シポス・ジョージ 宮本百合子とその「転向」 1899年東京の知識人の家族に生まれた宮本百合子は彼女が属していた 階級から判断すればプロレタリア文学運動に参加していたとは想像しにくいかも しれません。勿論、プロレタリア文学運動は世界の中でどこでも労働階級から出 た作家たちばかりだというわけではありませんが、宮本のケースは特に珍しいと 言えます。宮本の文学活動をよく考察すれば二つの時代に分けられることが分か ります。その二つは1926年までのソビエト・ロシアに行く前の時代(いわゆ るプロレタリア文学者になる前)、もう一つは1930年の後のプロレタリア文 学者になった後の時代です。この論文では政治活動にあまり関心がなかった宮本 百合子がどうして共産主義者の作家になったかという過程を考察しようと思いま す。 宮本百合子はソ連への滞在をきっかけに1931年に秘密的に共産党員に なりましたが表向きにはプロレタリア文学運動のメンバーとして活躍しました。 百合子の夫の宮本顕示の『宮本百合子の世界』 1 という本によると彼女の ソビエト時代の変化の理由は三つあったそうです。一番目はソビエト・ロシアに おいて女性の生活と社会での役割が非常に尊重されていたことで、二番目は宮本 に精神的に非常に影響があった1928年の弟の自殺と日本社会は将来がないと 1 宮本賢治、『宮本百合子の世界』、新日本出版社、東京、1963