キリンホールディングス株式会社および東京大学は、細胞老化モデルヒト小腸オルガノイド(人工臓器)を用いた研究により、老化した小腸上皮細胞では栄養素吸収が低下することを世界で初めて確認した。
全身の老化とともに訪れる「腸の老化」は、栄養素吸収の低下を引き起こし、高齢者の栄養失調やフレイルにつながると考えられている。しかし、高齢者の腸の直接的な評価が困難であることから、その詳細なメカニズム解明や予防法の確立は十分に進んでいなかった。
本研究グループはこれまでに、ヒトの小腸を模倣した、いわば「人工臓器」であるiPS細胞由来小腸オルガノイドにおいて、老化の特徴を再現したモデル(細胞老化モデル)の構築に成功している。今回の研究では、このモデルを用いて「腸の老化」を再現し、栄養素吸収が低下する仕組みの解明を試みた。
その結果、細胞老化を誘導すると、糖やアミノ酸の吸収に関わる遺伝子など、栄養素吸収関連遺伝子の発現が減少することが明らかになった。さらに、細胞老化モデルでは、正常なヒト小腸オルガノイドと比べて、細胞内への糖の吸収量が減少していることも確認された。
この背景にあるメカニズムとして、細胞老化モデルヒト小腸オルガノイドでは、上皮間葉転換(Epithelial to Mesenchymal Transition、以下EMT)に関連するマーカー遺伝子の増加が認められた。EMTとは、体の表面を覆っている「上皮細胞」が、体の内部で働く「間葉系細胞」に似た性質へと変化する現象で、皮膚の修復過程などに重要な役割を果たす一方、過剰に進むと組織の線維化やがん細胞の浸潤に関与することが指摘されている。本研究の結果から、老化した小腸上皮ではEMTが誘導されることで、栄養素吸収をはじめとする小腸の機能が低下する可能性が示唆された。
今後は、EMTの抑制を標的とすることで、「腸の老化」を予防する機能性素材の開発につながることが期待される。
参考:【東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部】世界初!キリンと東京大学が、ヒトiPS細胞由来小腸オルガノイドを用いて細胞老化により栄養素吸収が低下することを確認

