルに新聞を置く。玄関から取ったらしく、その新聞はまだ折り畳んだままだ。
「コーヒーをっ」
「――気にせずとも良い。自分でやる」
エラクゥスは静寂な微笑みをアクアに向けて、コーヒーをカップに入れる。香り高い甘さがカップから宙に舞い上がる。それを気持ちよくかいながら、エラクゥスは椅子に腰を下ろして、カップから一口を飲んでそっとテーブルに置く。
「テラはさっきすれ違ったが、ヴェントゥスはまだかね。早く起きれば急がなくても済むのがいつまでもわからんじゃ」
苦笑しながらエラクゥスはそう言ったが、アクアは笑った。
「でもそれはうちのヴェンですから」
「それもそうだな」
ホットケーキがいく枚か積みあげたところでテラはカジュアルな服装でキッチンに入ってくる。髪はまだ少し濡れて、普段でも濃い色がさらに暗くみえる。それを手で軽くかきながら、テラは辺りを見渡す。テーブルの上には四人分の皿が用意されているが、座っているのはエラクゥスだけで、部屋にいるのは三人のみである。
「ヴェンは?」
「どこにいると思う?」
もう一枚完成した丸いホットケーキを皿にのせながらアクアはテラの質問を同じ風で返した。
「まだ寝ているのか・・・っ」
はぁとテラはため息をつくが、別に呆れているわけではない。
ヴェンが一番遅くこの家族に入って一番若いこともあり子供扱いを受けている。ヴェンはそれに甘えているつもりはなくても、むしろ大人として見て欲しいくらいだけど、周りは彼を甘やかしているのは間違いない。テラもアクアもエラクゥス先生もその自覚はあるがヴェンが可愛くてしょうがない。だから寝坊すけの彼をギリギリまで起こさないことにしている。
でもそろそろ起こさなければ、とテラは思う。壁にある時計は九時半すぎを指している。
「俺は起こしにいく」
ぶっきらぼうにそれだけを言い残したテラだったが、声は苦笑混じりだった。
ドアに向かって去って行くテラの背中を見つめたエラクゥスは眉間にしわをよせる。
「もう少し寝かしても良いかもしれぬ。夜遅くまで走りおったな、ヴェントゥス」
それもアクアは知っていた。陸上部のエースと呼ばれてもいいくらい、ヴェンは早い。そしてテラに影響を受けて、毎日の練習は怠らない。憧れの兄を追いかけている弟のようで微笑ましいと思う。
「ヴェンはミッキーと約束があるみたいなので」
「そうか」
テーブルの上の準備が終わりつつあるところで、入口から足音が聞こえる。まるで生まれたての羊のような不器用な歩きでヴェンは目を擦りながらダイニングルームに入った。テラはその後ろで牧人のようにヴェンの様子を見守っていた。四方に散ら伸びしているベッドヘアの金髪にもテラが整えようとした形跡がある。
「おふぁーおっ」
おはようを言うつもりだっただろ。でも咄嗟に出たあくびを手で抑えているヴェンの言葉が歪んできこえる。
床に多少音を立てながらも椅子を引き出して、ヴェンはばんっと座る。彼は数回まばたきをする。そしてやった目覚めたのか、テーブルの上に広がる光景に目を丸くする。
「あれ?今日、誰かの誕生日?」
普段より豪華な朝食にヴェンは呆然と眺めていると、他の三人は笑い出す。学校や仕事で忙しい皆にとって、こんな賑やかな朝は久しぶりだった。別にヴェンを笑ってはいなかったが、自分の勘違いに気づいた彼の頬は少し赤く染めていた。
「――早く、食べよう」
その場を消し去るようにヴェンはそう言った。そして皆が座るとエラクゥスは新聞を横に置く。さっそくもヴェンとテラは取り合えっこを初めて、アクアとエラクゥスはそれに口出しをしつつも楽しく参加していた。朝食もまた賑やかなものになった。


「ありがとう、テラ、手伝ってくれて」
アクアは背伸びをしながらそういうと、テラはうなずく。
「掃除は二人でやった方が早いだろ」
数時間でピカピカまでとは行かなかったがちゃんとキレイになっていると、二人はその気がする。
