目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(1/5)
(28) 第8景【現代編】ボクシング
(29) 第9景【鎌倉編】地頭・稲田(1/2)
(31) 第10景【現代編】哲学者
(32) 第11景【鎌倉編】心霊教ふたたび
(33) 第12景【現代編】裵〔ペ〕デスク
(34) 第13景【鎌倉編】刺客
(35) 第14景【現代編】守衛
(36) 第15景【鎌倉編】大団円(1/4)
(40) 第16景 鎌倉編の後始末
(41) 終景 現代編の後始末(1/3)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
(主人公「ボク」による語り)
屋敷の奥から、後藤郡司が出てきた「騒がしい、静まれ!」
静まれもなにも、荒事師も郡衙の衛士も、あらかた片付けられてしまった後だぞ。
後藤郡司は、一人の男をともなっていた。烏帽子水干、白塗りにお歯黒、都の貴族の装束だ。
後藤「頭が高い、控えおろう!」お前が言うんかい!?
後藤「任官つかまつった。こんにちから後藤佐渡目〔さどのさかん〕である!」
後藤郡司は書状を示した「非官位相当の郡司としては、異例の待遇である」
鶴御前が口を挟んだ「私が提供した資金による、朝廷への献金の成果です」
ボクは我慢ならず叫んだ「元はと言えば、信者から巻き上げたお布施だろ! お前のカネじゃない」
白塗りの男が口を開いた「うるさいですね」おじゃる言葉ではない。この物語を語るにあたって "役割語" と "方言" は、意識して使わないようにしてきた。どうせ不正確になるからだ。
白塗り「私は勅使の道路小路綾麻呂〔どうろこうじあやまろ〕である」工事現場で謝ってる看板か!
白塗り「恐れ多くも治天の君である後鳥羽上皇陛下からの院宣も携えてきた。今の日本で、いちばん偉いお方である」
白塗りもまた、書状を示した「"高田においては、すべて郡司の下知に従え" というお達しである。地頭との二重権力などという状況は、存在しないとのお墨付きだ」
ボク「そっちにも、とんでもない額のカネを使ったんだろう!」
白塗り「黙らっしゃい!」
その白塗り、後藤郡司、鶴御前の顔面が、まばゆい金色の光で照らされた。
三人は、まぶしさのあまり手で顔を覆った。
ボクは後ろを振り向いた。強い光の光源は、そっちだった。
可能な限り目を細め、状況を見守った。
捨六さん、欠七さんが、金老人の左右に寄り添っていた。
金老人の体が、みるみる大きくなった。その高さ、約5メートル。"丈六" といわれるサイズである。仏身の高さは "六十万億那由他・恒河沙由旬〔なゆた・ごうがしゃゆじゅん〕" と宇宙を覆いつくすほど巨大だと『観無量寿経』第9観に書いてあるが、方便のため人前に姿を現すときにはこのサイズに変化する。確か前者を "法身"、後者を "応身" というはず。
容貌も変化した。"三十二相・八十随形好〔はちじゅうずいぎょうこう〕" であろう。『観無量寿経』第8観。"観" は "巻" の誤変換じゃないよ、念のため。そして手に持っていた杖は消え、そのまま手のひらをこちらに向けるポーズに変わった。"来迎印" だ。
捨六さん、欠七さんの身長も、約3メートル、金老人の半分ほどの高さになった。
そして容貌も、中性的な端正なものに変化した。
頭には宝冠をかぶり、胸には瓔珞〔ようらく〕と呼ばれる胸全体を覆う飾り。いずれも純金の地に、七宝を散らした豪華なものだ。七宝というのは銀、白金、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、サファイヤ、トパーズ…数が合わない。違ったっけ?
それはともかく、脇侍の菩薩に比べて本尊はいつも法衣一枚の質素な姿であることは、注目に値すると思う。西洋画の天なる父も、そうだ。
本尊って言っちゃったけど、これは阿弥陀如来、観世音菩薩、大勢至菩薩! 弥陀三尊だ。
金老人に寄り添っていた熊野の衆は、やはり菩薩に姿を変え、雲に乗って三尊背後の中空に浮揚した。
手に手に楽器を持っている。忘れられがちな設定だが、阿弥陀さまは音楽が大好きなのだ。『阿弥陀経』に2度にわたって記述がある。
字義通りのデウス・エクス・マキナ!
そこまでやるかー!!
西明和尚が叫んだ「五体投地を! 額、両肘、両膝を地面につけるのです!」
中庭にいた者で意識のある者は、みな言われた通り地面に倒れ伏した。
後藤目と道路小路勅使は、書状を放り出した。そして縁側から飛び降りて、五体投地した。敬称をつけてやったのは嫌味である。
西明「そして念仏を! "南無阿弥陀仏" と唱えなされ」
みな一様に、肘をついた両手を頭の後ろで合掌して、ほぼ絶叫のように念仏した「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」
三尊向かって右側の観音菩薩が言った「その必要はありません。ここにいる全員が、救済対象です」捨六さん姿のときと違った、慈母のような優しい声色だった。
それを聞いて、念仏に「ありがたや、ありがたや」の声が混じるようになり、念仏は続いているものの、そちらがやや優勢となった。涙声も多く混じっている。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「ありがたや、ありがたや、ありがたや!」
向かって左の勢至菩薩が言った「善信、こちらへ」
ええっ、ボク?
こういうとき呼ばれるのは決まってボクって、『うる星やつら』の諸星あたるかーっ!
阿弥陀如来が言った「からだを返してもらおう」
ボク「からだ、ですって?」
阿弥陀如来「わたしのしもべだ」
その、ものすごくカッコいいセリフ! ゲーテ『ファウスト』序章の天なる父の言葉…さらにたぶんその元ネタは、旧約聖書『ヨブ記』のヤハウェの言葉?
ってことは、ボクはその声を掛けられた相手のメフィストフェレス? あるいは、やっぱりサタン?
阿弥陀さまの背後から一人の僧形が歩み出て、笑顔で言った「考え過ぎですよ」
ボクと同じくらいの年頃の、背の高い男だ。頭を突出した頭頂部まで青々と剃り上げていて、意志の強そうな吊り上がった眉、目はやや垂れ気味、口はおちょぼ口。
男は続けた「800年後の片州・日本が、清潔で安全で、情報と刺激に満ちた面白いところになっていた様子を、たっぷり見学できて楽しかったです」
そして微笑みながら続けた「もちろん極楽浄土には及びませんけどね」
観音菩薩が、マメさんを招いて何かを渡した。
銅鏡だ。この時代はまだ古墳から出土するのと大差ない、丸い研磨鏡が用いられていた。
マメさんは、鏡を男とボクの間に差し出した。
鏡には、男とそっくりな容貌のボクが写っていた。
あれ、髪の毛なかったっけ? 「(13)」で駅家にて触って確かめたはずだったが?
マメさんは、いったん鏡を下に降ろした。やはり目の前には、鏡に映っていたのと寸分たがわぬ男がいた。
そしてマメさんは、もう一度、鏡を持ち上げた。
21世紀の、ボサボサ頭のボクが写っていた。
ボク「わわっ、ボクはこれまで、あなたの姿で好き放題やってたんですね? なんかごめんなさい!」
(この項つづく)
追記:
続きです。



