組織の一員として「やるべきこと」、ひとりの人間として「やるべきこと」。ふたつの感情をぶつけ合いながら誰しもが働き、生きているだろう。映画『ただ、やるべきことを』はリストラで従業員を解雇しなければならない人事チームの社員たち、それぞれの決断をリアルに描く。
映画の舞台は韓国パク・クネ大統領の退陣を求める大規模な「ろうそくデモ」が行われた2016年、造船業は世界的不況に見舞われ多くのリストラと廃業があった。漢陽重工業入社4年目のジュニは人事チームに異動するとすぐ、リストラ対象者の名簿を作るように指示される。会社を立て直すためと自身を納得させ、やるべき仕事をこなしていくが会社都合で対象者が絞り込まれていき、親しい先輩と友人、そのどちらかを選ばなければならない状況に追い込まれていく――。
本作は『JSA』『建築学概論』などの制作会社ミョンフィルム(イ・ウン代表)が未来の韓国映画をリードする映画人育成を目的として設立した、ミョンフィルムラボ6期のパク・ホンジュン監督長編デビュー作品。造船会社の人事で働いた経験を基に、職業上の義務と個人的感情の間で板挟みになる労働者の心理を深い視点で描き出した。主演を務めたチャン・ソンボム(ドラマ「秘密の森」「新兵」など人気作に多数出演)は第28回釜山国際映画祭「今年の俳優賞」を受賞。リアリティーを極限まで高めた俳優陣の演技が称賛された。
従来の映画の多くは解雇される人々が会社と一戦交える物語でありそれは勝利の、逆転の、希望のドラマだ。しかし、現実はそんなに輝かしいものではない。本作はリストラを実行する人事部社員の視点から、労働者と会社の対立、その間に幾重にも重なる様々な悲劇と哀しみを映し出し、労働映画に新たな角度から迫る。理想と現実の間でもがきながら生きる、わたしたちの物語がそこにはある。
企業がリストラを実施すると、外部からは労使間の対立が生じるように見えるが、内部の視点は異なる。命令を下した主体は一歩引いた立場で観察するだけで、結局は労働者同士の対立が生じるだけだ。
それぞれの立場と役割に応じて、ただ最善を尽くして生きるだけの各構成員の利害関係が複雑に絡み合う。その後残るのは、粉々に砕け散った従業員同士の絆と、生き残ったというわずかな安堵感だけである。いつ解雇されるか分からない不安と共に、資本の巨大な力の前で労働者は多様な形で敗北を余儀なくされる。
労働問題を扱う物語は、主にリストラの直接的な被害者が会社を相手に戦う形で描かれてきた。では、リストラの実行者として、ただ自分のやるべきことを行うだけの人事チームの労働者は、果たしてどのような姿なのだろうか。
リストラのプロセスを取り巻く様々な層の人物を通じて、私たちの時代の労働環境の本質についての物語を観客と共有したい。

1995年生まれ。ソウル特別市出身。極東大学演劇演技学科。2013年、映画『ファイ 悪魔に育てられた少年』で俳優デビュー。主な出演作に映画『軍艦島』(2017)、『君の結婚式』(2018)、『国家が破産する日』(2018)、『満ち足りた家族』(2019)がある。最新作『ABROAD』(2025)では米韓合作映画に出演し、第27回富川国際ファンタスティック映画祭 長編部門俳優賞を受賞。本作『Work to Do』では、第28回釜山国際映画祭にて今年の俳優賞を受賞した。

1984年生まれ。京畿大学演技学科。主な出演作に映画『ワーニング その映画を観るな』(2019)、『植物カフェ、温情』(2021)、『FIRST CHILD』(2021)、『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』(2023)、『Lucky, Apartment』(2024)、Netflixシリーズ『殺人者のパラドックス』(2024)など。最新作にNetflixシリーズ『エマ』(2025)、Disneyプラス『濁流』(2025)、映画『The Ugly(英題)』(2025)がある。

1974年生まれ。釜山広域市出身。ドラマ『悪霊狩猟団:カウンターズ』(2020)、『ビッグマウス』(2022)、『偶然出会った、あなた』(2023)、映画『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』(2023)に出演。最新作にNetflix映画『啓示』や、ドラマ『台風商事』がある。本作ではソウル独立映画祭にて独立スター賞、釜山独立映画祭では最優秀演技賞を受賞。

1971年生まれ。釜山広域市出身。1999年にデビュー。主な出演作にドラマ『仮面の王 イ・ソン』(2017)、『ジャスティス-復讐という名の正義-』(2019)、『ヴィンチェンツォ』(2021)がある。近年の出演作として映画『コッドゥの季節』(2023)、ドラマ『九尾狐伝1938』(2023)、『仮釈放審査官 イ・ハンシン』(2024)、Netflixシリーズ『終末のフール』(2024)、『恋するムービー』(2025)など。

1978年生まれ。2005年にデビュー。映画『枯渇』(2014)で主演を務め、主演女優賞を受賞し演技力が高く評価される。その後もドラマ『不滅の恋人』(2019)、『ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた』(2021)などに出演。最新作に『Will You Please Stop, Please (英題)』(2024)、『奇奇妙妙2』(2024)がある。

