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鹿児島の高校生がロケット製作でプロジェクトマネジメントを学ぶ–楠隼高「シリーズ宇宙学」
2025.10.06 09:00
JAXA内之浦宇宙空間観測所がある鹿児島県肝付町の楠隼中高一貫教育校において、紙製ロケットを空気圧で飛ばす「エアロケット」を教材にしたプロジェクトマネジメント(PM)講義が8月25日に実施された。
JAXA宇宙航空教育活動推進モデル校である楠隼高は、2015年の開校時から、JAXA職員や大学教授らによる講義「シリーズ宇宙学」を続けており、今回は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)白坂研究室が協力。生徒はエアロケットの計画→製作→計測→改善の短いサイクルを繰り返し、チームで記録更新に挑んだ。白坂研究室によれば、高校での実施は全国初だという。
「胴体は長い方がいい?」–ロケット作りと打ち上げに試行錯誤
講義は朝9時頃から4時間にわたって行われた。まず、白坂教授によりプロジェクトマネジメントについて解説。ISS補給船「こうのとり」を例に挙げながら、1つの宇宙システムを作るためには、機械工学や安全工学、ソフトウェア工学といった、あらゆる技術分野の人々が必要になり、それらのメンバーをまとめる人が不可欠だと語った。また、朝のルーティンを例に、布団から起きて朝食を食べ、出発するまでの流れや管理もプロジェクトマネジメントであると話した。


続いて、エアロケットの演習に移った。チームでプロジェクトを管理しつつ、エアロケットを作り、発射台から一番遠くまで飛ばせたチームが優勝というもの。生徒たちは試行錯誤しながら、紙(コピー用紙)やハサミ、塩ビパイプなどを使ってエアロケットを作りあげた。

そして、いよいよ打ち上げだ。カウントダウンの後、体育館の中央に設けた発射位置でバルブをひねる。プロトタイプとなる初号機は、取り付けに手間取り発射に至らない機体や、数メートルで失速する機体もあった。そこでダーティプロトタイプ(短期間・低コストで作る学びのための試作品)で不具合を洗い出し、短い対話で製作方針を決める。得た示唆を踏まえて目標・作業・役割を整え、計画に沿って製作と試射を繰り返した。

講義が進むにつれて、合意形成が早くなったチームは順調に記録を伸ばし始めた。各チームが目標・作業・役割を短いサイクルで更新し、試射→計測→振り返りの所要時間を詰めることで試行回数が確保され、設計変更の効果が見極めやすくなった。
結果として、偶然の飛距離の伸びと再現できる伸びの区別がつくようになり、作り方への自省も進んだ。うまく飛距離を伸ばすことができたチームは議論の中で、ロケットの胴体長や重さといった設計因子が、結果にどのように効くかを言語化できるようになり、記録は安定して伸びていった。
そして試射を重ねたのち、本番打ち上げに移った。各チームは製作機から1機を選び、1回のみの発射で飛距離を競う。条件が一度きりである以上、不測のミスが出れば記録を残せないリスクもある。それでも、この日は全チームが計測値を残すことができた。

なお、この講義はプロジェクトマネジメントをテーマとしているため、打ち上げて終わりではない。本番打ち上げを終えた生徒たちは、プロジェクトとしてどうだったかを振り返ることで、今後に生かしていく。

今回の講義や演習について、楠隼高校の久保田将大教諭は「限られた環境の中で、目標に向かって計画・実行し、振り返って改善する。そのサイクルは、どこの学校でも学習活動や部活動で求められること。しかし、日頃からそれを生徒に意識させようとはしていても、具体策を講じて育成することはなかなか難しい。今回の講座は、頭や身体をフル回転させて協働し、楽しみながら実践的にプロジェクトマネジメントを学ぶことができる、大変有意義な時間だった」と感想を語った。
エアロケット講義の背景にある取り組み
慶應SDMが主導する「MBSEを活用する宇宙アーキテクト育成プログラム」は、文部科学省の令和6年度 宇宙航空科学技術推進委託費(アーキテクト育成)に採択された取り組み(主幹:慶應SDM/代表:白坂成功教授)。同プロジェクトでは、プロジェクトのビジョンや目的を設定し、その実現にむけて全体俯瞰と多様な専門家の考えを統合することで複雑なシステムを設計し、その実現のためにプロジェクトを牽引できる宇宙アーキテクト人材の育成を目指している。

今回のエアロケットの講義は、同プログラムの考え方を高校生向けに落とし込んだものだ。講義を担当した慶應SDMの田中康平・特任講師は「これまで大学生や社会人向けに提供してきたプログラムを、今回は初めて高校生向けにアレンジした。ダーティプロトタイプで注意すべきことの当たりをつけ、計画を立ててチームで着実に実行できていた。中高一貫校ということもあり、互いの関係ができているからか、最初から議論しながらプロジェクトを進める姿が印象的だった。最終の本番打ち上げでは、全チームが記録を残すことができたこともとても良かった」と振り返った。
試行錯誤の回数が十分でないと、本番で発射台に取り付けることができない機体を作ってしまったり、空気漏れによって飛ばない機体を作ってしまったりすることもあるようだ。
楠隼高「シリーズ宇宙学」の意義
今回の講義は、楠隼高の「シリーズ宇宙学」の一環として実施された。同プログラムは2015年の創立以来、学年に応じた専門家講義と体験型ワークショップを継続している。2023年度からは民間との連携による特別回を本格化し、2025年度は全6回で実施。狙いは、探究の入口を広げ、生徒が自らテーマを設定して取り組む力を育むことにあるという。今回のエアロケットの講義は、そのうちの高校1年生向けの回とのこと。
楠隼中高の「シリーズ宇宙学」に2022年度から協力し、今回の講義も支援した一般社団法人九州みらい共創の上村俊作代表理事は「ロケット射場ある肝付町内に立地する高校で初めて簡易ロケット製作を通じたPM講義を実施したことは意義がある。リソースに制約ある中で、着実に物事を進め、最大限のパフォーマンスを残さなければならないことは、決して宇宙分野に限ったものではない。PMを簡便に体感できる本講義は、あらゆる業界の次代を担うリーダー育成にも期待できる。今後は学校現場での実証・改善を重ね、指導者も増やし、全国に展開、浸透できるよう支援していきたい」と展望を語った。


