コルンバ 【Columba】
Columba
はと座
(columba から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/10 09:52 UTC 版)
| Columba | |
|---|---|
| |
|
| 属格形 | Columbae |
| 略符 | Col |
| 発音 | 英語発音: [kəˈlʌmbə]、属格:/kəˈlʌmbiː/ |
| 象徴 | 鳩[1][2] |
| 概略位置:赤経 | 05h 03m 53.8665s - 06h 39m 36.9263s[3] |
| 概略位置:赤緯 | −27°.0772038 - −43°.1116486[3] |
| 20時正中 | 2月上旬[4] |
| 広さ | 270.184平方度[5] (54位) |
| バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 |
18 |
| 3.0等より明るい恒星数 | 1 |
| 最輝星 | α Col(2.65等) |
| メシエ天体数 | 0[6] |
| 確定流星群 | 0[7] |
| 隣接する星座 | うさぎ座 ちょうこくぐ座 がか座 とも座 おおいぬ座 |
はと座(はとざ、ラテン語: Columba)は、現代の88星座の1つ[1][2]。16世紀末に考案された新しい星座で、ノアの方舟の伝承に登場するハトをモチーフとしている[2]。おおいぬ座の南西、うさぎ座の南に位置している。
特徴
北東をおおいぬ座、北をうさぎ座、西をちょうこくぐ座、南をがか座、南東をとも座に囲まれている[8]。20時正中は2月下旬頃[4]で、北半球では冬の星座とされ[9]、晩夏から晩春にかけて観ることができる[8]。赤緯−27°.08 を北端としているため、人類が居住しているほぼ全ての地域から星座の一部を観ることができる[8]。一方、南端は−43°.11 と天の南極に近いため、北緯46°.9以北の地域[注 1]からは星座の全体を観ることができない[8]。
由来と歴史
かつては「フランスの天文学者オギュスタン・ロワーエによって1679年に設定された」とする説が流布されていた[10][11]が、近世星座史の研究が進んだ2010年代以降は、16世紀後半のオランダの天文学者で地図製作者のペトルス・プランチウスが考案したものとされている[2][12]。プランチウスは、1592年に大きな壁掛け地図を製作した際、地図の脇に描いた小さな星図の中でおおいぬ座の南西に Columba Nohæ(ノアのハト)と題した鳥の星座を描いた[2]。プランチウスは、1598年に製作した天球儀の上にも Columba Noha と命名したオリーブの枝をくわえたハトの星座を描いた[2]。このハトの星座に使われた星は、2世紀頃の古代ローマの学者クラウディオス・プトレマイオスが著した天文書『マテーマティケー・シュンタクシス (古希: Μαθηματικὴ σύνταξις)』、いわゆる『アルマゲスト』では「おおいぬ座の星ではあるが、星座を形作らない星」とされた星々であった[2][13]。
オランダの天文学者で地図製作者のウィレム・ブラウは、プランチウスやヨドクス・ホンディウスの天球儀から星の位置をコピーして1602年に製作した天球儀上に、オリーブをくわえてアルゴ船に向かって飛ぶハトの姿を描き、それに「ノアのハト」を意味する Columba Noë という星座名を記した[14]。そしてアルゴ座には「Argo Navis, Arca Noë(アルゴ船、ノアの方舟)」という名称を付け、このハトが旧約聖書創世記で語られるノアの方舟の伝承に登場する、ノアに大洪水が退いたことを知らせたハトであることを明らかに示した[14]。ドイツの法律家ヨハン・バイエルが1603年に著した天文書『ウラノメトリア』でははと座は独立した星座として扱われなかったが、Canis Major(おおいぬ座)の星図の中で犬の右下に鳩の姿が描かれ[15]、星表ではυの符号をつけて「Recentioribus Columba(「最近は鳩」)」と解説された[16]。同年にオランダの航海士フレデリック・デ・ハウトマンが製作したオランダ語のマレー語辞典に添付した星表では、オランダ語で De Duyve met den Olijftak (オリーブを咥えたハト)という名称で独立した星座として扱われた。さらには考案者のプランチウスも、1613年に製作した天球儀に「ノアのハト」を意味する Columba Noachi と記し、これがノアの方舟の伝承に登場するハトであることを示している[2]。
