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小学校跡地を「宇宙」で再生–鹿児島県肝付町がJAXAや慶應SDMと共創ワークショップ
2025.10.02 08:00
8月24日、鹿児島県肝付町の役場に肝付町職員やJAXA職員、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科のメソドロジーラボに所属する学生(社会人)・教員など、総勢34名が一堂に会し、「旧岸良小学校跡地を活かした宇宙教育共創拠点施設×地域創生の新しいアイデア」を考えるワークショップが開催された。
舞台となる旧岸良小学校は、JAXA内之浦宇宙空間観測所に近く、宇宙と地域を結びつける象徴的な場所。閉校となった校舎に新たな命を吹き込み、教育や観光、産業振興につなげられないか。そんな問いを軸に、参加者たちは90分にわたり議論を重ねた。

JAXA職員や慶應SDMメンバーが「小学校跡地」の未来を議論
ワークショップに先立ち、慶應SDMのメンバーに対して、肝付町職員やJAXA職員から地域の現状や宇宙事業の可能性についてインプットする講演が開かれた。JAXAからは、内之浦宇宙空間観測所のほか、種子島から鹿児島宇宙センター管理課、茨城県つくば市から宇宙輸送技術部門事業推進部の職員も駆けつけた。
続くワークショップでは、参加者たちが5チームに分かれ、「小学校跡地をどう利活用できるか」「わくわくする宇宙ビジネスをどう組み合わせるか」という2つのテーマでブレインストーミングした。その結果を掛け合わせながら、小学校の活用アイデアを膨らませる。その後、各チームは最も魅力的だと考えるアイデアを選び、顧客価値連鎖分析(CVCA)のフレームワークを用いて利害関係者や価値の流れを可視化していった。
「寺子屋」や「宇宙疑似体験」など5チームがアイデア披露
発表では、5つのチームがそれぞれのユニークな構想を披露した。以下が各チームが最終的に考えたアイデアだ。
Aチーム「宇宙焼酎」
Aチームが掲げたテーマは「肝にまつわる体験ができる肝付町」。「肝」という言葉に着目し、町名そのものを体験化するユニークな発想が披露された。具体的には、鹿児島の特産品である焼酎を宇宙に打ち上げ、“宇宙焼酎” として新たなブランドを生み出す試み。宇宙を舞台にした地域産品の価値向上は、観光やPRにも直結する可能性を秘める。また、「肝が据わった人を育てる」教育的な仕掛けを加え、肝付町ならではの人づくりや体験学習を展開する構想が盛り込まれた。
さらに、観光客や学生が「肝」に関連する多様な体験を通じて地域に滞在し、町の歴史や文化と結びつけることで、地域経済にも循環を生み出すことが期待される。

Bチーム「宇宙を疑似体験できるテーマパーク」
Bチームの発表テーマは、“あなたの人生にSpaceとSpiceを”。肝付町を「宇宙を疑似体験できるテーマパーク」として再構想する挑戦的なアイデアだ。この構想では、訪れた人々が 宇宙での生活を模擬体験できる空間を校舎跡地に整備。食事・居住・仕事などの「日常」をあえて擬似的な宇宙環境で過ごしてもらうことで、単なる観光を超えた“未来の宇宙生活の社会実験”を生み出す。
さらに注目すべきは、その過程で取得されるデータの活用だ。体験者の行動やフィードバックを集積することで、将来の宇宙居住に求められるサービスやインフラのヒントを抽出できる。たとえば「どんな食事が求められるのか」「余暇の過ごし方はどうあるべきか」といった具体的なニーズを把握し、研究機関や企業にとって貴重な知見を提供する拠点となる。
つまりこのアイデアは、地域を舞台に “観光×教育×研究” を統合し、町そのものを宇宙開発の社会実装ラボにする試みとなる。肝付町の名前が「宇宙で暮らす未来を考える場所」として国内外に広がっていく姿をイメージさせる提案だった。

