ゆ‐の‐はな【湯の花/湯の華】
湯の花
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/12/05 04:03 UTC 版)
湯の花(ゆのはな)とは、温泉の不溶性成分が析出・沈殿したものを指す[1]。「湯の花」以外にも、湯花、湯の華、湯華など、複数の表記がある。一般に入浴剤などの用途で採取・販売されている。
概要
一般的には硫黄華や石灰華など温泉水から析出する不溶性物質のことをいう[2]。高温で湧出した源泉が大気に接触すると、温度差による冷却(溶解度の減少)、溶媒成分の蒸発、酸素との反応などにより源泉中の温泉成分や混在していた物質の沈殿が発生する。この不溶性沈殿が湯の花である[1]。
湯の花は源泉の泉質によって成分が異なり、主成分に応じて硫黄華、硫酸塩華、石灰華、珪華などに分類される[1]。
- 硫黄華
- 酸性泉に特有の硫化水素の酸化で生じる遊離硫黄を主成分とする黄色沈殿[3]。
- 硫化物
- 酸性泉に特有の硫化砒素などの沈殿物[3]。
- 硫酸塩
- 石膏、硬石膏、重晶石、明礬石、鉄明礬石などの沈殿物[3]。
- 鉄華
- 水和酸化鉄を主成分とする褐色の温泉沈殿物[3]。沈殿型褐鉄鉱と成因の共通点が多く、褐鉄鉱と関連づけた研究が多い[3]。
- 珪華
- 高温泉(多くは沸騰泉)が湧出後に冷却する過程で生じる不純な水和シリカ[3]。
- 石灰華
- 化学的には炭酸カルシウム、鉱物学的には方解石、あられ石またはこれらの混合物を主成分とする温泉沈殿物[3]。
温泉地では、鉄分に由来する赤、炭酸カルシウムの白、硫黄の黄色など様々な湯の花が見られることがある[4]。
また、湯の花を集めて包装したものは、温泉地における土産の定番として広く流通しており、多くの温泉街で見かけることができる。
以上のように一般的には湯の花は温泉水から析出する不溶性物質のことであるが、別府温泉明礬地区で製造されている湯の花は青粘土と呼ばれる黄鉄鉱を含む粘土に噴気を当てたもので、その組成はハロトリカイトやアルノーゲンからなる蒸発残留岩類似の物質である[2]。
採取方法
天然の湯の花の採取にはいくつかの方法がある。
草津温泉の湯の花
草津温泉では湯の花の採取が行われ、近世からは江戸でも販売されていた[5]。草津温泉での採取方法は湯畑等に沈殿したものを手作業で採取する方法である[5]。
2006年末に、草津温泉地区で天然の湯の花(湯畑で採集されたもの)として販売されていた湯の花が、実際には原油から製造された硫黄に炭酸カルシウムを混ぜたものであったことが判明し、公正取引委員会から排除命令を受けた[6]。しかしその後も、人工の入浴剤がパッケージを変更して販売されているのではないかという指摘がある[7]。なお、2017年3月現在、草津町が販売している湯の花は、上面に赤字で「草津温泉 湯の花」と印字され、発売元が「群馬県草津町」と表示されている円柱状のプラスチック容器に入ったもの(内容量:95g・小売価格:1,400円)である[8]。これは年間約5,000個ほどしか販売されていない[7]。
別府明礬温泉の湯の花
大分県別府市の明礬温泉では、地熱地帯に「湯の花小屋」と呼ばれるわらぶき小屋を建て、小屋の中に青粘土を敷き詰め、粘土から析出し結晶化した湯の花やミョウバン(明礬)を収穫する方法が採られている[9]。この方法により製造される薬用湯の花は、全国で唯一医薬部外品指定であり生産量も多く全国に広く流通している。
湯の花の生成と採取
地熱地帯より噴出した硫気ガスは、硫化水素や二酸化硫黄を含んでいる。これらが酸素に触れると過酸化硫黄となり、さらに水蒸気と反応して硫酸となる。敷き詰められた青粘土の表面付近では硫酸の濃度が上昇し、それに伴って粘土中の鉄やアルミニウムが溶出されてくる。これがさらに乾燥すると、アルミニウム硫酸塩(アルノーゲン)や鉄・アルミニウム硫酸塩(ハロトリカイト)を主成分とする湯の花が針状結晶として得られる[10][11]。
青粘土を敷いてから5-6回程度は湯の花が採取できる。粘土中の鉄が減ってくるとアルノーゲンの割合が増し、さらにアルミニウムも不足すると二酸化ケイ素の析出が優占するようになる。こうして用済みとなった青粘土は廃棄され、新たな粘土と交換される[10][11]。
歴史
この明礬の製造は、江戸時代の1664年(寛文4年)、渡辺五郎右衛門が森藩領の豊後国速見郡鶴見村の照湯にて初めて成功した。1725年(享保10年)には脇屋儀助が同じ鶴見村の明礬温泉にて本格的な生産をおこない、さらに隣接する幕府領野田村でも生産が行われ、産出量はこれを合わせると全国の70%を占めた。火薬の原料にもなる明礬は、1730年(享保15年)からは幕府の専売品として明礬会所が設けられ、独占的な取引がおこなわれていた。明治時代以降、中国産の安価な明礬が流通するようになると、専ら湯の花が製造されるようになった[9]。
