なぜ書くのか?ディラードのエッセイを読むと、書くことと生きることの結びつきについて考えさせられる。「あなたは、あなた自身の驚きに声を与えるために存在する」という一節は、この問いへの明快な答えを示しているように思える
氷に覆われゆく終末世界を舞台に、「少女」への執着に取り憑かれた「私」の語りが展開される。「信頼できない語り手」という言葉では到底足りない、現実と幻想がどろどろに溶け合ったドラッギー過ぎるモノローグを分析する
深緑野分原作のアニメ映画。児童文学的にテンポよく展開する物語は小綺麗にまとまっており、誰でも楽しめるウェルメイドな仕上がり。もっとも、優等生的な雰囲気ゆえの物足りなさもどこかに感じられた
作中に登場する「バズリクソンズの黒いMA-1」を、20年以上前に父が現実の製品として購入していた話と合わせた読書感想。MA-1を介して久々に触れた、ギブスンの独特なグルーヴは心地よかった
低評価が目立つ本作を擁護的に分析・考察する。「説明的すぎる台詞」「ご都合主義的な死者の国」「唐突なミュージカルシーン」は単なる欠陥か?YA文学的手触り、赦しと自己受容という主題を軸に、作品を肯定的に読み解く試み
芥川龍之介「運」書評。観音様に祈ることで財産を得たが殺人を犯すことにもなった女の運は、「善い運」か「悪い運」か。若侍と翁の平行線の会話から、運を巡る価値観のズレを描く短編。すっきりと割り切れない、宙吊りのような作品を読む
カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』書評。ディズニー版と異なり、原作のピノッキオは「悪ガキ」そのもの。良心の象徴コオロギを秒殺し、誘惑に負け続け、何度も同じ過ちを繰り返す。成長しないからこそどこか愛おしい、ピノッキオの魅力を読み解く
ベルンハルト・ケラーマン『トンネル』書評。手塚治虫も激賞した1913年作。大西洋を横断する海底トンネルの建設に執念を燃やす男と、資本と労働に呑み込まれる人々を描く、エンタメ性と批評性を兼ね備えた傑作
乗代雄介『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』読書感想。膨大な蓄積の中から「オリジナリティ」の正体を問う一節を引く。表現者は外部の影響を合成した「キメラ」でしかない。全てが外から来たことを自覚し、不格好さを抱えたまま書く、その覚悟を考える
鶴見済『0円で生きる』読書感想。労働と消費のループから抜け出し、お金への依存度を下げることは可能なのか。社会の仕組みに抗いつつ、「小さくても豊かな」経済圏を探る一冊。お金との適切な間合いを測ることを、一つの抵抗の形として考える
ルイジ・ギッリ『写真講義』書評。写真とは何かを問い直す一冊。日常的な被写体、ミニマルな構図、平面的な表現——静謐な彼の写真は「絵画的」と評されるが、それは現実とイメージの「均衡点」を探り、世界を問い直す試みである
菅付雅信『インプット・ルーティン』読後メモ。質の高いアウトプットのために大量・高精度なインプットを習慣化せよ、という極めてシンプルな主張。内容に新鮮味はないが、サボりがちな自分に活を入れてくれる「正論」として機能する一冊だった
成毛眞『39歳からのシン教養』読後メモ。「読書するよりググれ」と主張する一冊。30代半ば以降は効率的な情報収集こそが重要だというが、本書で提唱される「シン教養」とは、本当に教養と呼べるものなのだろうか?という疑問は残る
ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』書評。「読んだ/読んでいない」という二分法を疑い、批評とは本についてではなく自分自身について語ることだ、と説く一冊。一見挑発的だが、読書や批評の本質を問い直す姿勢は驚くほど誠実
芥川龍之介「芋粥」書評。五位が「芋粥を飽きるほど飲んでみたい」という夢を失う哀しみを描いた短編。彼の夢は、叶えるためのものではなく、憧れ続けるためのものではなかったか。夢というのは、必ずしもそれを叶えられる強者のためだけのものではないはずだ