初めて星図と星表の両方にハトの星座を記したのは、ドイツの天文学者ヤコブス・バルチウスであった。バルチウスは、1624年に出版した天文書『Usus astronomicus planisphaerii stellati』の中で、星座絵こそ描かなかったものの星図と星表の両方に Columba と記した[17][18]。またバルチウスは、ユリウス・シラーがバイエルと共同製作を進めていた星図『Coelum Stellatum Christianum』を1627年に出版した[19]。この星図は、『ウラノメトリア』を最新の観測記録にアップデートするとともに、全ての星座をキリスト教に由来した事物に置き換えようという壮大な目論見の下にシラーとバイエルが製作を進めていたもので、完成を前に両名が相次いで他界したため、バルチウスが後を引き継いで出版したものであった[19]。この星図でも、オリーブを咥えてノアの方舟に向かって飛ぶ Columbæ Noachi(ノアのハト)として描かれていた[20]。
- 17世紀初めに描かれたはと座。
はと座の星に振られたバイエル符号風のギリシア文字の符号は、18世紀フランスの天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユが振ったものが元となっている[2]。ラカイユは、彼の死後1763年に刊行された天文書『Coelum_australe_stelliferum』の中で、はと座の星16個に α から σ までのギリシア文字を振ったが、このうちζ・ι・ξは使わなかった[21]。ラカイユが付した符号は、19世紀イギリスの天文学者フランシス・ベイリーが編纂した『The Catalogue of Stars of the British Association for the Advancement of Science』(1845年)に全面的に引き継がれた[22]。さらに、アメリカの天文学者ベンジャミン・グールドが1879年に出版した『Uranometria Argentina』で星座の境界線を引き直した際に新たに ξ を加えた[23]。この間、ドイツの天文学者ヨハン・ボーデが、1801年に出版した星図『ウラノグラフィア』と星表『Allgemeine Beschreibung und Nachweisung der Gestirne』で独自にψまで拡張した符号を付けていた[24][25]が、これらは現在使われていない[8]。
1922年5月にローマで開催された国際天文学連合 (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Columba、略称は Col と正式に定められた[26][27]
中国
- 『古今図書集成』に描かれたはと座の星
-
參宿圖。下部にある「屎」は、はと座μ星と対応している。
-
南河三星北河三星圖。右下に「丈人」・「子」・「孫」の3つの星官が並ぶ。その先にある「老人」はカノープスである。
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、はと座の星々は二十八宿の西方白虎七宿の第七宿「参宿」と南方朱雀七宿の第一宿「井宿」に配されていた[28][29]。
参宿では、排泄物を表す星官「屎」にμ星が充てられていた[28][29]。井宿では、α・εの2星が祖父を表す星官「丈人」に、λ・βの2星が子供を表す星官「子」に、κ・θの2星が孫を表す星官「孫」に、それぞれ配された[28][29]。
神話
この星座のモチーフとされたのは、旧約聖書『創世記』に書かれたノアの方舟の物語に登場するハトである[2]。神の起こした大洪水を逃れたノアの方舟はアララト山にとどまった。山々の頂が見えるようになってから40日後、ノアは方舟の窓を開いてカラスを放ったが、カラスは帰ってこなかった。次にハトを放ったが、ハトは止まるところを見つけられずに方舟へ戻ってきた。ノアは7日後に再びハトを放った。夕方にノアのもとへ戻ってきたハトはくちばしにオリーブの若葉を咥えていた。これによりノアは地から水がひいたことを知った。さらに7日後にもう一度ハトを放ったところ、ハトはもう帰ってこなかった[30]。
呼称と方言
学名
世界で共通して使用されるラテン語の学名では、主格は Columba、属格は Columbae、略称は Col と定められている[26][27]。Columba に対応する日本語の学術用語としては「はと」という呼称が定められている[31]。現代の中国では「天のハト」を意味する天鴿座と呼ばれている[32][33]。
日本語名の変遷
