「猫を迎えるなら保護猫」という風潮が広まっている今、ブリーダーには厳しい視線が向けられることも多い。動物の命をモノ扱いする一部の悪徳ブリーダーにより、ブリーダー全体のイメージが悪くなっているように感じられる。
だが、中には専門とする猫種を心から愛し、命を尊重しながらブリーディングを行っているブリーダーもいる。
杉麻衣さん(@from Olivia)は海外でも希少なアメリカンバーミーズという猫種のブリーダー。ブリーダー業で利益を得たいとは思っておらず、自分が惚れこんだバーミーズを絶やしたくないという想いから、ブリーディングを続けている。
「バーミーズと暮らしたい」と願ったことが“ブリーダー業”のきっかけに
もともとバーミーズに惹かれ、一緒に暮らしたいと思っていた杉さん。日本でブリーダーを探すも、出会うことはできなかった。「ときどき、ペットショップで見かけるバーミーズは、本来なら黒い被毛の“ボンベイ”という猫種から茶色い猫が生まれると“バーミーズ”として販売されていることがあると知りました」
諦めきれなかった杉さんは、2019年にロシアのブリーダーに連絡。「ブリーダー用としてではなく、一般家庭で暮らす猫としてバーミーズを販売してほしい」と頼んだ。すると、ブリーダーから思わぬ返答が。
「バーミーズのブリーダーは世界でも少ないので、種を絶やさないために、日本でブリードをしてほしいとお願いされたんです」
こうして、杉さんはそのブリーダーから指導を受けつつ、バーミーズのブリーディングを始めることになった。
バーミーズらしい健康で愛くるしい姿で“種”を後世に残していきたい
ブリーディングする上で気を付けているのは、親猫の遺伝子検査を必ず行うこと。杉さんいわく、猫種によって必要な遺伝子検査は違い、バーミーズの場合は必ず調べておきたい重大な奇形をもたらす遺伝子の検査が日本ではできない。そこで、杉さんはアメリカの研究所にサンプルを郵送して遺伝子検査をしている。
さらに、親猫になる子にはレントゲン撮影やエコー検査、血液検査などを行い、獣医師に判断してもらっている。
「イスラエルから来てくれたお父さん候補だった子が、獣医師から繁殖には向かないと診断されたこともあります。でも、せっかく遠くから来てくれたので、その子とは一緒に暮らすことにしました」
出産時に必ず立ち合うのも、杉さんのモットー。日頃の信頼関係があるからか、母猫は杉さんを頼ってくれる。中には、杉さんの服に潜って出産した子もいたそうだ。
杉さんは、バーミーズをバーミーズらしい姿で後世に残していけるよう、子猫期の体づくりにも気を遣い、人懐っこい性格を引き継いでいけるように配慮しながら育てている。
猫も人間も快適に暮らせる家を目指して試行錯誤!
深い“バーミーズ愛”を持っている杉さんは、猫も人も暮らしやすい注文住宅を建築。猫たちの様子を見ながら、必要なものをDIYで取り入れてきた。家づくりの際には、「いろいろな部屋を行き来し、高い場所も楽しんでほしい」という想いから大きな吹き抜けを作り、家の隅々まで空調が行き届くよう、全館空調にした。
なお、杉さんは親猫たちをケージに閉じ込めてはいない。走ったり登ったりできるスペースがある部屋を用意し、性別ごとに部屋分けしている。
猫ファーストなブリーダーが語る「悪徳ブリーダーへの憤り」
杉さんは、ホームページやインスタグラムから購入希望の問合せをもらうことが多い。だが、杉さんの目的はあくまでも「販売」ではなく、「バーミーズという種を後世に残していくこと」。そのため、まずは利益目的ではない海外のブリーダーへ優先的に譲渡している。
ブリーディングした子に飼い主が見つからない場合は、ほぼない。過去に1匹だけ譲渡キャンセルとなった子は、成長に心配がある1匹と共に飼い主を募集せず、愛猫にしたという。
そう思うからこそ、杉さんは悪徳ブリーダーの存在や壁一面にケージを並べてブリーディングしている現状があることに胸が痛む。
「猫は、感情豊か。食べて寝るだけが幸せではなく、喜びやワクワクも必要です。ケージの中で食べて寝るだけで一生を終える子がいなくなってほしい」
言い逃れができてしまうことも……現役ブリーダーが感じた“動物愛護法”の問題点
杉さんは、ブリーダーを本業にして生計を立てていくのは、本来であれば無理があることだと話す。
「ただ生きているだけでは、幸せではないはず。でも、動物愛護法で定められているよりも狭いケージで飼育しているブリーダーが保健所の指導で廃業になった話を、私は聞いたことがありません」
「でも、逆を言えば、ブリーダーの良心や猫への愛情を図る術もない。私はバーミーズという素晴らしい猫種を絶やしたくない一心でブリーディンをしていますが、保護活動をしている方から見ると、猫を増やしている私も悪に見えると思う。人間と動物が関わるって、本当に難しいことなのだと感じます」
保護猫の命を守ることはもちろん大切で尊いことだが、純血種として生まれてきた猫にだって幸せを掴む権利はある。どんな生い立ちの子も幸せが掴みやすくなるには、まず本当に種を尊重するブリーダーだけが繁殖を許されるよう、動物愛護法が改正されることが大切だ。
保護猫文化が盛んな今だからこそ、杉さんのブリーダー論や熱いバーミーズ愛が幅広い人に届いてほしい。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。
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