シクリッド【cichlid】
シクリッド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/07 18:19 UTC 版)
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| シクリッド科 | |||||||||||||||||||||
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マラウイ湖産のシクリッドの1種 Aulonocara jacobfreibergi
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| 分類(Eschmeyer's Catalog[1]) | |||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Cichlidae Heckel, 1840 |
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| 和名 | |||||||||||||||||||||
| カワスズメ科 | |||||||||||||||||||||
| 英名 | |||||||||||||||||||||
| Cichlid | |||||||||||||||||||||
| 亜科 | |||||||||||||||||||||
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含まれる属(genus)の一覧については、本文参照を参照。 |
シクリッド(英: Cichlid)または(広義の)カワスズメは、カワスズメ目カワスズメ科 Cichlidae に分類される魚の総称[2]。科名をシクリッド科とすることもある。
概要
中央アメリカから南アメリカにかけてと、マダガスカルを含むアフリカから中東、南アジアまで分布する。淡水魚・汽水魚が少なくとも約1,300種以上確認されている。熱帯魚のなかでは獰猛な種として知られ、他種との混泳は注意を必要とする。
ティラピアなどは水産上重要である。エンゼルフィッシュ、ディスカスなど色彩の美しい種は、観賞用熱帯魚として流通する。
繁殖形態が特徴的で、よく発達した行動様式をもつ。シクリッドの繁殖形態には、大きく分けて3種類があり、
- オスまたはメスが産卵された卵を口の中に入れ、口内で卵が孵化するタイプ
- メスが水中にあるものに産卵し、これを親が守るタイプ
- メスが水中にあるものに産卵し、孵化した稚魚を親の口内で育てるタイプ
などがある。
口の中で卵や稚魚を育てることを口内保育(マウスブルーディング、mouth brooding)と呼び、そのような習性を持つ魚をマウスブルーダーと呼ぶ。
知られている種の大部分が東アフリカ(900種以上)と中央アメリカ(100種程度)、南アメリカ(300種程度)に分布しており、これらの地域ではかつて爆発的に種分化が進んだことが想定されている。
ティラピアなどの一部の種は、日本に移入され、養殖されたり、外来種として定着しているものもある。
食性の多様性
咽頭顎の機能的分化に伴い、シクリッドは極めて多様な食性を獲得している。一般的な藻類食やプランクトン食、魚食に加え、以下のような特異な食性に特化した種が知られている[3]。
- 鱗食(りんしょく)
- 生きた他魚の鱗を剥ぎ取って食べる習性。タンガニーカ湖のペリソダス・ミクロレピス(Perissodus microlepis)などが有名である。獲物の左右どちら側から襲うかに応じて口が左右どちらかに曲がっており、俗に『右利き』『左利き』と呼ばれる。この「右利きの個体」と「左利きの個体」の比率は、被食者の警戒行動との相互作用による頻度依存選択によって均衡が保たれていることが、日本の研究者(堀道雄)らによって明らかにされている[4]。
- 他魚の卵・稚魚食
- 口内保育(マウスブルーディング)を行っている他のシクリッドの口に体当たりをして稚魚を吐き出させたり、口吻を押し当てて吸い出して捕食する(Paedophagy)。
- 掃除行動
- 他魚の体表に付いた寄生虫や死皮を食べる。
- 貝食
- 強力な咽頭顎を用いて、巻貝の殻を噛み砕いて中身を食べる。
解剖学と外観
シクリッドの進化と多様化を語る上で最も重要な解剖学的特徴として、咽頭(喉の奥)にある咽頭顎(いんとうがく、pharyngeal jaw)の発達が挙げられる。多くの魚類は鰓(えら)の弓に歯を持つが、シクリッドの下咽頭骨は左右が癒合して一つの骨になっており、特殊な筋肉構造によって強力かつ複雑に動かすことができる[5]。
これにより、シクリッドは「顎(本来の口)で獲物を捕らえ、咽頭顎で噛み砕いて処理する」という機能的分離(Functional decoupling)を獲得した。本来の顎は捕食のために特化し、咽頭顎は摂食処理のために特化することで、硬い貝殻を砕いたり、岩の上の藻類を削ぎ取ったりといった、多様な食性への適応が可能となった。この咽頭顎の進化が、後述する爆発的な適応放散の重要な要因の一つと考えられている[5]。
学名に対応する日本語表記と分類上の再編
Cichliformes(カワスズメ目)の名称は、模式属である Cichla 属に、ラテン語で「〜の形をした」「〜に似た」を意味する接尾辞 -formes を組み合わせたもので、「シクリッド型の魚類」を意味する。
分子系統解析の進展により、従来広義に用いられてきたスズキ目(Perciformes)は単系統ではないことが明らかとなり、多くの科が系統的類縁関係に基づいて再編成された。この再編の過程において、従来スズキ目に含められていたカワスズメ科(Cichlidae)は、近年の一部の分類体系ではカワスズメ目(Cichliformes)として独立した目に位置づけられている。
日本語では、シクリッド類が淡水に生息し、体形や行動がスズメダイに似ていると認識されたことから、「カワスズメ(川スズメ)」と呼ばれてきた。
カワスズメ科 Cichlidae は日本語では標準的に「カワスズメ科」と呼ばれる一方、英語名 cichlid に由来して「シクリッド科」と表記・呼称されることもある。また、模式属である Cichla 属は正式な学名上の属名であり、日本語では「キクラ属」とされるが、文脈によっては便宜的に「シクリッド属」と呼ばれる場合もある。
進化と適応放散
シクリッドは脊椎動物の中で最も急速に種の分化(適応放散)を遂げたグループの一つとして知られる。特に東アフリカの三大湖(ヴィクトリア湖、マラウイ湖、タンガニーカ湖)においては、それぞれごく少数の祖先種から、短期間のうちに数百種もの固有種が分化した。これを種群(Species flock)と呼ぶ[3]。
これらの湖では、異なる湖であっても、似たような生態的地位(ニッチ)にある種同士が、独立して似たような体型や習性に進化する収斂進化の好例が見られる。
- タンガニーカ湖: 三大湖の中で最も古く、形態的・遺伝的に最も多様なシクリッドが生息している[6]。