Cチーム「“宇宙レベル人材” 育成拠点」
Cチームが注目したのは、「肝付町だからこそ提供できる教育プログラム」。彼らは旧校舎を、小中高校生に向けた “宇宙レベル人材” 育成サービスの拠点とする構想を打ち出した。背景にあるのは、変化の激しい時代を生き抜くための力を育てたいという問題意識だ。AIや宇宙開発など未来が読みにくい社会においては、単なる知識の習得ではなく、未知の課題に向き合い自ら解決策を見つける力が求められる。
そこでCチームは、宇宙をテーマにした サバイバル型の学習体験を提案。たとえば、自分たちで宇宙食を考案・調理し、制約の多い環境で生活するシミュレーションをする。そうした実践を通じて、柔軟な思考力や協働力を育み、“肝が据わった人材”を育成していく。
また、地域の大人や専門家が指導役として関わることで、学校教育の枠を越えた学びを実現できる点も強調された。単なる観光コンテンツにとどまらず、教育・人材育成・地域の誇りを同時に高めることができる。そんな可能性を秘めた提案となった。

Dチーム「宇宙版 寺子屋」
Dチームが掲げたコンセプトは「宇宙版 寺子屋」。旧校舎を、子どもから大人までが世代を超えて学び合う場に再生しようという提案だ。その中核に据えられたのは、“宇宙開発のレジェンドたち” の知見を次世代に伝える仕組みである。
内之浦宇宙空間観測所を有する肝付町には、長年にわたり日本のロケット開発や衛星運用に携わってきたOB・OGが数多く存在する。彼らが自身の体験や苦労話を語り、リアルな宇宙開発の歴史に触れられる学びの場を作ることで、ここでしか得られない教育的価値を提供できると考えた。
この「寺子屋」は単なる講演会にとどまらない。参加者がワークショップ形式で議論したり、地元の子どもたちが宇宙人材と直接交流したりすることで、地域に根差した「共育」の場へと広がる。さらに、観光客や教育旅行で訪れる生徒にとっても特別な体験となり、地域の新たな魅力づけにつながる。歴史の継承と未来の人材育成をつなぐ学び舎、それがDチームの描いた宇宙版 寺子屋だった。

Eチーム「ロケットで“気持ち”をリセット」
Eチームの発想は、ユニークかつ象徴的な「リセット」の仕掛けだった。彼らが提案したのは、過去の嫌な出来事や心の重荷をロケットに託して打ち上げるという体験プログラム。まるでロケットの上昇とともに、心の中のしがらみを空へ解き放つように、参加者に“次を向く力”を与える仕掛けだ。
このアイデアは、単なる感情の発散ではなく、地域の宇宙資源を生かした新しい観光・教育サービス としての可能性を秘めている。旧校舎跡地に拠点を設け、訪れた人々が自分の出来事を書き込んだカードやシンボルをロケットに乗せる。その打ち上げを通じて心機一転を体験し、再スタートのきっかけを得ることができる。
さらに、参加者の体験は「祈願」「区切り」「再生」といった地域の文化や神事と結びつけることもでき、肝付町ならではのストーリー性を持ったプログラムへと発展する。研究やビジネスの実証フィールドとしての校舎活用と併せて、観光資源やメンタルヘルス支援にも広がりを持たせられる点が大きな特徴だ。Eチームの構想は、宇宙の力を借りて人の心に寄り添う。そんな斬新で温かな可能性を提示していた。

「宇宙への夢」と「地域の未来」を同時に育む場所に
発表を終えた参加者からは、「地域の伝統と宇宙を融合させる視点は新鮮だった」「教育と観光を同時に実現できる手応えを感じた」といった声が聞かれた。
また、参加したJAXA鹿児島宇宙センターの沢登管理課長は、「1つのテーマからさまざまなアイデアが創発される過程や視点の面白さを感じることができ、今後のJAXA業務にも活用できる手法だと感じた。南種子町・種子島宇宙センターと肝付町・内之浦宇宙空間観測所を“総合システム”として捉え、JAXAとしても地域に寄り添いながら、共創によって可能となることを考えていきたい」と述べた。
さらに、肝付町宇宙のまちづくり推進課の東課長からは、「旧岸良小学校は、閉校してもなお未来への扉を開く可能性に満ちた場所。地域住民はもちろん、町外の大学との連携による新たな視点も大変意義がある。社会人学生のみなさんとの今回のワークショップで生まれた熱い議論やアイデアが、宇宙への夢と地域の未来を同時に育む“新たな物語”の始まりになれば嬉しい」と前向きなコメントが寄せられた。


