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Appleを理解して翻訳する。それが「となりずむ」

AI需要でTSMCがパンク Apple向けチップも外部へ分散

TSMCの先進パッケージ技術CoWoSの構造を示した図。基板(Substrate)の上にインターポーザ(Interposer)を載せ、その上にSoCとHBMメモリチップを並べて積層する3Dパッケージ構成イメージ

✅この記事では、TSMCの先進パッケージ「CoWoS」のラインがフル稼働になり、NVIDIAやApple向けのAIチップをさばききれず、一部工程を外部メーカーに回し始めたという話を整理します。難しそうな話ですが、「チップの最後の仕上げで何が起きているのか」を、できるだけかみ砕いて見ていきます。

どうも、となりです。

ここ1〜2年で、生成AIブームに伴う「GPU・AIチップ不足」というワードを何度も見かけるようになりましたよね。ただ、足りなくなっているのはチップそのものだけではなくて、「出来上がったチップを1つのパッケージにまとめる最後の工程」もパンパンになっています。今回のニュースは、そのボトルネックをどうさばくのか、TSMCが新しい一手を打ったという話なんです。

たとえば、キッチンで料理をつくるときに、コンロはたくさんあっても、お弁当箱に詰める作業台が1つしかなかったら、最後のところで行列ができますよね。今の半導体業界では、その「お弁当箱に詰める作業台」にあたるのがCoWoSなどの先進パッケージ工程で、そこにAIブームの負荷が集中している、という状況です。

要点まとめ

まずは元記事(IT之家経由で紹介されているWccftechのレポート)で語られているポイントをざっくり整理します。

  • TSMCの先進パッケージ技術「CoWoS」の生産ラインが全量予約状態になっており、NVIDIAやAppleなどからのAIチップ需要を単独ではさばききれなくなっている。
  • このボトルネックを解消するため、TSMCはCoWoS関連の一部工程を日月光投控(ASE)矽品精密(SPIL)といった大手封止・テスト企業に外注する方針。
  • ASEやSPILはすでに数十億ドル規模の投資で設備増強を進めており、TSMCからの「あふれた注文」を受け止める準備を進めている。
  • TSMC自身も新しい先進パッケージ工場の建設を進めているが、立ち上がりには時間がかかるため、足元の需要には外注で対応するしかない。
  • 背後には、先進パッケージを武器に外部顧客を増やそうとしているIntelなどの競合の存在があり、「納期が遅くて他社に逃げられる」リスクを避けたいという狙いもあるとされています。

ざっくり言うと、「TSMCの先進パッケージ工場が満員電車状態なので、信頼できる他社にも手伝ってもらいながら、NVIDIAやAppleを待たせないようにする」という動きだと捉えるとイメージしやすいと思います。

CoWoSって何?AIチップの『最後の仕上げ』工程

そもそもCoWoSとは何なのか、簡単に整理しておきます。

  • CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)は、TSMCが提供する先進パッケージ技術の1つ。
  • 複数のチップ(GPUコア+HBMメモリなど)を、1つの巨大なパッケージとして組み上げることで、帯域や消費電力、レイテンシをバランスよく抑えられるのが特徴。
  • NVIDIAのデータセンター向けGPU(H100/H200/B100系)や、各社の大規模AIアクセラレータで広く利用されている。

最近は、巨大な1つのチップをつくるのではなく、複数の小さなチップ(チップレット)を組み合わせて1つの「論理チップ」として動かす設計が主流になりつつあります。その「組み合わせ作業」のステージが、まさにCoWoSのような先進パッケージなんですね。

ロジックの製造(5nm、3nmといったプロセス)だけでなく、この先進パッケージ工程そのものも、いまや半導体ビジネスの価値の源泉になりつつあります。AIブームの裏側では、「どれだけたくさん先進パッケージをさばけるか」という体力勝負になっているわけです。

なぜTSMCのCoWoSがパンクしているのか

では、なぜここまでCoWoSが逼迫しているのでしょうか。背景には、いくつかの要素が重なっています。

  • 生成AI需要で、NVIDIA・AMDなどのGPU注文が急増し、GPU1個あたりに必要なHBMスタック数も増えている。
  • 各クラウド事業者(Google、Microsoft、Amazonなど)が、自社ブランドのAIアクセラレータを増やしており、これらもTSMCの先進パッケージに依存している。
  • AIサーバー向けだけでなく、高性能ネットワークチップやスイッチ向けにもCoWoS系の技術が使われるようになり、需要が横に広がっている。

TSMCはここ数年、CoWoSのキャパシティを段階的に増やしてきましたが、それを上回るペースでAI需要が伸び続けている、というのが実態のようです。Wccftechのレポートでも、既存ラインが「全額予約済み・数年先まで埋まり気味」といったトーンで語られています。

TSMCとしても新工場の建設や増設を進めていますが、工場建設〜装置導入〜量産立ち上げまでを考えると、数年単位の時間が必要です。そこで今回、「足りない分はASEやSPILにも手伝ってもらう」という現実的な選択をした、という流れですね。

Apple視点:AI時代のボトルネックはどこに移る?

