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大人の漫画読み

木枯し紋次郎 中山道を往く(二) 白刃(しらは)を縛る五日の掟 笹沢佐保

木枯し紋次郎中山道を往く(二)
著者:笹沢佐保
中央文庫

外見は、百姓家です。

かなり大きな百姓家の内部は、多い時には3日に1度、少なければ7日に1度の割合で賭場に早変わりするわけです。

賭場を仕切る板場の与衛門は、信州は千曲川の篠ノ井追分の渡しから松本へかけての一帯を縄張りとして、刈谷原に本拠を置いている貸元です。

別名を「仏の与衛門」というほど喧嘩嫌いの温厚な親分で、土地の人間からの評判は良く、与衛門の賭場についてとやかく言う者はひとりもいません。

さて、前日の六ツ半(午後7時)から始まった盆は翌朝まで続き、客は30人ほどで3分の2が旅の者、残りは松本からやってきている商人たちですが、七ツ(午前4時)を過ぎる頃ようやく終わりそうです。

1人の渡世人の前に多くの駒札が積み上げられていましたが、その渡世人は別に嬉しそうな顔もしていません。

「勝っても当然、負けても当たり前」という気持ちで賭場に臨む男の顔は年季を積んだ博打を知り尽くした渡世人。我らが木枯し紋次郎であります。

紋次郎は微笑を浮かべた与衛門親分からサシの勝負を挑まれるのですが、これは応じないわけにはゆきませぬ。

30両も勝っているうえ、「勝負を恐れた」はたまた「勝ち逃げした」などという烙印を押されることは紋次郎ほどの渡世人になれば許されないことです。

しかし与衛門の提案した勝負というのは、「自分は20両を賭ける。紋次郎さんが勝てば20両は紋次郎さんのもの(つまり合計で50両獲得)。自分が勝ったら、向こう5日の間、紋次郎さんはどんな事があっても長脇差(ながどす)を抜かない。」という奇妙なものでしてね。

生きる事に息をひそめた暗い眼差しの紋次郎も流石に怪訝な顔つきながら、一同が見守る中で大勝負が行われ紋次郎が敗北です。

勝負に敗れた紋次郎は、5日間長脇差を抜かずに通すかを検分する役目の下総無宿の吉五郎という旅鴉と共に刈谷原を発ち中山道を美濃へ向かいます。

勝負に負けたのは与衛門の顔を立てたことになるからいいのですが、旅の道ずれを嫌う紋次郎にとって5日も2人旅をするなんてとても気が重いことでした。

まあ吉五郎は好人物でしたが、街道筋を噂が伝わる早さは驚異的で、紋次郎が長脇差を抜けないと知って何事か起こるのではないかと吉五郎は危惧しています。

そうなると奇妙な賭けを挑んだ与衛門が怪しく何か下心があったのでは?と考えたくもなるのです。

 

 

 

とまあそんなあらすじですが、木枯し紋次郎と言うと中村敦夫のテレビドラマを思い出す人が多うございますね。

あたしも時代劇専門チャンネルで見ました。

でもね、笹沢佐保の原作小説もすこぶる面白いんですよ。

一話完結の読みやすい文体の股旅小説で、どんでん返しのある推理仕立てになっています。

ご存知のように紋次郎さんは無宿渡世人でして、ずーっと旅を続けています。

無宿渡世人は定住することが許されないので旅の目的はなくただ歩くのです。

紋次郎さんクラスになると一日60キロ位歩くのでビックリです。

歩くことが生きることだとでも言うように紋次郎さんが歩く天保時代の街道や宿場の細やかな描写も興味深く、紋次郎さんの目線で一緒に旅する気分になれる所が良きですね。

「木枯し紋次郎 中山道を往く」は1971年~1978年に発表された作品から、上州倉賀野宿から始まる中山道を舞台にした13篇を時系列ではなくルートで並べた傑作選になっています。

人を信じず、人との関わり合いを避け、自分の力だけで生きようとする紋次郎さんの旅はとてつもなくハードで、土地の親分に草鞋を脱ぐことはせず、もちろん旅籠にも泊まらず基本は野宿です。

しかしながら今作はちょっと違って25両の大金を懐中に持っている紋次郎さんなのだ。(換金したら31両と2分で6両2分は祝儀として賭場に置いてきた)

だがそれで気が大きくなって贅沢に飲み食いするようなことはありませんが、吉五郎の飯代も払ってやる紋次郎さんです。

また、出会った盗人小娘のお捨が、茶屋から豆餅をかっぱらって捕まった時にも豆餅の代金には過分な一分金を出してやります。

雑巾のような手甲脚絆やボロ笠を新調したら良いのにと思うけど、自分のことには金を使わないんです。

不穏な空気の街道を行きながら、与衛門は安原の太郎兵衛なる貸元と険悪でその無法ぶりを太郎兵衛の親分筋にあたる美濃の駒場の留蔵に訴える使者を送ったが皆殺されてしまったと吉五郎から聞きます。

与衛門の所へ草鞋を脱いだ吉五郎も太郎兵衛に目をつけられる恐れがあった為に、一芝居打って紋次郎の検分役として同行させ刈谷原から送り出したということなのです。

お捨は無宿人にも関わらず洞光寺という名刹が発行した「往来切手」を持っていて、これがあればどこの関所、番所であろうと通用します。

捨て子だった彼女は生まれ故郷である美濃へ行って見たいと願っていて、与衛門が「往来切手」の骨を折ってくれたというのです。

それがあだとなり、与衛門が駒場の留蔵にあてた手紙を持っているのではと疑われたお捨は、太郎兵衛一家から命を狙われる羽目になり、いつもは関わり合いになりたがらない紋次郎さんがお捨を守るため戦うのですがめっちゃ濃霧。

手紙を持ってるのは誰?

ほんとに与衛門いい人なの?

謎が謎を呼ぶ信濃と美濃の国境にある濃霧の十曲峠にて、生まれ故郷を捨てた者が生まれ故郷を知らぬ者を哀れみ闘って、あとはもう虚無です。