ライターズブルース

読むことと、書くこと

あとから生まれたわたしたちは

『ブレヒトの詩 ベルトルト・ブレヒトの仕事 3』/責任編集・野村修/河出書房新社/1972年刊 あとから生まれるひとびとに 1ほんとうに、ぼくの生きる時代は暗い!無邪気なことばは間がぬける。つややかなひたいは感受性欠乏のしるし。わらう者はおそろしい…

思い込みを解きほぐす気の長い作業について

『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』/飯田一史/平凡社新書/2025年刊 洗濯機にマグネットで取り付けられるバスマットホルダーという商品を通販サイトで見つけて、便利そうだからもしよかったら注文しようか──少し前に実家で…

上手い文章、良い文章

『私の文章修行』/週刊朝日編/朝日新聞社/1979年刊 文章が上手いということは、それを書く目的を達成できることだと思う。求人への応募書類なら一次面接に進むこと。商品紹介なら購買に結びつくこと。謝罪文なら相手の理解と赦しを得ること。フリーライタ…

「原稿料がいくらかわからない問題」について今思うこと

Excelってライター時代はほとんど使わなかった。会社員をやったおかげで少しは使えるようになりました。 ライターを廃業した理由の一つに、編集者に対する不信感というものが挙げられる。その最たるは原稿料で、振込があるまでいくらかわからないケースが珍…

いまさらの話と、いまさらのご報告

『この星を離れた種族』/パク・ヘウル 著/廣岡孝弥 訳/inch magazine/2024年刊 いまさらの話題になってしまうけれど、今年最初の読書はインチマガジンというインディペンデント・レーベル発行の『この星を離れた種族』だった。大晦日に実家に向かう電車…

ハートフィールドとビリー・ホリデイ

『風の歌を聴け』/村上春樹/講談社文庫/1982年刊 小説とエッセイの違いについて考えていた。考えるともなく、ぼんやりと。 小説は作り話で、エッセイは実際に起きたことだ、一般的にはそう思われているらしい。私も十代の頃はそう区別していたような気が…

転載3「実録:我が石原慎太郎の慎太郎」

「en-taxi」VOL.27(扶桑社、2009年9月刊)への寄稿記事を加筆修正のうえ転載します。 あなたはもうプロなんだから、一円にもならない文章を書いてはいけない。F先生にはいろんなことを教わった、これもその一つだ。もちろんメールや手紙の類はその限りでは…

転載2「先生の先生へ──没後十年に江藤淳を思う」

「en-taxi」VOL.26(扶桑社、2009年6月刊)への寄稿記事を加筆修正のうえ転載します。 フランスは借金でイギリスは相続、ドイツは山でロシアは信仰、アメリカは逃避か幽霊なのだという。国文学とされる小説はそういうことをテーマにしている、という話。 「…

転載1「先生の黙──陶工、吉田明を悼む」

「en-taxi」VOL.25(扶桑社、2009年3月刊)への寄稿記事を加筆修正のうえ転載します。 ライター稼業を始めて数年経つが、自分の書いたものを読み返すことはほとんどない。もちろん書いている間は何度となく読み返すが、いったん手を放れてしまえばそれきり。…

荒稽古のあと始末

「en-taxi」SPRING 2009 VOL.25「en-taxi」SUMMER 2009 VOL.26「en-taxi」AUTUMN 2009 VOL.27 2月は以下三本の雑誌記事をワープロソフトに打ちこんで、あれこれ手を加えていた。・「en-taxi」VOL.25掲載、「不確かさと理不尽さの合間」・「en-taxi」VOL.26…

講談社で連載した原稿を新潮社から単行本化した話

『悶々ホルモン』/佐藤和歌子/新潮社/2008年刊 文庫版『悶々ホルモン』/佐藤和歌子/新潮社/2011年刊 母校で週に一コマの非常勤講師をしていた頃、「ワカコ先生の本が市立図書館で点字本になっていましたよ」と言って実物を見せてくれた生徒さんがいた…

墓前報告、の報告

もっと実績を上げている人はたくさんいるだろうけど。誰かの何かの参考になれば幸いです。 なるべく定期的に読んだり書いたりする時間を設けようと思って、あとはわりと無目的にブログを始めて、地味にちまちまやってきた。昨年末、『ユリイカ』の依頼を受け…

報告と御礼、お詫びと訂正、などなど

現在のアクセス数は496、購入が20。だいたい25人のうち1人が購入してくれたらしい。 【報告と御礼】 12月27日付の投稿について、20人の方が購入(という名の投げ銭)してくれました。収支報告は以下のとおり。 販売額:6,000円(300円×20人) 販売手数料:▲9…

続・恩師の背中

『放蕩の果て 自叙的批評集』/福田和也/草思社/2023年刊 いずれ忘れてしまうだろうから、今のうちに書いておこう。九月の末、福田和也さんの葬儀が済んだ頃にこんな夢を見た。「死ぬのが怖い、行ったら戻れない」 どこかの公園だか河川敷だか、西陽に染ま…

場外追悼・福田和也

本日発売の『ユリイカ』増刊号に掲載予定だった記事をお届けします。縦書きの印刷物を想定して書いたからブログの体裁では少し読みにくいかもしれない。でもまあ経緯が経緯なので加筆修正はしていません。 恩師の背中 佐藤和歌子 私の最初の単行本はヘンテコ…

