早稲田大学の野口晴子教授と京都大学大学院の井上浩輔教授の研究グループは、仕事からの引退に認知機能を維持・改善する効果があること、そしてその効果は個人差が大きいことを明らかにした。
高齢化により多くの先進国で年金支給開始年齢が引き上げられ、引退時期が遅くなると予想される。一方、引退が高齢者の認知機能に与える影響については、先行研究でも結果が一致していない。影響の個人差が大きいことが原因とみられるという。
そこで今回、欧米19か国の50~80歳の7432名(うち引退者2165名)を対象に、引退と認知機能の関係を機械学習モデルにより解析。その結果、引退した人は働き続けている人より平均1.3語多く単語を記憶し、認知機能の維持・改善効果が示された。しかし、その効果は-0.5語~+2.3語まで個人によってばらつきがあり、引退すると認知機能が下がる人もわずか(1%)だがいた。
引退による認知機能の改善効果が大きかったのは、女性、高学歴、デスクワーカー、高所得・高資産、引退前の健康状態が良好で運動習慣があった人などだった。
改善効果が大きい理由として、女性は男性より活発な引退後の人付き合いや、仕事と家庭の葛藤からの解放が、また、高学歴でデスクワーカーの人は知的労働による認知機能への刺激が引退後も効果を持つ可能性が指摘されている。さらに、高所得・高資産の人は引退して給与所得を失っても健康投資できる余裕があること、また、引退前の健康状態が良好で運動習慣があった人は活動時間が多く、引退後の運動継続が認知機能の維持に役立つことが考えられるという。
これらの結果は、引退というライフイベントを境に健康格差が拡大する可能性を示唆しているという。

