ルアンパバーンにあるブティックホテル「THE APSARA RIVE DROITE(ジ アプサラ リヴ ドロワト)」がミシュランガイドに掲載されました。中心市街地である半島部から見てナムカーン川を挟んだ対岸、バン・ファンルアン(Ban Phanluang)地区に位置します。その名称「Rive Droite(右岸)」が示す通り、パリのセーヌ川右岸を意識したネーミングは、フランス植民地時代の美学を現代に継承する同ホテルのアイデンティティを象徴しています。
ちなみに当館はイギリス発祥の厳選ホテルガイド「Mr & Mrs Smith」に認定された加盟ホテルであり、2023年にハイアットが「Mr & Mrs Smith」を約85億円(5,300万ポンド)で買収したため、加盟ホテルはハイアットの予約システム(World of Hyatt)に統合されつつあります。ちなみに「Mr & Mrs Smith」の由来は、お忍びでホテルに泊まるカップルが宿帳に偽名としてよく使った「スミス夫妻(Mr & Mrs Smith)」というジョークに由来しています。
Loca(ラオスの配車アプリ)の車でホテルに横づけすると、マネージャーのオッチャンが出迎えてくれます。もっとシュっとした外資っぽい人が対応してくれると思いきや、別荘の管理人みたいな普通のオッチャンです。ところが彼は当館の名物マネージャーであり、そのマネジメントスタイルは単なる管理業務に留まらず、ゲストの滞在体験全体をプロデュースするコンシェルジュ的な役割を果たしており耳目を集めています。ちなみにこのロビーフロアは夜間施錠され、当直のスタッフがここに布団を敷いて寝ていました。
建屋はかつてのフランス植民地時代のヴィラを修復・改装したもので、外観は白を基調とした漆喰壁にテラコッタの屋根、そして木製のシャッターという典型的なコロニアル様式を踏襲しており、周囲の熱帯植生と鮮やかなコントラストを描き出しています。
お部屋は「Room 1」にご案内頂けました。9室のみのブティックホテルなので余裕で特定できます。広さは40-50平米といったところでしょうか。内装にはダークウッド(濃色の硬木)の家具が多用され、ラオスの伝統的な織物やシルク製品がアクセントとして配置されています。他方、テレビなどのデジタル製品は排除されており、当館の哲学を感じさせます。
ベッドルーム。ダークウッドの床と家具がコロニアルな雰囲気を醸し出しています。清潔感あふれる純白のリネンが嬉しいのですが、ところどころ虫がいた形跡というかなんというか、やはりそういうエリアです。ベッドサイドに焚かれたベープマットに期待しましょう。
ちなみに空調は天井ファンとエアコンの両方の用意がありますが、我々はちょうど良い季節に訪れたので、いずれも使用せず快適に過ごすことができました。
ドアや窓は簡単にぶち破られそうなので、セキュリティボックスの存在は命綱です。冷蔵庫には酒やジュースがギッシリなのですが、いずれも有料。とはいえ飲料水はガラス瓶に山ほど用意されており、普通に滞在する分には不都合はありません。
ところでネット環境は実に脆弱。下りで10Mbps行くか行かないか程度であり寸断もしばしば。私は途中からイラついてスマホのテザリングに切り替えました。もちろんこれは当館の責任というよりはルアンパバーンというエリア全体の問題なので諦めましょう。世界遺産の街でYoutbeやオンライン会議など無粋なのだ。
すべての部屋にプライベートバルコニーまたはテラスが備え付けられており、「Room 1」のそれは川と街を見渡す眺望が自慢です。ゆったりとしたラタンのチェアと奥に備えられたデイベッドは、読書や昼寝を楽しむのに最適。
なお、当館の対岸はルアンパバーンの中心市街地であり、通常はホテルは専用のシャトルボートで送り迎えしてくれるのですが、2025年末時点では政府主導の護岸工事が進行中であり、ボートの発着が物理的に不可能となっていました。代替手段として、街へはタクシーで送ってくれるのですが、これはこれで空調の効いた快適な移動が保証されるので悪くありません。ちなみに宿泊客専用の無料レンタサイクルの用意もあります。
ウェットエリアに参りましょう。バスタブ・シャワーブースに洗面ボウルとトイレが一か所にまとまっており大勢で泊まるには不便を感じるかもしれません。シャワーは取り回しが悪く、水流と温度調整も難しい。もちろんこれは当館だけの問題ではなく、ルアンパバーンというエリア全体に対して指摘できる点でもあります。
ルアンパバーンのホテルとしては珍しくプールがあります。プールサイドにはラウンジチェアが配されチル感は抜群。もちろんプールのサイズは小さくガチ泳ぎには不向きであり、大人のカップルのためのホテルでもあるので、主に観賞用と捉える方が良いでしょう。
朝食はテラス席を併設したカフェっぽいエリアで頂きます。9部屋しかなく、それぞれのグループもバラバラの時間帯にやってくるので、実に穏やかに過ごすことができます。
料理はシンプルで、卵料理かフォーのいずれかを選択し、後はパンとフルーツが出る程度です。欧米系の重厚長大なビュッフェ朝食とは考え方がまるで異なるので、大食いの方はお気をつけて。
パンが中々、いや、かなり美味しいですね。フランス統治時代の名残とも言うべきクオリティの高さであり、一度はラオスでフランス料理を試してみようかなという気にさせてくれました。
コーヒーはルアンパバーンの有名店「Saffron Coffee」から引いているそうで流石の美味しさ。先のパンも妙に旨かったので、もしかすると何処か有名店から仕入れているのかもしれません。
なるほど姉妹ホテルである「THE APSARA」が世界遺産エリア内の歴史的建造物を活用し街の喧騒と活気の中に身を置くのに対し、当館は「リゾート」としての性格を強く帯びており、威圧感のない温かいサービスも楽しむことができました。とは言え日中帯は護岸工事の騒音があり、また、遮音性の低い建屋でもあるので、運営が主張するほど静かかというと疑問符が付きます。とは言え当館の美学に賛同したゲストが集まるため、敷地内が上質な空気に満ちているのは確かです。
ナムカーン川が隔てるのは、単なる地理的な距離ではなく、日常と非日常の境界線なのかもしれません。便利さを捨ててでも静寂と美意識を取りに行きたい、そんな手練れの旅人にこそ推奨したい一軒です。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。