< 焼き餃子を注文した時だけ デフォルトで置いてあるのとは違う「お酢」が出て来るですねえ >
昔は美人の、呑み仲間セーコちゃんは食べるのも大好きで、いつもアッチコッチ冒険的食べ歩きをしています。
いろいろチャレンジャーなんですね。
私もセーコちゃんほどではないにしても、ウロウロ食べ歩きをしていますので、焼酎バーで一緒になれば、互いに情報交換とか、ゆる~くやっております。
「昔は美人」発言はご自身からのものですので、悪しからず。
この日もカウンターで隣り合わせて、不思議な中華屋さんを見つけたっていう話をセーコちゃんがし始めました。
「あのね、会社の人がその近くに住んでんの。それで分かったらしいんだけど、住宅街にあってね、車が2台ぐらいしか停まれない駐車場があって、2階建ての一軒家。ぜんぜん看板とか出てないし、ちっとも中華屋さんの感じじゃないのよ。玄関からじゃなくって駐車場側のガラスの引き戸から入って行くの」
隠れ家タイプ、とかいうやつですかあ。
「線の細い感じの女の人が1人でやっててね、あんまり積極的に商売しようって気がないのかもよ。会社の人のお勧めはスーラータンメンでね、熱々で食べても全然むせない、イイ感じの酸っぱさだっていうから、ネットでググって、こっそり行ってみたのよ」
むせちゃうの、ありますよねえ。スーラータンメンが苦手の人って、それが理由だったりします。でも、なんで、こっそり?
「だって一緒に行ってさあ、美味しくなかったら面倒くさいじゃない。あたしってば、ほら、正直だから、すぐバレちゃう」
ふむ。で、どうだったの?
「抜群に美味しかった。今まで食べたスーラータンメンの中でダントツ! ホンモノよ」
ほほう、それはそれは、なによりじゃないですか。なしてホンモノを知っているのかってところにはツッコまないでおきますけど。

「ところがね、話はここからなのよ。あのねっ、あのねっ……」
セーコちゃんはその中華屋さんの味付けがいたくお気に入りだってことで、これだったらチャーハンとかもモノスゴク美味しいんじゃないかってことで、すぐに2回目の訪問を果たしているそうです。
これはなかなかですよね。
その中華屋さんの場所は電車で1回乗り換えて、駅としては8つ離れた町の住宅街。電車から降りて20分ちょっと歩くそうですから、近くはないんです。
紹介された店で食べて、満足したにしても、すぐに2回目の「こっそり」訪問っていう行動に出るっていうのは、よっぽどだと思います。
で、セーコちゃん、休みの日の昼、2回目の訪問。
5人座れるカウンター席と、4人がけテーブル席が2つ。
テーブル席に中年のカップルが1組。
セーコちゃんは「こっそり」カウンター席へ。
カウンターには銀の長皿にソース、コショウ、ラー油、しょう油、酢がひょろ長いガラス瓶に入って並んでいて、その脇に透明のT方アクリル板メニュー立て。
手に取ってしげしげと眺めたそうです。たしかにね、一回目でその店の全体を把握するのって難しいですからね。初回もそのメニューを見たはずなんだけど、その時はスーラータンメンしか目に入っていなかった。
中華屋さんに普通にあるメニューはなんでもひと通りある感じだったけど、アルコールのメニュー、ソフトドリンクのメニューが1つもない。裏側をひっくり返しても、そっちは白紙。
厨房から大きなお盆を手に、店の女の人が出てきて中年カップルのテーブルへ、
「お待ちどうさま。スーラ―タンメンどうぞ。はい、こっちはチャーシューメンね」
スーラータンメン、やっぱり人気なんだなあと思いながら店の中をグルリ見回してみても、ビールなんかが入っているガラスの冷蔵ボックスも見当たらないし、棚に焼酎やら紹興酒やらのボトルが並んでもいない。
アルコールはありません。一切なし。ビールも、って計画していたのに。。。
でもまあ、いっか、っていうことでチャーハンと餃子を注文。
注文してからセーコちゃんはハッと思いつきます。夜になったらメニューが変わるんじゃ?