広い家は案外諸刃の剣である。沢山スペースがあった方が生活しやすいけど、掃除が大変なことになる。いっきに家中の掃除をしたら軽く一日はかかることもあり、それ以上もかかるかもしれない。だから隙を見て少しずつで片付けるのが得策に思える。テラの思考の中で掃除はもはや戦闘と同じになっている。しかしそれも悪くはないとも思う。
嵐のようなヴェンは狭い家ではぞんぶんに生活できないから、その様子が見えるから、少し手間がかかってもこの家がいい。
肝心のヴェンは友達のミッキーと約束があると言って、朝食後すぐに支度をして家を飛び出した。掃除を手伝えなくてごめんと謝ってたけど、瞳の奥にそんな残念がっている気持ちはあんまり見当たらなかった。
「そろそろ祭りの準備に入ろう」
テラはリビングを見回した後にそう言った。
「そうだね」
出し物も手伝いもないのが本当に久しぶりで、アクアはただ祭りを楽しめる側として行けるのが嬉しい。家族と行けるのがもっと嬉しい。自分の部屋に向かいながらそう考えていると静かだった幸せがうきうきと昇り始める。
奥のクロゼットにしまい込んだ浴衣を取り出す。今の服を脱いで浴衣の袖に腕を通すと柔らかい布が肌をすばせる。線を全部合わすとひもで腰あたりでいったん浴衣をしめて、二つ目は走っても息が苦しくならないように胸の下でしめた。その上に手際良く帯を結んで、手首から簡単にさげる浴衣と似た柄の袋を手に取ったら部屋から出た。
テラは廊下で待っていた。茶色甚平に着替えた彼は凛々しく見えた。壁に背をあずけ腕を交差する姿で特に男前に見える。学校の女子が騒いでも不思議がないとアクアは思った。彼が腕を下ろすと肩や胸板の甚平に翠色な線がちらと目を引くぐらいの細かい作り込みがある。
「似合っているよ、テラ」
アクアは静かに笑うとテラはそれを返した。
「アクアもな」
「ありがとう」
アクアはこの浴衣を結構気に入っている。テラとヴェンと先生がプレゼントしてくれたものだ。男三人が選んだ浴衣にしてはすごくキレイでセンスがいい。派手ではなく落ち着いた静寂さがある紺色の浴衣に鮮やかなスミレが浮かび上がっている。その紫の花がまるでせせらぎの流れに従うように浴衣を色づけ、海の底にスミレが流れている印象を見るものに与える。
「本当に綺麗だよ、アクア」
思いがけない声に二人は驚く。階段の横に目をやるとそこには微笑みを浮べているヴェンが立っていた。
「ヴェン、ミッキ―のとこに行ってたんじゃないの?」
首を傾げているアクアの傍にいるテラはただ頭を振った。
「忘れ物でもしたんだろ」
えへへ、とヴェンはテラの言葉を笑い飛ばして自分の部屋に入っていた。彼が出てくるとベージュ色のじんべいに着替えていた。テラのと同様、緑と金の線が少々飾りのようにちらほら見える。
さすがだ、と二人は感心する。必要であればヴェンは早く行動できる。起きるのは上手ではないが。
「あれ持っていたはずじゃ……?」
「うん」
ヴェンは笑って二人に駆け寄った。
「でも皆と一緒に祭に行きたい。ミッキ―はあそこで会えるし」
無邪気に笑うヴェンを見ていると微笑むしか出来ない。テラは大きい手を差し伸べてヴェンの整っていた髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「テラ!」
ヴェンはテラの手から逃げようとした瞬間、アクアはテラとヴェンの腕を掴む。びっくりしたのか、彼らはアクアを見つめてまばたきをする。
「祭に行こうよ」
ねだっている風に言わなかったが、テラとヴェンは視線を交わしお互いにうなずくとアクアを宥めるように同時に口を開いた。
「行こう」


結局エラクゥス先生は仕事に追われていて家族一緒に祭に行くことは叶わなかったが、彼は後で合流すると約束をした。一度何か誓ったらそれを絶対守るのはエラクゥス先生だ。そう信じて、三人は街に出た。