芥川龍之介「袈裟と盛遠」書評。愛という名のエゴイズムが引き起こす、主体性の完全な放棄と自己否定の行方には何があるのか。殺人と死へと突き進む男女の心理を掘り下げ、倫理も理性も超えた「抗いがたい感情」の必然性を読み解く。神話的な美しさのある短編
山本耀司『服を作る』読書感想。「まじめな生活をしているだけではだめ」と語る山本の、世の中のモラルや既成の美意識に対する反骨精神に惹かれる。社会が求める「正しさ」から外れ、孤独と友達になりつつ、自分なりの生を生き切るための意志を再確認する一冊
下重暁子『持たない暮らし』読書感想。単なるミニマリズムではなく、個の確立を前提とした暮らし方を説く。自分なりの価値観こそがその人の値打ち。ものを書くことが「自分への執着」であるなら、書くのを億劫に感じていた今の自分は何を失いかけていたのか
芥川龍之介『羅生門』書評。下人が得た「或勇気」の正体とは何か。ラカンの欲望論を補助線に、老婆の自己正当化が下人に与えた「大義」と生存論理への転換を読み解く。既存の規範が崩壊した世界で、個が新たな規範を見出していく物語としての再解釈
宮本輝『泥の河』読後メモ。高度経済成長直前の大阪を舞台に、ねっとり湿った夏の空気や貧富の明暗を鮮烈に描く短編。同じ子供でも属する世界が違うという哀しい真実が、米櫃に手を入れ「温い」「冷たい」と交わされる数行の会話から残酷なまでに立ち上がる
スージー・ロトロ『グリニッチヴィレッジの青春』読書感想。「フリーホーイリン」のジャケ写で有名なボブ・ディランの恋人が、60年代の熱狂と自身の葛藤を綴る一冊。天才の「弦の一本」になることを拒み、自らの人生を歩もうとした彼女の真摯な言葉が魅力的
エトガル・ケレット『あの素晴らしき七年』感想。軽快さの裏に、イスラエルの現実とホロコーストの影を感じさせる、掌編エッセイ集。空襲警報の中、家族がくっつき合う「パストラミ・サンドイッチごっこ」の話など、困難の中でもユーモアを忘れない姿が魅力的
水野和夫『資本主義と不自由』書評。搾取による「成長」は限界に達し、「帝国」化が進行する現在は、近代から次のフェーズへの「過渡期」だと言える。この時代をいかに軟着陸させるか、その姿勢を考える一冊を読む
イレーヌ・ネミロフスキー『チェーホフの生涯』書評。死を予感する作家が戦時下に辿り直した文豪の軌跡。医師のような冷徹な診断と、深い思いやり。人生に意味は見出せずとも、魂を練り直すことはできる。絶望の淵で綴られた言葉から、生きるための諦念を読む
アンネ・ジーネの写真集『Book Of Plants』書評。500ページ超、淡々と並ぶ植物の断片。記録写真が膨大なコレクションとして結実したとき、鮮やかな美のイメージが立ち上がる。ミクロとマクロを往来し、世界を肯定する歓びに触れる感覚を探る
テリ・ワイフェンバック写真集『Between Maple and Chestnut』書評。幻想的なボケと溢れる光が、米国の美しい郊外を映し出す。なぜ未経験の風景に懐かしさを覚えるのか。失われた中産階級への郷愁を軸にした、夢のような一冊を読む
アガサ・クリスティ『秘密機関』読書感想。長編第2作にして、トミー&タペンス初登場のスリラー。前作『スタイルズ荘』とは異なる、古き良き冒険活劇的な作風で、バンドのデビューアルバムのような若さと陽性の輝きが素敵な一冊だった
アインシュタインとフロイトの往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか』書評。人間の「憎悪の本能」を欲動理論から読み解き、文化の発展によって戦争を拒否する身体が生まれる可能性を探る一冊。だが、その希望はどこまで現実的なのか
ヴェンダースが山本耀司のパリコレ準備を追ったドキュメンタリー。生きるための服を理想とする山本の思想と、アシンメトリーや入れ子構造を多用したヴェンダースの映像。メインストリームから適度な距離を取る、職人的な二人の作家が共鳴するさまがぐっとくる
チャールズ・ワッツ『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』書評。ヴェンゲル後の混乱から、アルテタがいかにアーセナルを再建したかを描く。彼が示した信念と規律こそがマネジメントの根幹であり、チームとサポーターの絆を取り戻すために必要だった