たぶんそうだろう。作っているところはハッキリ見えない厨房の方に声を張って聞いてみた。
「夜は何時までやってるんですかあ?」
カチャカチャ、ジャージャーいっている奥の方から、軽く、すぐさま返答。
「夕方4時で閉店です」
どっひゃああ! そりゃね、セーコちゃんじゃなくたって驚きます。
で、さらにセーコちゃんの驚きは続きます。こう聞かれたそうです。
「餃子はしょう油? 黒コショウ?」
長皿に乗っているのはしょう油と白コショウ。アタマが真っ白になってタジタジと、
「あ~。く、黒コショウで、お願いします」
なぜに黒コショウ? 根拠なし。でしょねえ。イイんですけど。
そしたらですね、その人は小皿と柄のついた高級そうな陶器と、黒コショウのミルを持って厨房から出て来て、
「ウチはお酢にこだわってましてね、これ、黒コショウ用のお酢が最高級。そこに置いてあるしょう油用のお酢だって、普通の店じゃ使わないレベル。っていうかそれがマトモなお酢なんですけどね」
目の前に置かれた高級そうな陶器に入っているのは、最高級のお酢。しかも黒コショウ専用。
セーコちゃんは餃子を黒コショウで? って思いながらもただ素直に頷いて聞いていたんだそうです。
ダメじゃんセーコちゃん。前に「赤坂眠眠」の酢コショウ餃子の話したじゃん。覚えてない、んですねえ。ま、イイんですけどねえ。
私も3回ぐらいしか行ったことないんですけどね。たしか赤坂眠眠の酢コショウ餃子は白コショウだったですけど、ふむ、そのお店は黒コショウなんですね。
黒コショウって単価が高いからなのか、普通の中華屋さんのテーブルに置いてないですよね。デフォルトで置いてあるのはたいてい気の抜けた白コショウ。
ま、それは別の話として、10分ぐらいでチャーハンと薄皮餃子、同時に持って来てくれたそうです。
厨房の中はよく見えない作りになっているんだそうですけど、ホントに女の人1人でやっているんだとすると、かなり手際のイイ料理人さんですね。
チャーハンも旨いし、黒コショウ餃子もバツグンに旨かったってことで、なによりでしたねえ。
中年カップルも満足そうに出て行って、セーコちゃんが会計をしてもらう時に、
「この前スーラータンメン食べてくれたでしょ。どうだった? うちのはね、お酢が違うから、気持ちイイ酸っぱさだったでしょ。人気なのよ。身体にもイイし。はい、ありがとうございました。また御贔屓に」
で、セーコちゃんはそこで食べてきたことが自慢なんです。
「黒コショウとお酢なんだよね、餃子は。知らなかったでしょ」
だから、赤坂眠眠の酢コショウ餃子の話、したじゃん。黒コショウじゃなかったけど。
「あのね、ぱうすさん。お酢っていうのはね、ちゃんと選ばなきゃダメなのよ。あたしはその味を覚えてきちゃったもんねえ」
ふむ。どういうお酢を選べばイイの?
「それはねえ、あのねえ、……。これからあのお店で教えてもらうのよ」
ええ~!? ってことでしたので今さらながらな感じもしますけど、調べてみました、お酢。
ちなみにスーラータンメンなんですけど、たしかに最初のひとすすりでむせちゃう店ってありますね。あれってやっぱりダメなお酢ってことなんでしょうね。知らんけど。
サンラータンメンっていうのもありますよね。
あれは「酸辣湯麵」の読み方が違うだけで、どっちもまったく同じもの。
そしてですね、中国湖南料理にあるスタンダードなスープ「酸辣湯」に麵をいれちゃったのは日本独自なものなんだそうです。
つまり、スーラ―タンメンだろうがサンラータンメンだろうが、麺が入っているのは日本発祥ってことなんですね。
さて「お酢」の話です。
都市伝説の1つみたいな話に「酢を飲むと身体が柔らかくなる」っていうの、ありますよね。
知り合いに、ラーメンでもチャーハンでも、なんにでも酢を回しかけてから食べるヤツがいるんですけど、「肩凝りが良くなるんだよ」って言ってます。
信じるものは救われる、のかもですけど「酢を飲むと身体が柔らかくなる」っていうのは、ハッキリと迷信なんだそうです。
料理する際に肉、魚を酢に漬け込んでおくと柔らかくなるってことから、人間の身体にも、っていう発想から出てきた迷信なんでしょうけど、なんとなくみんな信じているところがあるような気もしますね。
肉や魚を酢に漬けこむとペーハー値が下がります。
ペーハー値が下がるとタンパク質分解酵素の働きが活発になって、筋繊維の結束が弱まるので柔らかくなるんだそうです。
で、人間が酢をたくさん摂取したり、飲んだりした場合、内蔵で分解されて吸収されるので筋肉に直接作用することはない。ってことなんでありますよ。
でもね、酢にはいろいろ嬉しい健康効果を期待できるんですよね。
疲労回復効果。
体脂肪、内臓脂肪の減少。
便秘解消も期待出来て、美肌効果も。
酢はなかなか凄いヤツです。