濃い紫が迫りつつある夕焼けの空の下で沢山の人が街の広場を目指している。アクアもヴェンもテラもその強大な人流れの一部となり、商店街を通り抜いていく。山に近づくにつれ両側に明るく道を照らしている灯籠もあって屋台もある。焼そばやお好み焼き、綿菓子に林檎飴。少し時期的に早いにも関わらず、かき氷やアイスクリームを売っているところもある。擦れ違った一人の女の子が一本の薄く青いアイスクリームを食べていて、ヴェンの視線がそれについていたことをアクアは見逃さなかった。
「食べる?ヴェン、買って上げようか?」
アクアの言葉にたいしてヴェンは小さく笑う。
「後で自分で買うよ、子供じゃないんだから。でもありがとう、アクア」
もう少し進んで行くと右側から大きな笑いが聞こえてくる。
「賑やかだな」
テラはそれに惹かれたみたいにその方向に向かうとヴェンとアクアにも興味が湧いて、後をついていく。するとその先には金魚すくいの場所が広がっている。元気な中年男が腕をひろげて大きな声で客を誘う。
「いらっしゃい!金魚をすくいあげてくれ!腕の見せ所だよ!そこの兄ちゃん、やってみるかい?」
「――おれ?」
テラは微動だにもせずとヴェンは彼の背中を前に押す。
「やってみせてよ、テラ」
「ヴェンがやった方が……」
アクアは何故か焦り出しているテラをくすっと笑ってからヴェンと肩を並んで、同じ言葉を笑いを堪えながらも言う。
「やってみせてよ、テラ」
二人に進められるとテラは断りづらくなったのか、まるで一大事を決心するように戸惑いながらも大きな水の塊に近づく。長方形の四角の箱に泳いでいる金魚は百匹以上があり、向こう側にすらすらと金魚をすくいあげている小学生くらいの子供を見ると簡単なものかもしれない。彼はそう思った。



――ポイの紙が簡単に破かれた瞬間まで。水に入れて少ししか動かしてもいなかったはずなのに。
テラは呆然と手にしているポイを眺めていると中年男は腹から大きな笑いをする。
「力入れすぎだよ、兄ちゃん。ほら、もう一回やってみぃ」
新しいポイでテラはやってみたのはしたが、それでも金魚をすくい上げることは出来なかった。途中で彼は意地になって頑張ったがそれでもだめだった。テラの後にアクアは笑いを抑えなくなって、彼に背中を向いた。ヴェンは慰めるようにテラの肩を軽く叩いた。
「俺は代わりにやるよ」
ヴェンは新しいポイを手に取って挑もうとしたが彼にも一匹もすくいあげられなかった。
「あれぇっ。可笑しいよ、これ」
「ヴェン、そこっ!――あぁ、もう少しだったぞ」
何回も惜しいところまで追い詰めたけどヴェンはテラと同じくらいポイの残骸を残すこととなった。まるで墓場のごとく。
「ヴェンは早すぎたよ。スピードはすべてじゃないんだから」
「じゃ、アクアは手本みせてくれ。これ、難しいんだよ」
「おぉ、綺麗な姉さんの出番かい」
アクアは笑ってポイを手に取る。そしてヴェンとテラの口がぽかんと開くほど金魚をあっさりとすくいあげる。新しいポイに変更したことは数回あっても前の二人のように残骸はなかった。
「うっそぉ」
ヴェンとテラは驚愕したようにアクアを見つめる。
「流れを読まなきゃいけないでしょう」
アクアは照れくさそうな笑いをして、店の人に三匹だけを袋に包んでもらう。自分の一匹を手首から下げると、二人にも一匹ずつを渡す。信じられない目でテラとヴェンはその金魚を見つめる。
「次はどこに行く?」
「――ヴェン!」
アクアの質問と同時にちょっと高めの声がヴェンの名前を呼ぶ。ミッキ―だ。相変わらず黒い服を着ている彼は明るい祭に陰が現れたように映る。しかしミッキ―の顔には優しそうな微笑みが浮べている。
「ミッキ―!」
「こんばんは。――金魚つくってたんだね」