雑記と予告

来年のカレンダーは今年に引き続き安西水丸さんにしました。 『安西水丸 カレンダー 2025』 小山田圭吾さんが東京オリンピック開会式の作曲担当を辞任したという報道が出たとき、私が最初に思ったのは「何人目だったんだろう?」ということだった。「世界的…

カウンターの内側から

『うつわや料理帖』/あらかわゆきこ/株式会社ラトルズ/2006年刊 『うつわや料理帖Ⅱ』/あらかわゆきこ/株式会社ラトルズ/2010年刊 週に何度か鎌倉のカフェバーでアルバイトを始めた。人生初の飲食業は覚えることだらけで、最近は家でもドリップ用のケト…

今だからこそのバーコード問題

『装丁物語』/和田誠/中公文庫/2020年刊 日本で流通する書籍にバーコードが印刷されるようになったのは、だいたい1990年頃だそうだ。私は小学4年生か5年生くらいだったはずで、だからまあ自分のお小遣いで本を買うようになる頃には、あって当たり前のもの…

とんかつと酔芙蓉

今週買った本、のことでも書こうかと思っていたけれど……。 福田和也さんが9月20日に亡くなったそうだ。訃報にふれて、自分に何かやるべきことがあるだろうかと少し考えたけれども、葬儀に参列したいとは思わないし、連絡するべき知友もない。私の生きる世界…

夏季雑詠とお知らせ

『合本現代俳句歳時記』/角川春樹 編/角川春樹事務所/1998年刊 俳句の集まりに少し関わることになって久しぶりに歳時記を手に取ってみると、あまりにも状態がひどくて少したじろいでいる。意図して付けた折り皺とそうでない折り皺が無数に入っているのは…

文章の生死

『なつかしい本の話』/江藤淳/ちくま文庫/2024年刊 最近どうも、ちくま文庫ばかり買っているような気がする。 生きているうちに司馬遷の『史記』を読んでみようかと思い立ったのが数ヶ月前。現代日本語訳としてはちくま文庫版が良さそうだと当たりをつけ…

批評的であるということ(その三)

『洲之内徹ベスト・エッセイ2』/洲之内徹/椹木野衣 編/ちくま文庫/2024年刊 大学で在籍していたゼミでは学期中に一回か二回、外部から講師を招いてのゲストレクチャーがあった。ゲストは作家や漫画家や舞踏家など、幹事をする学生によってさまざまで、…

批評的であるということ(その二)

『日本の家郷』/福田和也/洋泉社新書/2009年刊 『日本人の目玉』/福田和也/ちくま学芸文庫/2005年刊 「小林秀雄賞を擁する新潮社が洲之内徹の本を絶版にしたことは、批評的ではなかった」と前回書いた後で、なんだかバカなことを書いてしまったなと思…

批評的であるということ(その一)

『洲之内徹ベスト・エッセイ1』/洲之内徹/椹木野衣 編/ちくま文庫/2024年刊 御社は新しい本を作ることより今ある本を売ることを考えたほうがいいと思いますよ、と新潮社の人に言ったことがある。もう十年以上前のことだ。新潮社といえば歴史も知名度も…

古典のろのろ歩き

『新源氏物語』一 改版/田辺聖子/新潮文庫/2015年刊 『方丈記』/鴨長明/浅見和彦 校訂・訳/ちくま学芸文庫/2011年刊 源氏物語といえばイケメン貴公子があちこちで女をたぶらかしては泣いたり泣かせたりするお話でしょ、私は別にいいや、と敬遠してい…

コロナ文学(仮)

『私たちの世代は』/瀬尾まいこ/文藝春秋/2023年刊 『戒厳令下の新宿 菊地成孔のコロナ日記 2020.6─2023.1』/菊地成孔/草思社/2023年刊 例の感染症の流行によって、従来ありえたはずの学校生活を失った子どもたち。『私たちの世代は』は、渦中の彼らの…

14歳の彼へ

個人的14歳向け課題図書 中学二年生の甥っ子に、姉が手を焼いているらしい。学校のプリントを失くしたとか宿題を放ったらかしにしているとか、親としてヤキモキする気持ちはわかる。一方で祖父母や叔母(私)の前でそういう話をされて、余計にふて腐れる甥っ…

教科書を閉じて

『新詳説 国語便覧』/東京書籍/1995年刊 『司馬遷』/武田泰淳/中公文庫/2022年刊 私が高校生だった頃の国語の教科書は「現代文」と「古文・漢文」の二種類だった。それが二、三年前に大幅に改変されたらしい。 小説を読んで登場人物の心情を読み取ると…

「私」と「誰か」の相関と互換

『一人称単数』/村上春樹/文春文庫/2023年刊 一人称単数の短編小説を、村上春樹さんは過去にいくつも書いている。この短編集に収録された八編には「”僕”もしくは”私”が語る物語」という以外にも、それが小説家・村上春樹である(と思わせる)という共通点…

弟子時代の遺物(その三)

『コスモポリタンズ』/サマセット・モーム/龍口直太郎 訳/ちくま文庫/1994年刊 お世話になっていた先生の自宅からサマセット・モームの文庫本を十冊くらい引きとった経緯については、以前書いた。代表作とされる長編小説と、晩年に書かれたエッセイ集と…