そして最盛期の昭和初期には約300棟に上ったという湯の花小屋も今では約20棟に減少したが、長年受け継がれてきたこの伝統的な湯の花製造技術は、1968年(昭和43年)に「別府明礬温泉の湯の花製造技術」として別府市指定の無形文化財に指定され、2006年(平成18年)には同名で国の重要無形民俗文化財にも指定されている[12][9]。また、現在はこの伝統製法を受け継いできた脇屋が運営する「みょうばん湯の里」にて湯の花の製造過程が見学できるようになっている。
利用
湯の花は温泉成分を使った土産物として販売されている[5]。入浴剤として用いる場合、単体の硫黄や金属の硫化物を含む湯の花は風呂釜を傷める。対して、炭酸カルシウムや硫酸ナトリウム、硫酸カルシウムなどを主成分とする湯の花は腐食性が低い。そのため、ボイラーなどによる追い焚き機能を有した浴槽で湯の花を使いたい場合は、その成分を事前に確認する必要がある[13]。
湯の花はその硫黄分を生かし、古くはハチの巣の下で燃やして蜂の巣・蜂の子採りに使われたり、モグラの穴にかけてモグラよけ、林業の毒虫よけなど忌避物質として利用された。他にも火薬や電柱の碍子の中身、ガラス研磨といった無機的な利用や、かんぴょうの漂白、漬物の味調整、治療薬などとしての利用法があった。[要出典]
管理上の問題
湯の花は温泉水の物理的・化学的変化によって生成される浮遊物や沈殿物で、温泉施設の維持管理では井戸内や配管内に付着して温泉水の生産量や給湯量を減少させ、深刻な場合には井戸や配管を閉塞させることもある[4]。そのため保守管理的手法(水による希釈、沈殿槽の設置、浚渫、配管の交換)、電磁気的処理(電気分解、磁界照射)、化学的処理(薬剤添加)などによって対策が行われる[4]。
脚注
- ^ a b c 上野ら(2008).
- ^ a b 一國雅巳、加藤暢浩、大谷大二郎「別府温泉明礬地区における湯の花の生成:化学的考察」『温泉化学』第59巻、2009年、88-96頁。
- ^ a b c d e f g 一国雅巳「温泉沈殿物」『温泉化学』第24巻第4号、1973年、88-96頁。
- ^ a b c 「地熱の湯あか(スケール) (PDF)」『産総研』。2025年11月29日閲覧。
- ^ a b c 「3章 日本の温泉文化とその担い手 (PDF)」『群馬県』。2025年11月29日閲覧。
- ^ “草津温泉地区における入浴剤販売業者4社に対する排除命令について”. 公正取引委員会 (2006年12月14日). 2009年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月25日閲覧。
- ^ a b “草津温泉「湯の花」御愛顧の皆々様へ”. 草津町 (2007年7月24日). 2010年7月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月25日閲覧。
- ^ “湯の花の容器の変更について”. 草津町 (2017年3月21日). 2023年5月25日閲覧。
- ^ a b c 別府明礬温泉の湯の花製造技術 - 国指定文化財等データベース
- ^ a b 恒松(2005).
- ^ a b 恒松(2007).
- ^ 指定年月日:2006年3月15日、保護団体名:明礬温泉湯の花製造技術保存会
- ^ “湯の花は風呂釜を傷めるイオウじゃないのですか?”. ヤングビーナス薬品工業株式会社. 2023年5月25日閲覧。
参考文献
- 恒松栖「別府における伝統産業湯の花」『別府大学短期大学部紀要』第24巻、2005年、1-11頁、 NAID 110006141439。
- 一國雅巳、加藤暢浩、大谷大二郎「別府温泉明礬地区における湯の花の生成 : 化学的考察」(PDF)『温泉科学』第59巻第2号、2009年、88-96頁、 NAID 10025546106、NDLJP:8747631。
- 恒松栖「湯の花小屋のひみつ」『別府史談』第20巻、2007年、53-65頁、 NAID 120001798443。
- 上野禎一、寺山亜沙実、向野美由紀、秦照美、岸本典子「湯の花の鉱物学的研究、その1」『福岡教育大学紀要』第57巻第3号、2008年、25-40頁、 NAID 120006890959。
関連項目
外部リンク
「湯の花」の例文・使い方・用例・文例
- 湯の花
湯の花と同じ種類の言葉
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