彼がヴェンのとなりに寄ってくると皆に挨拶をして、友達が持っている金魚袋に気づく。
「あ、いや、これは……」
ヴェンはアクアに視線を流しながら口ごもる。
「面白いところ見つけたんだよ。混む前に、行こう」
ミッキ―はアクアとテラにぺこりと頷いてから走りだす。背の小さい彼は人混みの間を何かの踊りのように抜けてゆく。
「ミッキ―!待って!」
「行っておいで」
テラは優しくヴェンを送り出すとヴェンは大きな微笑みをする。
「後で川辺に行くから!」
ヴェンはその言葉だけを残して、アクアとテラに手を振って友達を追いかける。
もはやこの一家にとって恒例になったのが川辺で花火を見上げることだ。街の住民ほとんどがこの祭に参加していると大広場の所は激混みする。テラたちは少し落ち着いたところで花火を楽しみたくて、数年前に歩いていると川辺にあるスポットを見つけた。それ以来、別行動でも花火が始まるとそこに皆が集まる。エラクゥス先生との約束もそこでの待ち合わせだ。
「後一時間ちょっとだけど、どうする?」
アクアとテラは視線を交わして、テラはただ肩をすくめる。
祭に食べ物屋は非常に多いのは確かだが他の店もある。さっきの金魚すくいはその一つで、またの一つは今アクアが見ている小物屋だ。色々な形のお守りやストラップが綺麗にならんでおり、アクアはそれらを見つめる。彼女の目を惹いたのは星形のお守り。チェイン付きで鞄から簡単につけることが出来る。大きさはそれ程ではなく掌に収めるくらいなもので、湖を思わせる深みのある蒼い硝子で出来ている。その隣に色違いのものがある。深い森にいるような緑色のも光る金のもあって、アクアはそれを見つけた時点でもうお金を袋から出していた。
買ったお守りを袖の奥にしまい、振り返るとテラを探すがどこにも姿がない。背の高い彼は大抵見つかりやすいのに。
「アクア?」
テラはアクアに後ろから声を書ける。彼女が振り返るも前に、テラは何かを差し出していた。赤い何かから甘い香りが漂ってくる。
「――林檎飴?」
「ああ、これはお礼だ」
そう言われるとアクアは林檎飴を受け取るしかなかった。灯籠のあかりでテラの顔は少しだけ火照っているように見えて、アクアは内心で微笑んだ。テラの不器用さは彼の魅力の一つでもある。真面目すぎるというよりは子供の純粋な心を持っている。もう立派な大人に見えるのに。
アクアは赤い飴を見つめて、テラに微笑みかけた。
「じゃ、私もお礼しないとね」
アクアが近くの屋台で林檎飴を一本下さいと注文する。店番の人は彼女が手にしている林檎飴を目にして首を傾げたが、新しく一本を作った。それをテラに渡すと彼は反応に困った表情をする。
「こ、これは……ありがとう」
彼が買って来たものと同じなのに動揺しているらしい。戦闘に挑もうとしているような視線で林檎をじっと見つめても齧ることはなかった。でも喜んでいるような気がした。
「――他のところを見て回ろう」
街全体を巻き込む祭はさすがに大きく色々なものがある。太鼓踊りをやっている所や子供向けの時代劇を観賞しながら進んだ。


「まっ―て!――待って!」
子供の高い声が宙に響き渡る。
「待たないよ!男の勝負だろ?」
「は―、はや・・・、すぎ!――リク!」
少し人混みが薄くなっている所から一人の少年が走り出てくる。小学生くらいに見えるその少年は珍しい髪をしていて、周囲の灯籠が照らしたのは月の明のような銀色だ。頭の上に付けた祭の面は大きい黒い耳のネズミの形をしている。彼は人々の間を一目散に走り、上手に誰ともぶつけずに直進できる。銀髪の男の子を追いかけていくもう一人の子供にそんなことが叶わなかった。
「あぁっ―――!」
軽い衝撃がテラの身体を足から広がり、彼が視線を落とすと茶髪の男の子が転んでいた。
「すまない、大丈夫か?」
リクと呼ばれた少年は友達が転んだと気づききびすを返した。
