金沢大学の研究グループは、子どもに関連した刺激によって生じる唾液オキシトシン(OT)の分泌反応が、産後うつや状態不安と有意に関連していることを明らかにした。
産後うつは、産後の母親の約10~20%に発症するとされている。現在、そのスクリーニングには「エジンバラ産後うつ自己評価票(EPDS)」が広く用いられており、カットオフポイントは9点とされている。しかし、9点未満の母親については、メンタルヘルスの状態が十分に注視されていないのが現状である。
一方、これまでの研究により、産後うつとOTとの関連が指摘されてきた。そこで本研究では、乳児に関連した情動刺激による唾液OTの分泌反応と、母親のメンタルヘルスとの関連を詳しく検証した。
産後うつの診断を受けていない産後1年以内の健康な母親61名を対象に、授乳、子どもとの直接的な触れ合い、子どもの動画視聴といった乳児関連刺激に対する唾液OT濃度の変動と、EPDSおよび状態不安の評価尺度(STAI-state)との関係を調べた。その結果、授乳前と比べた授乳中の唾液OT濃度の変動倍率と、EPDSおよびSTAI-stateの得点との間に、有意な負の相関が認められた。
特に、EPDS5点を境にOTの反応性に明確な差異がみられた。EPDS5点未満の母親では、授乳中に唾液OTが有意に上昇したのに対し、EPDS5点以上の母親では上昇が認められなかった。この傾向は、授乳に限らず、子どもとの直接的な触れ合いや子どもの動画視聴といった刺激においても同様であった。
以上の結果から、EPDSのカットオフポイントである9点に達する以前の段階から、母親のメンタルヘルスの状態に応じて内分泌機能に変化が生じている可能性が示唆された。本研究成果は、目に見えにくい産後の母親のこころの不調を、生物学的指標によって早期に捉える手がかりとなるものであり、今後の早期支援や予防的介入につながることが期待される。
