『経済とイデオロギーが引き起こす戦争』
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経済を正しく理解すれば戦争は避けられる
[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)

東京大空襲で逃げ惑う親子(撮影・石川光陽、1945年 Wikimedia Commonsより)
戦後八十年を契機にして、「なぜ日本は戦争をしたのか」という問いが改めて話題になっている。各界の俊英を集めた対米戦争シミュレーションで「必敗」という結論まで得ながら、当時の政府と軍部は開戦を決断した。従来の仮説では、米国の経済制裁によって、日本は資源確保に行き詰まり、数年で苦境に陥ると考えられていた。そのため低い勝算であっても対米戦に活路を見出さざるを得なかった、というわけだ。
つまり日本の損失を回避するために、時の権力者たちはみんなで危ない橋を渡ることに賭けた、というのだ。この非合理ともいえる賭けに国民の多くが巻き込まれ、数多の人命が失われた。だが当時はマスコミの扇動もあり、国民の多くもその決断を支持したではないか、とされている。みんなで危ない橋を渡ったのだから、日本国民全体が責任を負うべきだ、という極論までこの通説は地続きである。
だが本書の見解は違う。なによりも経済的要因から戦争をみている。その視点は斬新だ。政策当事者たちが、経済問題に対して間違った認識や政策の失敗を重ねたことで、次第に戦争に至ってしまう。もし正しい経済の理解と、不況やデフレなどに適切な政策対応をすれば戦争は回避できただろう。だが、それを困難にしたのが、政治家や官僚たちの既得権にしばられたイデオロギーだ。
たとえば米国の要求のように、中国やインドシナなどの占領地を放棄すれば、日本は資源不足で危機に陥ると当時の政治家や軍部は思い込んだ。だが、本書は「小国主義」を唱えた当時の石橋湛山の説を踏まえ、たとえ占領地を放棄しても欧米との交易によって日本は栄えただろうと、鋭い考察を展開している。
教えられるところ多い名著だ。今日のウクライナ戦争やナチスの台頭などを経済的要因から分析してもいて、その鋭利かつ歴史を俯瞰する視野に感銘を受けた。


























