日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

音の標本を採集する 福岡県北九州市小倉南区・菅生の滝

 

北九州市小倉南区にある「菅生の滝(すがおのたき)」へ足を運びました。 都市の喧騒から離れ、純粋な自然音に浸るには適した場所です。今回、ここを訪れたのは、「音」を記録する…フィールドレコーディングの目的です。 自身の感覚をフラットな状態に戻すための「余白」が必要になることがあります。私にとって、録音機を持って自然の中を歩くのは、その「余白」を作る作業です。

 

 

滝へと続く道は、平らな石が敷き詰められた石畳が続いています。今の季節、石畳の上には茶色く乾いた落ち葉が一面に散らばっています。靴で落ち葉を踏みしめるたびに、「カサッ、ザクッ」という乾いた音が鳴ります。アスファルトの上では決して味わえない、有機的な感触と音です。

 

道の脇には、杉と思われる高い木々が整然と並んでいます。幹の表面にはびっしりと苔がむしています。この苔が、周囲の余計な反響音を吸い取ってくれているのかもしれません。

森の中は静かですが、無音ではありません。風が枝を揺らす音、遠くで鳴く鳥の声、そして近づくにつれて大きくなる水音が、層になって重なっています。

しばらく歩くと、視界が開け、菅生の滝が姿を現します。 菅生の滝は、一の滝から三の滝まである段瀑ですが、一般的に親しまれているのは落差の大きい一の滝です。 岩肌を滑り落ちる水は、一筆書きの直線ではなく、岩の凹凸に合わせて複雑に形を変えながら落下しています。自然界に直線は存在しません。

 

滝の周りの岩場はゴツゴツとしており、一部にはまだ紅葉の名残のような赤い葉が見受けられます。静かな風景の中に、わずかな色彩が残っています。 滝の周囲では、低音の響き、水しぶきが弾ける高音、それらが混然一体となって「ゴーッ」というホワイトノイズに近い音の壁を作ります。

約6分間、滝の音を定点録音しました。 何も考えず、ただ水が落ちる現象そのものと向き合います。シンプルな入力信号だけに身をゆだねます。

 

6分間の収録が終わり、きた道を戻ることにします。 ここからは、レコーダーを回したまま移動する「移動録音」を行います。 滝の轟音は、背を向けて歩き出すにつれて徐々に遠ざかっていきます。その代わりに、再び足元の落ち葉の音と、脇を流れる川のせせらぎが主役となってきます。

 

川の流れは、滝のような激しさはありません。岩の間を縫うように、サラサラ、チョロチョロと流れる水音は、リズムが一定のようでいて、二度と同じ音を繰り返さない。不規則なゆらぎを含んでいます。 途中、野鳥の声も聴こえてきます。高い木の上でさえずる鳥の声は、森の空間の広がりを表現してくれています。

 

録音した音声は「空間」そのものを保存してくれます。 滝の正面にいた時の圧倒的な音圧から、森のなかの道を進むときの穏やかな空気感への変化。足音のテンポ。ときどき吹く風の音。 写真だけでは記録しきれない、その場の「空気の振動」が音により記録されます。

 

録音したデータを編集して、その音声を聞き返してみます。編集と言っても、余分な音を切り取るだけで、音の加工や、作為的な演出もしません。ただただ、菅生の滝周辺で起きていた物理現象を淡々と記録しているだけの音です。 「飾らない事実」こそが、いまのわたしにとって、いちばん気持ちを整えさせてくれる記録です。