浮雲=物事が落ち着かず不安定な様。そんなゆき子の恋やいかに。

日本映画浮雲

 

 

恋愛もの。

人の恋路はどうでもよいし、ましてやそれが主軸の映画ならば、相当に惹きつけるものがないとつまらなくなりがち。これは、面白い!簡単に説明すれば、恋愛ぐだぐだものなのだが、もう一度、これは面白い!

 

主人公ゆき子を演じた高峰秀子がきれい。モノクロ画面に長めに細く整えられた眉、なめらかなお肌。22歳から何歳なのか不明だが、年月が経っていく女を演じ分けていて、どの年代でもその年代の美しさを醸していた。

 

第二次大戦下、タイピストとして渡航した22歳のゆき子はフランス領インドシナ赴任先にて妻帯者の富岡と出会う。パフスリーブのワンピースを着た品の良い美人のゆき子。一目で富岡にロックオンされる。給仕しながらそれを冷たい目線で刺す女中。なかなかの美人。このシチュエーションだけで、女中と富岡は関係していることが分かる。

ツンツンした態度で毒舌を吐いてゆき子に嫌な奴インパクトを与えておき、翌日ジャングル的な所へ散歩に繰り出す。そこでいきなりの接吻。富岡にしたら、ちょろいもんです。富岡はちょいといい感じの女がいると瞬殺でモノにするチャームを持っているのだ。

 

お嬢様感たっぷりのゆき子、やばい男に出会ってしまう

戦後の引き揚げ船にゆき子。真っ先に東京の富岡の元へ向かうが、別れると行っていた妻が普通に家にいた。別れてない。。。なんなの?とがっくりくるゆき子だが、なんやかやとその後も関係を続ける。

 

富岡がほんとにしょうもない男で、連絡不能になったり色々あって、戦後の女ひとり生きていくのに仕事も見つからず、ゆき子はパンパンに身を落とす。

 

パンパン=戦後、主に米兵を相手にしていた娼婦。すごいネーミングです。

 

「おまえ、パンパンやっとるそうやないか。」

もう一人の最低男がゆき子のバラック小屋を訪ねてくる。この男は義理の兄で、ゆき子が手伝いで上京して同居していた間、生娘のゆき子の寝込みを襲い手籠めにしていた。しれっと現れて「布団返せ」、「商売道具で困るか!」と言いたい放題、し放題。

 

そんな部屋に富岡もしれっと訪ねてくる。どの面下げて?という感じだが、ゆき子は「どうぞ」と部屋に招き入れ、茶に贅沢品であろう砂糖を入れる姿に、富岡はなんだか羨ましいとか言い出す。結婚の約束反故にされて、パンパンしてんだよ?何を悠長に言っとるんですか?と呆れるが、ゆき子は違う。

 

連絡も寄こさないでと言いつつ「ご家族どうなってんの?」とけだるくクールに会話をする。米兵が訪ねてきてゆき子は部屋を出る。電気も通っていない暗い部屋でひとり待つ富岡。情けないことこの上なしだが、「返したわ」と程なくゆき子は戻る。

 

何の責任も愛情も見せない富岡だが「時々は遊びに来てもいいだろ」と勝手な提案はするっと悪びれずに言うもんで、はぁ?後ろ蹴りかましたろか!てなもんですが、「それが本心なのね、あなたって人は。」と怒りつつ、でもまだゆき子は富岡を好きみたいです。

 

富岡、義理の兄からもひどい態度を取られているわけなのだが、ゆき子は耐え忍んでいるって感じでもなく、結構言いたいことは言ってます。セリフが面白い。これは林芙美子の原作から面白いんだと思う(未読)。

 

富岡の女癖が悪すぎて、ほとんどコント。ゆき子の機嫌を取るため、小旅行に出向いた先で知り合った気のいい旦那の家に泊めてもらうことになる。その旦那の若妻おせいさん役が岡田茉莉子。ゆき子とはまたタイプのちがった美人で富岡の目が光る!

