有機型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/03/30 17:53 UTC 版)
2009年に登場した有機レドックスフロー電池は、数十年前に開発されたバナジウムレドックスフロー電池や Zn-Br2 電池をはじめとする従来型の無機水溶液レドックスフロー電池に存在する、大規模な商用化を妨げている主な欠点を乗り越える大きな可能性を秘めている。有機レドックスフロー電池の主な利点は酸化還元活性種の酸化還元物性を調節できるという点にある。 有機レドックスフロー電池はさらに Aqueous Organic Redox Flow Battery (AORFB) と Non-aqueous Organic Redox Flow Battery (NAORFB) に分類できる。AORFB では酸化還元活性種を溶かす電解液の溶媒に水が用いられ、NAORFB では有機溶媒が用いられる。有機酸化還元活性種を1つ使うのか2つ使うのかに基いて AORFB と NAORFB はさらに全有機システムと無機材料も用いる半有機システムに分けられる。AORFB は NAORFB よりも先に概念実証が行われている。大規模エネルギー貯蔵施設としては、AORFB のほうが NAORFB よりも低コストかつ大電流、大出力で、さらに安全性も優れているので適している。NAORFB は AORFB よりもエネルギー密度が高いので限られた用途には有用かもしれないが、安全性や有機溶媒のコスト、ラジカル誘導副反応、電解質クロスオーバー、限られた寿命などの問題点を克服する必要がある。以下ではAORFBに関する代表的な研究を主に扱う。 キノンを用いたAORFBがいくつか存在する。ある研究では、酸性AORFBに 1,2-ジヒドロベンゾキノン-3,5-ジスルホン酸 (BQDS) と 1,4-ジヒドロベンゾキノン-2-スルホン酸 (BQS) をカソードとして、伝統的な Pb/PbSO4 アノードが用いられている。これら最初のAORFBはカソード側にのみ有機酸化還元活性種を用いているので版有機型である。キノンは伝統的カソード材料に比べて2倍の電荷をうけとるので、体積あたり2倍のエネルギーを貯蔵できる可能性がある。 別のキノン、9,10-アントラキノン-2,7-ジスルホン酸 (AQDS) も評価されている。AQDSは硫酸中、ガラス状炭素電極上で高速な2電子/2プロトン還元反応を起こす。安価な炭素電極を用い、キノン/ヒドロキノンと Br2/Br− レドックス対を組み合わせた水系フロー電池は、7003600000000000000♠6000 W/(m2) を超えるピーク電流出力密度を 7004130000000000000♠13000 A/(m2) において達成している。サイクル特性は毎サイクル 6999990000000000000♠>99% の容量を保持する。体積エネルギー密度は 7007720000000000000♠20 Wh/l を超える。アントラキノン-2-スルホン酸とアントラキノン-2,6-ジスルホン酸を負極、1,2-ジヒドロベンゾキノン- 3,5-ジスルホン酸を正極に使えば、有害な Br2 の使用を避けられる。この電池は劣化なしに 1,000 サイクル保つとされるが、公式なデータは公開されていない。この全有機システムは頑健性があるだろうと見込まれているものの、セル電圧がおよそ 6999550000000000000♠0.55 V と低く、エネルギー密度も 7007144000000000000♠<4 Wh/L と低い。 臭化水素酸の代りに、ずっと毒性の低いアルカリ溶液 (1M KOH) とフェロシアン化物(英語版)を使う系もある。pH が高いので腐食性が低く、安価なポリマータンクを使うことができる。膜中の電気抵抗の増加は電圧の上昇により保証される。セル電圧は 7000120000000000000♠1.2 V である。セル効率は 99% を超え、ラウンドトリップ効率は 84% と計測されている。この電池は最低でも 1,000 サイクルの寿命を持つと予想されている。理論エネルギー密度は 7007684000000000000♠19 Wh/L である。フェロシアン化物の高 pH KOH溶液中において Fe(OH)2 や Fe(OH)3 を生じずに化学的に安定かどうかはスケールアップ前に検証する必要がある。 メチルビオロゲン(MV)をアノード液として、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)をカソード液として用い、塩化ナトリウムと低コスト陰イオン交換膜を使って充放電を可能とした有機AORFBも実証されている。このMV/TEMPOシステムの最高セル電圧は 1.25 V で、報告されているAORFBの中で最低かもしれないコスト ($180/kWh) を達成している。水系電解液は既存の設備を変更することなく使えるドロップインリプレースメント(交換液)として設計されている。600ミリワット級の試作電池は安定で、100サイクル後も 7002200000000000000♠20–100 mA/cm2 の範囲でほぼ100パーセントの効率を達成し、最高性能を達成できる 7002400000000000000♠40–50 mA/cm2 では初期電圧の70%を保持する。 この研究の重要な点は、中性のAORFBは酸性またはアルカリ性AORFBよりも環境にやさしく、かつ腐食性の酸性またはアルカリ性のRFBに匹敵する電気化学的性能を発揮しているという点である。MV/TEMPO AORFB のエネルギー密度 8.4 Wh/L であり、制限要因はTEMPO側にある。次のステップは、MV(水への溶解度およそ3.5M, 93.8 Ah/L)に匹敵するエネルギー密度を持つカソード液の特定である。 酸化還元活性を持つ有機ポリマーに基いたフロー電池設計のひとつとして、部分構造としてメチルビオロゲンを持った化合物と、TEMPOに加えて半透膜を用いるものがある。ポリマーベースのレドックスフロー電池 (pRFB) では、官能基を導入した(アクリルガラスや発泡スチロールに似た)高分子が水に溶かしてカソード側だけでなくアノード側活性物質としても用いられる。そのため、バナジウムと硫酸などの金属および腐食性の高い電解質を避けることができ、単純な半透膜を利用することができる。この形のフロー電池においてカソードとアノードを分けている膜は濾過器のように大きな「スパゲッティ状」高分子を通さず、低分子対イオンを通すだけでよく、従来型で用いられていたイオン交換膜に比べて製造が簡単でコストも低く抑えられる。この設計により従来のNafiron膜の高いコストを解決できる可能性があるものの、酸化還元活性をもちつつ水への溶解度の高いポリマーを設計、合成するという問題は簡単ではない。
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