群馬大学、熊本大学、理化学研究所、山口大学の共同研究グループは、父親の精子に生じたDNA配列以外の変化が子どもに受け継がれ、体質の変化や病気の発症を引き起こすことを世界で初めて示した。
これまで、子どもの特徴は親から受け継いだDNA配列によって決まると考えられてきた。一方で、糖尿病の父親の子どもが糖尿病になりやすいことや、高齢の父親の子どもに自閉症が多いことなど、DNA配列だけでは説明できないものもある。近年、ストレスや病気、加齢などによって精子に生じたエピゲノム(DNA配列を変えずに遺伝子の発現を制御する化学的修飾)の変化が子どもに影響する可能性も指摘されている。
今回の研究では、精子のDNA配列は変えずに、特定の遺伝子領域だけを狙ってエピゲノムを調節する「精子特異的エピゲノム編集システム」を新たに開発した。このシステムでは、精子が作られる過程でのみエピゲノムの書き換え因子が働くため、精子に限ってエピゲノムを変化させることができる。
この技術を用いて、先天性疾患であるシルバー・ラッセル症候群の患者でエピゲノム異常が知られている遺伝子領域「H19-DMR」を標的とした検証をマウスで行った。通常、この領域は精子において高いメチル化状態にあるが、精子特異的エピゲノム編集システムによってメチル化を低下させると、その変化が子どもに受け継がれ、低体重や体の左右差などシルバー・ラッセル症候群に似た特徴が現れることが確認された。ただし、精子に生じた変化の一部は、受精後に修復・調整されることも明らかになった。
以上の結果から、父親の精子に生じたDNA配列以外の変化は、一部は修復されずに子どもでも維持され、遺伝子の働きに影響を及ぼすことで、これまで不明であったシルバー・ラッセル症候群の発症メカニズムに関与する可能性が示唆された。本研究成果は、精子に生じた変化が次世代に伝わる仕組みの理解を深めるものであり、将来的には、精子の異常を正常化することで病気の予防や治療法の開発につながることが期待される。