人類の歴史と酢の歴史はほぼ一緒っていう説もあるんだそうです。長~いお付き合いなんですねえ。
紀元前5000年、バビロニアでナツメヤシ、干しブドウから酢を作っていた記録が遺っているそうです。
奈良時代の日本、3世紀ごろに中国から酒造りと共に酢作りが伝わって来たってされています。
酢作りは和泉国、今の大阪で盛んに行われるようになって、江戸時代までずっと主な生産地だったそうですよ。
肉食が禁じられていた奈良、平安の時代は魚が主菜で、しかも多かったのは干物。
それを酢か塩に付けて食べるのが普通の食事だったそうです。
室町時代になって、生魚を細く切って酢で味を調合する鱠(なます)の原型が食べられるようになって、膾はメインディッシュだったみたいなんです。
酢が調味料として使われ始めたってことですね。
江戸時代になってしょう油が作られるようになると、調味料の主役が酢からしょう油に代わって日本の食文化を一気に発展させます。
酢は酢でそのバリエーションがいろいろ工夫されるんですね。
味噌、砂糖とのコラボレーション、味噌酢、二杯酢、三杯酢。合わせ酢ってあたりが登場して来ます。
江戸時代後期になりますと、現代につながる「握り寿司」が考案されますね。
いまよりだいぶシャリの量が多くてデカかったらしい。
この寿司に使われた、いわゆる寿司酢は酒粕から作った「粕酢(かすず)」だったそうです。
日本の酢は米から作られる「米酢」がスタンダード。
米酢っていうのは日本酒から作るんですよね。
その作り方にはいくつかバリエーションがあって、それによって味、風味と値段が違う。ってことなんであります。
まず、専用の米を蒸します。
蒸しあがった米に麹を加えます。
麹が米のデンプンをブドウ糖に変化させます。
充分に変化が起きたら酵母を加えます。
酵母の働きによってブドウ糖はアルコールに変化します。そうです、日本酒になるんですね。
日本酒の表面に酢の基になる「酢酸菌」を浮かせるようにそっと置いていきます。
酢酸菌は大量の酸素を消費しながら、少しずつアルコールを有機酸に変化させて、じっくり1年ほどかけて酢、「純米酢」が作られていくんですね。
これが唯一ホンモノの酢っていうことになります。
米の他にも何かの穀物を使用したものは「米酢」
ここまでは、まあ、分かりやすい区別ですよね。
スーパーに並んでいる酢のボトルに書いてある種類は「醸造酢」「穀物酢」「果実酢」だったりします。
売られている酢はほぼ全部が醸造酢。
醸造酢は、穀物、果実、野菜、さとうきび、蜂蜜、アルコールなどを原料として、酢酸発酵させて製造したもの。
穀物酢は、穀物を使用した醸造酢の内、穀物や果実以外の農産物、蜂蜜を使っていないもの。
果実酢は、果実を使用した醸造酢の内、穀物や果実以外の農産物、蜂蜜を使っていないもの。
選択肢がたくさんあるっていうことは、ま、悪いことじゃないんですけど、酢のボトルの裏面に書かれている成分表を見て、なにがなんだか? っていうことになっちゃっているのが実情かもしれないです。
しっかりしたホンモノの酢を探し出す大きな1つの目安になるのが「アルコール」です。
日本酒の表面に酢酸菌を入れる際に「通気攪拌発酵」っていう方法があって、圧倒的に早く酢を作れちゃうんだそうです。
読んで字のごとくで、酒のタンクの下から空気を送り込んで攪拌。強制的に酸化させて、1年ぐらいかかるところを1週間ほどで出来上がり! 圧倒的に早い。
商売としてはこの「通気攪拌発酵」を選びますわなあ。
この強制的に酸化させるのに使われるのがアルコールを酸化させた酢酸。
このアルコール酢酸によって酸っぱさが倍から3倍ほど強くなっちゃうので、薄めて販売する。
圧倒手的に早くできて、薄めることによって大量にもなる。
薄くなってもトゲトゲした味は残るんですね。
もちろん純米酢に比べれば、すんごくリーズナブル。
酢なんて安いのでええねん!
ってことであれば何も問題はないんですけど、身体のこと考えたり、たまには旨い酢を味わってみようかっていうときに、値段が高いくせに成分表に「アルコール」が入っていたら、その酢は止めといた方がイイですよ、ってことなんであります。
セーコちゃんが行ったその店のスーラータンメン。食べたいですねえ。
純米酢に黒コショウで、薄皮の餃子。スーラータンメンとは別の日に、やっぱりチャーハンか、ラーメンと。
特別に用意された、その「酢」も味わいたいです。
そういえば「味ぽん」って、酢、なんですよね。あれはあれで、いろいろ使えて旨いですよね。
酢にもいろいろあります。
いつもいつもコーキューな酢ばっかり使っていられないですけど、たまには、ね。
酢とは仲良くしておいた方が、人生、お得でっせ! 知らんけど!
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