「ソラ!平気?怪我は?」
ソラはゆっくりと起き上がる。肘にかすり傷が出来て血がにじみ出していて、それを抑えながら彼は笑う。どこか痛そうな笑いだ。
「うん、大丈夫」
「ごめんなさい、お兄さん」
リクは友達を心配しながらも礼儀を忘れず、ソラの代わりに謝る。
「いや、おれも悪かったと思ってる」
膝をついたテラの目に映ったのは涙を浮かんでいるソラの青い瞳だった。平気なふりをしていても、小石ばかりの上に転ぶと子供に相当痛いはずだ。そんなことを口にも出さないところも偉いとテラは感心する。
「これを、お詫びに持っていてくれ」
ふっと思いついたことでテラはアクアからもらった金魚袋を差し出す。透明なビニル袋に一匹の白い金魚が元気よく狭い空間をぐるぐると回っている。ソラという少年はその金魚に微笑みかけたが、テラが手にしている飴に指をさす。
「あれがいい」
「ソラ!」
リクは苦笑してソラの頭をぽんと叩く。
「いたっ。冗談だって、リク。――え?本当にくれるの?」
ソラはどこかヴェンに似ているとテラは思い、気がつくと彼はソラの頭をぐしゃぐしゃにしていた。林檎飴を差し出すとソラの瞳は輝いたように見える。そんなソラの様子を、もう一人の少年は呆れ半分で静かに見守っている。



「おれはテラ。君たちは、リクと、ソラか」
赤と青の浴衣を着ているこの少年たちは対照的だけど、見ていると懐かしく感じる。
「こんな所で走るのは危ないから、気をつけてな」
「はーい!ありがとう、お兄さん」
ソラは素直にそう答えたが、リクは力強くうなずいただけだ。その後二人はお互いを、押合い圧し合いしながらも去っていき、テラはその様子を見送った。
「おまたせ」
アクアは繊細な足取りでテラに近づいて声を上げる。
「あれ、林檎は?もう食べた?」
「それは……」
今更ながらも買って頂いたものを勝手にあげたことに罪悪感を感じるテラだったが、状況を話すことにした。
「私も似たようなことあったよ」
アクアは小さな微笑を浮べて説明する。テラのところに戻ろうとした時に、彼女の耳に静かな泣き声が届いた。迷子になっていたらしい小さな女の子が樹の下で泣いていたらアクアは放っておくことは出来なかった。カイリというその子のおばあさんを探しに行こうと決めた時に、彼女のおばあさんがちょっど通りかかった。別れ際に何故かアクアはテラからもらった林檎飴をカイリにあげた。カイリの喜んでいる顔を見てすごく嬉しかった。
歩きながらその話を聞いていたテラは笑う。
「同じだな、俺たち」
アクアは微笑み返す。
「もう、家族だから、似ても仕方ないでしょ」


夜は旗のように大気を蓋い、海底のごとく暗い夜空に星がきらきらと輝いている。その小さな光の塊はどこか儚く見えるが無数に夜空に広がっている。それに重ねて火の花が空に打上げられてバンっと大きい音を立て宙に散らす。鮮やかで綺麗な花火は夜を一瞬々月のように明るく照らし、次の瞬間消えてゆく。でも夜は完全に落ちることはなかった。花火は色々な形で、色々なデザインで、暗い大気を彩らせる。
「うつくしい……」
その感想しかなく、静寂な川辺で家族となった人々は静かに花火を仰いでいる。
一瞬だけでもその時をいっしょに過ごせることが大事だ。あえて口には出すことはなかったが、隣に大切な人がいるだけで幸せがある。その川辺に座っていた皆はそう思っている。
普段とは違う祝日とは、いいものだ。
花火を眺めている少女はそう考えた。そして浴衣の袖にしまい込んでいるお守りにそっと触れながら、小さなものだけど自分たちの絆を表して欲しいと願う。




Thank you to everyone who participated in this really winged project!!! I'm so sorry that I copped out at the end!