では、この話をApple目線で見るとどうなるでしょうか。

AppleはiPhone向けのAシリーズ、Mac/iPad向けのMシリーズといった自社設計チップで、ずっとTSMCの先端プロセスを使い続けてきました。2nm世代以降のロードマップについては、以前まとめたA20〜M6の2nmチップ世代の見取り図でも整理したとおりです。

これまでは「何nmプロセスで作るか」が主役でしたが、AI時代ではパッケージングも同じくらい重要な戦略ポイントになりつつあります。Appleは端末向けチップだけでなく、Apple IntelligenceやSiri強化のためのクラウド側AIチップも開発していると報じられており、ここでもTSMCの先進パッケージ技術が使われる可能性が高いと見られています。

一方で、TSMCのキャパシティに頼り切るリスクも無視できません。TSMCの値上げや2nm世代のコスト増については、iPhone 18向けA20の2nmコスト分析でも触れたとおり、すでにかなりシビアな状況です。

こうした中で、Appleが一部のチップ製造をIntelの18Aプロセスに分散する可能性についても報じられています。この点は、別記事Apple×Intelファウンドリ提携の可能性まとめで整理しましたが、製造だけでなく将来的な先進パッケージをどこまでIntelに任せるかも、じわじわ効いてきそうな論点です。

つまり、「ロジックをどのプロセスで作るか」と同時に、「そのチップをどこの先進パッケージラインで仕上げるか」も、AppleのAI戦略を左右するポイントになってきた、という見方ができます。

 

 

注目したいポイント

ここからは、今回のTSMCの外注方針で気になったポイントを3つに分けてみます。

① Appleにとっては“納期の保険”という側面

1つ目は、Appleにとって今回の動きが納期リスクを減らす保険になりうる、という点です。

NVIDIA向けのAI GPUがCoWoSキャパシティの多くを占めているのは間違いなく、Appleはその中で「端末向けチップ」「クラウド向けAIチップ」の両方を確保したい立場にあります。TSMCが外注によって全体の処理能力を底上げできれば、結果的にAppleのチップも納期遅延のリスクが下がる可能性があります。

もちろん、外注先との工程分担や品質管理などの難しさはありますが、少なくとも「TSMC 1社で抱え込んで詰まる」よりは、選択肢が増えたと見ることもできます。

② 先進パッケージ市場そのものが“戦場”になってきた

2つ目は、先進パッケージ市場そのものが、従来以上に競争の場になっている点です。

IntelはFoverosやEMIBといった自社のパッケージ技術を前面に出して、「ファウンドリ+先進パッケージ」で外部顧客を獲得しようとしています。TSMCとしては、「待たされているうちに他社に移られた」という事態だけは避けたいはずで、その意味で今回の外注は顧客をつなぎとめるための防衛策という見方もできます。

Appleとしても、Apple IntelligenceをはじめとするAIサービスを長期的に育てていくなら、こうした「どのパッケージ技術に乗るか」という選択が、これまで以上に重要になってきます。端末側とクラウド側の両方を見渡すと、Appleの半導体戦略はますます立体的なパズルになっていきそうです。

③ 私たちにとっては“裏側のインフラコスト”の話

3つ目は、ユーザー目線では少し遠い話に見えますが、実はサービス価格やデバイス価格にも跳ね返るインフラコストの話だという点です。

先進パッケージの増設には巨額の投資が必要で、そのコストは最終的にチップ価格、さらには製品やクラウドサービスの価格に反映されます。Apple IntelligenceのようなAI機能も、裏側ではこうしたインフラの上に成り立っているわけで、「なぜこの価格なのか?」を考えるときに、こうしたニュースを頭の片隅に置いておくと少し見え方が変わってくるかもしれません。

Apple Intelligenceでできること自体は、詳しくは日本語版Apple Intelligence完全ガイドで整理していますが、その裏でどんなインフラ投資が積み上がっているかを意識すると、また違った景色が見えてきます。

ひとこと:AIの主役は“チップ工場”だけじゃなくなってきた

今回のニュースを読んでいると、「半導体=何nmのチップか」という時代から、「どこでどうパッケージングするのか」まで含めて競争している時代に変わりつつあるのを感じます。

Appleにとっては、AシリーズやMシリーズの製造だけでなく、Apple Intelligenceを支えるクラウド側AIチップの調達でも、TSMCとそのパートナーのキャパシティに大きく影響を受けることになります。TSMCが外注を活用してキャパシティを増やすのは、Appleにとっても心強い反面、「インフラコストがどこまで跳ね上がるのか」という心配もつきまといます。

とはいえ、こうした先進パッケージの増強が進めば、長期的にはAIチップの供給が安定し、Apple Intelligenceのようなサービスもより身近で当たり前の存在になっていくはずです。私たちユーザーとしては、「その裏でどんな工夫と投資が動いているのか」を時々のぞき見しながら、静かに見守っていきたいところですね。

まとめ:TSMCのCoWoS外注は、AppleのAI戦略にもじわじわ影を落とす

あらためてまとめると、今回のポイントは次の3つです。

  • TSMCの先進パッケージ技術「CoWoS」がAI需要でフル稼働となり、NVIDIAやApple向けチップを単独ではさばききれなくなっている。
  • そのボトルネックを解消するために、TSMCは日月光(ASE)や矽品精密(SPIL)などに一部工程を外注し、実質的なキャパシティ拡張を図ろうとしている。
  • この動きは、Intelなど競合ファウンドリとの先進パッケージ争いの文脈でも重要で、AppleのAIチップ調達やApple Intelligenceの裏側のインフラにも少しずつ影響していきそうだ。

今後、2nm世代の量産が本格化し、AppleのAIサービスもさらに拡張されていく中で、「どの工場で、どんなパッケージ技術に載せるのか」は、これまで以上に戦略的な選択になります。今回のTSMCの外注判断は、その序章のような一手に見えました。

こうしたサプライチェーンの話は地味に感じるかもしれませんが、長期的には「どんなデバイスが、どの価格で、どのタイミングで出てくるのか」をじわじわ左右していきます。Appleの新製品やAIサービスのニュースを見るときに、「その裏でパッケージ工場はどうなっているんだろう?」と少し想像してみると、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね。

ではまた!

Source: IT之家, Wccftech