- マラウイ湖: 独自の適応放散を遂げたが、タンガニーカ湖由来の系統が含まれる。
- ヴィクトリア湖: 形成が比較的新しく、生息するシクリッド(ハプロクロミス類)は、わずか1万2千年〜10万年程度という進化生物学的に見て極めて短い期間で500種以上(絶滅種含む)に分化したとされる[7]。
おもな種類
アフリカン・シクリッド - アフリカ産のシクリッドの総称
- ムブナ - マラウイ湖産の小型種のグループの現地名
- ティラピア - アジア、アフリカに分布するが、日本の温暖な地域で外来種として定着(狭義のカワスズメを含む)
- ペルヴィカクロミス・プルケール - ナイジェリア原産の小型種。別名ペルマト。
- レッドベリーティラピア Redbelly Tilapia(Coptodon zillii)- 赤い尾びれの小型ティラピア
アメリカン・シクリッド - 中南米産のシクリッドの総称。エンゼルフィッシュやディスカスなど単独で有名なグループは除く場合もある
- オスカー(アストロノータス) Astronotus ocellatus
- アイスポットシクリッド Cichla ocellaris - 現地名ツクナレ、別名ピーコックバス
- コンビクトシクリッド Amatitlania nigrofasciata
- フラミンゴシクリッド Amphilophus citrinellus
- ディスカス Symphysodon 属の2種類
- エンゼルフィッシュ Pterophyllum 属の4種類
属
以下の属の一覧は FishBase に基づくものである。ただし、本科に含まれる分類群については現在も研究が進められており、特にアフリカ大地溝帯湖群に分布するハプロクロミン類のシクリッドでは、分類の見直しが継続している。[8]
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脚注
- ^ “Eschmeyer's Catalog of Fishes Classification”. 2026年1月5日閲覧。
- ^ 中村庸夫『魚の名前』2006年 東京書籍 ISBN 4487801168
- ^ a b Kocher, Thomas D. (2004). “Adaptive evolution and explosive speciation: the cichlid fish model”. Nature Reviews Genetics 5 (4): 288–298. doi:10.1038/nrg1316. PMID 15131651.
- ^ Hori, Michio (1993). “Frequency-dependent natural selection in the handedness of scale-eating cichlid fish”. Science 260 (5105): 216–219. doi:10.1126/science.260.5105.216. PMID 17807183.
- ^ a b Liem, Karel F. (1973). “Evolutionary strategies and morphological innovations: cichlid pharyngeal jaws”. Systematic Zoology 22 (4): 425–441. doi:10.2307/2412950. JSTOR 2412950.
- ^ Salzburger, Walter; Meyer, Axel; Baric, Sanja; Verheyen, Erik; Sturmbauer, Christian (2005). “The genetic diversity of Lake Tanganyika cichlids”. BMC Evolutionary Biology 2: 1–15. doi:10.1186/1471-2148-2-14. PMC 126249. PMID 12149179.
- ^ Verheyen, Erik; Salzburger, Walter; Snoeks, Jos; Meyer, Axel (2003). “Origin of the superflock of cichlid fishes from Lake Victoria”. Science 300 (5617): 325–329. doi:10.1126/science.1080699. PMID 12690193.
- ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2006). "Cichlidae" in FishBase. April 2006 version.
- ^ a b c d Dunz, A.R.; Schliewen, U.K. (2013). “Molecular phylogeny and revised classification of the haplotilapiine cichlid fishes formerly referred to as "Tilapia"”. Molecular Phylogenetics and Evolution 68 (1): 64–80. Bibcode: 2013MolPE..68...64D. doi:10.1016/j.ympev.2013.03.015. PMID 23542002.
- ^ Murray, Alison M. (19 January 2001). “Eocene cichlid fishes from Tanzania, east Africa”. Journal of Vertebrate Paleontology 20 (4): 651–664. doi:10.1671/0272-4634(2000)020[0651:ECFFTE]2.0.CO;2. JSTOR 4524146.
- ^ a b c Malabarba, Maria C.; Malabarba, Luiz R.; López-Fernández, Hernán (2014). “On the Eocene cichlids from the Lumbrera Formation: additions and implications for the Neotropical ichthyofauna”. Journal of Vertebrate Paleontology 34 (1): 49–58. Bibcode: 2014JVPal..34...49M. doi:10.1080/02724634.2013.830021.
関連項目
外部リンク
- Kullander, Sven O. : Family Cichlidae - Cichlids from FishBase. (Ed. Froese, R. and D. Pauly. 2004, version 06/2004). - シクリッドについて
「シクリッド」の例文・使い方・用例・文例
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