1990年生まれ。ソウル特別市出身。ソウル芸術大学写真学科。ドラマ『あなたのハウスキーパー』(2018)、『朝鮮生存記』(2019)、Netflixシリーズ『賢い医師生活』(2020)に出演。短編映画『重なりゆく夏』(2022)では主演を務め、第23回全州国際映画祭 韓国短編競争部門 短編映画賞を受賞。最新作にNetflixシリーズ『明日』(2022)、映画『A Tour Guide』(2023)、ドラマ『O'PENing: Surgical Road Trip (英題)』(2025)がある。

1964年生まれ。漢陽大学舞踊学科を卒業後、1978年に俳優デビュー。主な出演作に、映画『フー・アー・ユー?』(2002)、『僕の彼女を知らないとスパイ』(2004)、『不機嫌な男たち』(2004)、『君への挽歌』(2022)、『シングル・イン・ソウル』(2023)、ドラマ『王と妃』(1998-2000)、『太祖王建』(2000)、『明成皇后』(2001)、『鄭道伝』(2014)、『Jingbirok』(2015)、韓国版『ソロモンの偽証』(2016)、『ブラック~恋する死神~』(2017)、『大丈夫じゃない大人たち~オフィス・サバイバル~』(2021)、『百人力執事~願い、かなえます~』(2022)、『有益な詐欺』(2023)がある。

1988年生まれ。釜山広域市出身。2015年にデビューし、短編映画の演出、脚本、出演も手がけながら、ドラマ『ゴースト・ドクター』(2022)、『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』(2022)、『サムダルリへようこそ』(2023)、『無人島のディーバ』(2023)、『浪漫ドクターキムサブ3』(2023)等に出演。今後の出演作として、ドラマ『プロボノ』の放送が控えている。








職場で働きながら短編映画『Moving day(이삿날)』を演出し、2017年の釜山独立映画祭、2018年のIndie Forumなど、複数の映画祭に招待された。本作『ただ、やるべきことを』は、実際に造船所の人事チームで勤務した経験を基に執筆された作品で、人員整理による対立を通じて、書類上の数字の向こう側に存在する労働者の物語を描いている。
短編映画『Moving day(이삿날)』(2017)、『Smoke on the Love(만끽연가)』(2018)
2023年 釜山国際映画祭 今年の俳優賞、韓国映画監督協会プラスエム賞
2023年 釜山独立映画祭 最優秀演技賞、審査員特別賞
2023年 ソウル独立映画祭 独立スター賞、長編コンペティション部門最優秀作品賞
身につまされ、胸が締めつけられる。リストラする側に立つという新しい視点の「お仕事ムービー」。個人としては優秀で誠実でも、「組織の一員」となった瞬間に目が鉛色に変わってしまう人が身近にもよくいる。自分も例外ではないし、この映画で起こる現実はきっと誰もがよく知っていること。映画はきわめて端正で、静かで力強いエネルギーに満ちている。
一見して地味に思えるが、実は途轍もない傑作が爆誕していることを、世界中のどれだけの人が知っているだろうか。どんなホラーとサスペンスも超える日常がここにある。2020年代を代表する韓国映画。
仕事という当たり前のような切り札が、やるべきことをする全ての人の心を痛ませる。
何を生業にし、どう生きるか、どう終えるか、せめて自分の意志で心を痛めたいものだ。
オフィスチェアのキャスターが立てるカラカラという軽くて乾いた音が、映画の中で響きつづけている。これは現代の労働の音だ。誰かの人生を選ぶという仕事。苦しむことは苦しい。だから嫌になる。しょうがないと言いたくなる。でも「しょうがないよね」がこの作品の感想になってしまうのだとしたら、この映画はなぜわたしたちに手渡されたのだろう?
華麗なスターパワーにも、表面的な映像美にも、情緒的な音楽にも、お決まりの善悪二分法にも、頼ることはない。監督パク・ホンジュンの、社会と人間を見据える緻密で強靭な視座そのものが、全編を息つく暇なく引っ張りつづける。いま語るべきこと、自分だけが語れることを確かに持っている作家の、比類なき強さを見せつけられた思いだ。
周囲の人の幸せを思い、善くありたいと願って生きる個人が、いかにして大きな冷酷さを背負わされるかを描いた傑作。ここには、解雇する者とされる者、ともに組織に従うしかない立場であるその両者が、しかし対立させられる構造がある。そして、それを暗に支えるものが「住宅ローンの社内融資」に象徴される「家族愛」に他ならないという、忌憚のない真実が。この映画が、いかにして社会が(愛が)冷酷であるかということの、ひとつの答えだ。
『ただ、やるべきことを』は、
沈黙と選択の重さ、そして前へ進むことが何を意味するのかを、
最後まで押し切って描き切る映画です。
物語を信じる出版人として、この作品が投げかける問いは長く心に残り、
本のように何度も読み返したくなります。