明治初期の1874年(明治7年)に文部省より出版された関藤成緒の天文書『星学捷径』では、「コロンバ」として紹介された[34]。また、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では、上巻でラテン語のカタカナ書き「コロムバノアキ」と英語のカタカナ書き「ノアスドーブ」が[35]、下巻で「諾亜鳩宿(コロムバノアキ)」と星座名が紹介されていた[36]。これらから30年ほど時代を下った明治後期には既に「鳩」という呼称が使われていたことが、1908年(明治41年)12月の日本天文学会の会誌『天文月報』第1巻第9号で確認できる[37]。1910年(明治43年)2月に訳語が改訂された際もこの「鳩」がそのまま使用された[38]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「鳩(はと)」として引き継がれ[39]、1944年(昭和19年)に学術研究会議が天文学用語の見直しを行った際も「鳩(はと)」が継続して採用された[40]。戦後の1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[41]とした。このときに、Columba の訳名は「はと」と定まり[42]、以降この呼び名が継続して用いられている。
これに対して、天文同好会[注 2]の山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では星座名 Columba に対して「はと(鳩)」の訳語を充てていた[44]が、1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号からは星座名を Columba Noae、訳名を「ノアの鳩」と変更し[45]、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた[46]。
主な天体
恒星
2026年1月現在、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ(IAU WGSN) によって4個の恒星に固有名が認証されている[47]。
- α星
- 太陽系から約286 光年の距離にある、見かけの明るさ2.65 等、スペクトル型 B9Ve のB型主系列星で、3等星[48]。はと座で最も明るく見える恒星。分光スペクトル中に強い水素の輝線が見られるBe星に分類されている[48]。アラビア語でジュズカケバトを意味する言葉に由来する[49]「ファクト[8](Phact[47])」という固有名が認証されている。
- β星
- 太陽系から約88 光年の距離にある、見かけの明るさ3.12 等、スペクトル型 K1III_CN+1 の赤色巨星で、3等星[50]。アラビア語で「重さ」を意味する言葉に由来する[51]「ワズン[8](Wazn[47])」という固有名が認証されている。
- θ星
- 太陽系から約782 光年の距離にある、見かけの明るさ4.994等、スペクトル型B7IIIの青色巨星で、5等星[52]。アラビア語で「孤独なものたち」を意味する言葉に由来する「エルクルド[8](Elkurud[47])」という固有名が認証されている。
- WASP-63
- 太陽系から約942 光年の距離にある、見かけの明るさ11.15 等、スペクトル型 G8 の11等星[53]。2011年に木星の0.38倍の質量を持つ太陽系外惑星が発見された[54]。2022年に開催されたIAUの太陽系外惑星命名キャンペーン「NameExoWorlds 2022」でクロアチア共和国のグループからの提案が採用され、主星は Kosjenka、太陽系外惑星は Regoč と命名された[55]。
このほか、以下の恒星が知られている。
- μ星
- 太陽系から約1890 光年の距離にある、見かけの明るさ5.18 等、スペクトル型 O9.5V のO型主系列星で、5等星[56]。逃走星として知られる。「約250万年前にこの星とオリオン座ι星Bの連星系とぎょしゃ座AE星とオリオン座ι星Aの連星系が互いに接近して重力相互作用し合った結果、この星とぎょしゃ座AE星が弾き出され、オリオン座ι星AとBが連星として現在の位置に残った」とする説が出されている[57]。
星団・星雲・銀河
いわゆる「メシエ天体」は1つもないが、パトリック・ムーアがアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだコールドウェルカタログに選ばれた球状星団が1つある[58]。
- NGC 1851
- 太陽系から約3万7000 光年の距離にある球状星団[59]。コールドウェルカタログの73番に選ばれている[58]。1826年5月29日にスコットランド生まれのオーストラリアの天文学者ジェームス・ダンロップが発見した[60]。
流星群
IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされた流星群のうち、はと座の名前を冠するものは1つもない[7]。
脚注
注釈
出典
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参考文献
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