 

色っぽい おせいさん。富岡が放っておくはずがない。

隣にゆき子がいるのだが、そんなことは気にしない富岡。気のいい旦那に風呂に案内してあげなさいと、おせいさんと温泉場まで石段を上がっていく道すがら、富岡がいきなり接吻。出たな、デジャブ。

 

んで、次のシーンではいきなりの混浴。もう何かあったんでしょうか。昔の温泉場は混浴が普通だったようですが、隣り合って湯に浸かる、余所余所しさゼロのふたりを見よ。

さっき会ってばかりだが、急に混浴でリラックスしてるイケナイふたり。

こんな富岡なので、成敗も下る。家を出て東京で富岡と暮らしてるおせいさん。気のいい旦那がおせいさんを探し出し、事の次第を知って刺殺してしまう。その事件を富岡の子供を堕胎した病院のベッドで、隣のベッドの女が読んでいた新聞の見出しで知るゆき子。”情夫”として富岡の名前も新聞に出てしまっている!こんな時に最悪ダメージを受けるゆき子。

 

富岡は何も言わずに引っ越したりして連絡が途絶えまくる。なんとか富岡にたどり着くと、いつも女がいる!おせいさんだったり、10代と思しき子だったりして、富岡不在中にゆき子と対面することになるが、ゆき子がいい感じなのが、ばったり出会って富岡との関係性を見透かしていても、この女達、本妻を責めたり喧嘩したりしないところ。富岡が悪いって心の底からわかっているんでしょう。そんな富岡を好きなのは自分の勝手だし、と。

 

おせいさん亡き後もゆき子と富岡の関係は続く。とうにおせいさんはこの世にいないのだが、事あるごとにゆき子は「やっぱり、おせいさんが好きなのね。」と富岡に聞く。

 

いや、違うって。まだわからんかね。おせいさんも過ぎゆく女の一人で、ちょいといい感じだとつまみ食いせずにいられない富岡なのだ。都合よく側にいてもらっているその時の女だというだけ。ゆき子はあと何回無下にされたら気づくのだ。

 

もう、別れろ!と思うが、しばらくして富岡がゆき子を訪ねてきた。お手伝いさんのいる大きな屋敷に住まうゆき子。綺麗な着物を着て、すっかり羽振りのいい様子。対して、富岡。ものもらいなんだと眼帯姿が痛々しい。家に上がって、お手伝いさんが富岡の靴を揃える。その靴のボロさ加減。富岡は金を無心しに訪ねたのだった。まだまだ未練のあるゆき子。この眼帯男に何か魅力が残っていますか?というくらいなのだが、もちろんゆき子と富岡の関係は続く。

 

富岡は生活の立て直しを考え、新しい職を手にする。屋久島に赴任することになった富岡にゆき子は言う。「私も屋久島に連れてってください、そうしたら私も納得しますから。」そう、ゆきこは納得していないのだった。富岡と己の行く末を。納得していないから、終わりに出来ないのだった。

 

ゆき子はそれほど乗り気でもなさそうな富岡と共に屋久島へ向かう。ここまでゆき子を見た私。もう、ゆき子の恋にあっぱれと感じ入る。ここまでこの男に拘るならば、それも恋。ゆき子の恋。至極真っ当な恋に、これも入ると確信。富岡の気持ちがどうだろうと、富岡がダメ男でも、ゆき子にとっての最高の男で恋なのだと、ここまで来て納得する。あ、ゆき子の前に納得してしまった。

 

屋久島行きの船が嵐で3~4日出港しない見込み。その間に体調を崩し、宿で寝込んでしまうゆき子。明日にでも出港する船があると仲居さんに聞き、見ている私だけでなく、病床のゆき子も富岡がゆき子を置いていくだろうと思う。また行方をくらますのだ。涙するゆき子。

 

しかし、富岡は港まで行って戻ってきた。病状の良くならないゆき子は担架で担がれながらも屋久島の家に着いた。

 

病状が回復しないゆき子。月に35日雨が降ると揶揄される屋久島で、雨風でバタつく窓を閉めようと立ち上がったゆき子はそこで力尽き、息絶えた。

 

呼び出されて家に戻った富岡。一人にしてほしいと布団に横たわるゆき子を前に泣く。美しいゆき子の死に顔に紅を差してやる。モノクロ画面のゆき子に心なしか色が差し、幸せの表情が滲むのを私は読み取った。

 

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