『アフター・ザ・ハント』をより深く理解する!大学教授アルマ(ジュリア・ロバーツ)が直面する、告発された同僚ハンク(アンドリュー・ガーフィールド)と告発者マギー(アヨ・エデビリ)の間の「倫理の迷宮」を徹底解説。#MeToo、真実と虚偽、世代間ギャップ…現代社会が抱える問題に切り込む、ルカ・グァダニーノ監督の心理スリラーを独自の視点で考察。
映画『アフター・ザ・ハント』(Prime Videoにて独占配信中)は、『君の名前で僕を呼んで』、『チャレンジャーズ』で知られるルカ・グァダニーノ監督が、現代社会の核心に切り込んだ衝撃的な心理スリラーだ。
ジュリア・ロバーツ演じる大学教授アルマは、同僚ハンク(アンドリュー・ガーフィールド)を告発した学生マギー(アヨ・エデビリ)の対立に巻き込まれ、真実と虚偽が混ざり合う倫理の迷宮へと足を踏み入れる。
本稿では、#MeToo、キャンセルカルチャー、そして世代間ギャップが物語に織りなす複雑なテーマを、監督独自のテーマ性と演出から徹底考察。単なる事件の顛末ではなく、人間の本質と権力の構造を深く掘り下げた本作の核心に迫る。ジュリア・ロバーツの鬼気迫る新境地の演技にも注目したい。
映画『アフター・ザ・ハント』はAmazon Prime Videoにて2025年11月20日(木)より配信中。
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目次
映画『アフター・ザ・ハント』あらすじ

名門大学の哲学部で尊敬を集めるアルマ教授(ジュリア・ロバーツ)。彼女の平穏な日常は、ある日、優秀な大学院生マギーからの衝撃的な訪問によって崩壊する。マギーは、アルマの長年の同僚であり友でもあるハンク助教授(アンドリュー・ガーフィールド)から性的暴行を受けたと告白し、助けを求めて来たのだ。
しかし、ハンクは疑惑を強く否定。マギーが自身の論文盗作を咎められたことへの報復として、不当に自分を陥れようとしていると主張する。
真実が曖昧な二つの主張の間で板挟みとなったアルマ。彼女を慕っていたマギーは、期待していた温かい支援ではなく、アルマの冷たい反応に深く失望し、大学への告発を決意。この告発を受け、大学は即座にハンクを解雇。しかし、事態は大学の内部に留まらず、マギーがメディアの取材に応じたことで、問題は世間のスキャンダルへと発展していく。
そして、このキャンセルカルチャーの波は、アルマ自身にも押し寄せて来た。スキャンダルの追及によって、彼女の輝かしい公的な地位の裏に隠されていた過去の秘密が掘り起こされ、アルマのキャリアと人生全体が危機に瀕することに・・・。
映画『アフター・ザ・ハント』感想と解説:ルカ・グァダニーノ監督が投じる#MeToo時代への鋭い問い:
#MeToo時代の「真実」をめぐる物語

映画『アフター・ザ・ハント』は、単なる心理スリラーではない。これは、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が、#MeToo運動とキャンセルカルチャーが渦巻く現代社会の「真実」「権力」「倫理」の構造を、極めて挑発的な姿勢で解体しようとする意欲作だ。
オープニング・クレジットからウディ・アレン作品を露骨に模倣したスタイルを用いるなど、本作は知性と倫理が交錯する不安定な領域を大胆に歩むことを宣言している。
チクタク音のような不安を煽る音響が暗示するのは、ジュリア・ロバーツ演じる主人公アルマ教授が直面する「爆弾」の存在だ。大学という洗練された舞台で、アルマは同僚への性的暴行疑惑を告発した学生と、疑惑を否定する同僚の間で、自分に都合の良い証言を求められ板挟みに陥る。
本作の核心のひとつは、X世代(アルマ)、ミレニアル世代(ハンク)、Z世代(マギー)という世代間の違いに焦点を当てた点にある。男性社会で地位を築いたアルマの「不十分な共感」と、完璧な世界を求めるマギーの衝突は、現代社会が抱える構造的な亀裂を照らし出しているのだ。
なぜアルマは、最初の段階でマギーに冷淡な反応を示したのか? グァダニーノ監督は、SNSやタブロイド紙の記事などでは表現できない、人間の複雑な事情と感情に焦点をあてている。
トレント・レズナーとアティカス・ロスの音楽やジュリア・ロバーツの圧倒的な演技にも着目しつつ、本作が提唱する根源的なメッセージを読み解いていこう。
作品が照らす「世代間の断絶」

舞台となるコネチカット州ニューヘイブンの大学町には、グァダニーノが得意とする洗練と秘密めいた気配が漂っている。私たちはすぐに、著名な哲学教授アルマ・オルソン(ジュリア・ロバーツ)の格調高い日常へと引き込まれる。
アルマは、同僚の白人男性助教授ハンク(アンドリュー・ガーフィールド)と厚い友情を築き、博士課程のクィアの黒人女学生マギーからは崇拝されている。学者として脂の乗り切った彼女にとって唯一の不安は大学の終身在職権を得ることができるかということだ。彼女の長年の鍛錬と苦労が報われるまであともう少しだ。
しかし、アルマの自宅でのパーティーの翌日に、マギーがハンクから性的暴行を受けたと打ち明けた瞬間、物語は別相を見せる。
当初、物語は、誰が真実を語り、誰が何を隠しているのかという対立構造へと進んで行くかに見えたが、主題はゆるやかにそこから逸脱し、グァダニーノ監督は、世代間の確執に焦点を当ててみせる。
X世代のアルマ、ミレニアル世代のハンク、そしてZ世代のマギーという三者の間に横たわる断絶は、単なる個性の衝突ではなく、倫理観のアップデートの速度と方向性の違いを表している。
アルマは自身の過去の痛ましい経験ゆえにマギーを傷つけまいとするが、Z世代のマギーにはその姿勢は「不十分」で「共犯的」に映る。男性社会で時に自らの心を殺して地位を築いてきたアルマと、完璧な世界を求めるマギーの衝突は、現代社会が抱える構造的な亀裂を照らし出しているといえるだろう。
マギーの告白を聞いた時、アルマは本当にマギーのことだけを考えたのだろうか。終身在職権の取得に影響があるのではとひるんだのではないか。その後、最初の冷淡な反応を挽回しようと試みたのは、マギーの実家が裕福で大学に多額の寄付をしていることと関係はないのだろうか。
一連の事柄に対するアルマの態度から見えてくるのは、彼女の「権力」への執着である。彼女は、権力、キャリア、そしてこれまで築き上げてきたすべてを失うことを恐れており、現実から目をそらし、判断を誤り、「狩の餌食」となってしまう。それはある意味、実に人間的な愚かさであり、そこにはタブロイド紙がまき散らす記事などでは到底図りえない、複雑な事情と感情が隠されているのだ。
『アフター・ザ・ハント』が投げかける問い

グァダニーノ作品の常連であるトレント・レズナーとアティカス・ロスが今作でも音楽を手掛け、ピアノの旋律がアルマの緊迫した心理状態を鮮やかに可視化している。
さらにジュリア・ロバーツが、彼女のキャリアの中でも最も共感の難しい役柄を圧倒的な説得力で体現している。ラルフローレンのジャケットを身にまとい、落ち着いた雰囲気を醸し出すビジュアルは圧巻だが、騒動の渦中に学生の意見を封じ込める攻撃的な態度は鬼気迫るもので、これまでに観たことのないまさに新機軸を打ち出している。
また、俳優たちに極端に寄ったカメラによるクローズアップの切り返しや、キャラクターが語る際、無意識に動く手元に焦点を当てたショットがしばしば登場するなど、人間が抱え込む感情の微細な震えを映画は様々な角度から捉えようとしている。
終始張り詰めた空気が続く物語の中で、アルマの夫フレデリック(マイケル・スタールバーグ)の存在は唯一の希望である。
終盤、フレデリックが病院のベッドで横たわるアルマに語りかける場面は、『君の名前で僕を呼んで』の名高い父親の語りを思い出させる(演じたのもマイケル・スタルバーグである!)。
アルマはそんな彼の言葉を聞いても顔をそむけてしまうのだが、5年後のエピローグでは、二人はまだ共に暮らしていることが明かされる。あの時、彼がこの言葉を伝えたからこそ、二人はまだ一緒に暮らしているのだろう。
『アフター・ザ・ハント』は心理スリラーと銘打たれているが、実際、本作が描いているのは「他者の真実は決して完全には知りえない」という根源的な真理だ。
キャンセル・カルチャーが最高潮に達した2019年を舞台に、本作が訴えているのは、#MeToo運動の意義の否定ではない。ソーシャルメディアによって慣らされて来た二元論的な考えに収まらない思考の領域へ踏み出し、より深い理解と柔軟な思考を求めているのだ。映画を見終える頃には、誰もが自分自身の“解釈”という名の迷宮を歩いたことに気づくはずだ。
映画『アフター・ザ・ハント』作品基本情報
邦題:アフター・ザ・ハント
原題: After The Hunt
ジャンル:心理スリラー、ドラマ
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ノラ・ギャレット
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
製作国:アメリカ、イタリア
上映時間:138分(※資料により140分表記もあり)
配信開始日:2025年11月20日(木)
配信プラットフォーム: Amazon Prime Video (独占配信)
キャスト:
役名(教授アルマ):ジュリア・ロバーツ
助教授ハンク:アンドリュー・ガーフィールド
大学院生マギー:アヨ・エデビリ
アルマの夫フレデリック:マイケル・スタールバーグ
(その他の出演): クロエ・セヴィニー ほか