STEAM教育

日経スペシャル 池上彰のSTEAM教育革新 よき問いでミライを拓け
放送日 2025年12月26日 BSテレ東

 

STEAM教育(Grokによる補足)

 2002年度から始まったSTEM教育(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Mathematics=数学。理数教育に重点)にArtsを組み込んだのがSTEAM教育。

 日本では2020年から本格導入。

 文科省はArtsを美術・音楽だけでなく文化・経済・倫理なども含む広い範囲で定義し、実社会の問題発見・解決に活かす教育を推進。

 ※STEAM教育は全国の公立学校で一律に義務化・全面実施されているわけではない。新学習指導要領(小学校2020年度~、中学校2021年度~、高等学校2022年度~実施)でその考え方が取り入れられ、奨励・推進されている段階。

 

世界の論文数(2021年~2023年)
       論文数 シェア(%)
1 中国   599,435  29.1
2 アメリカ 289,791  14.1
3 インド    91,997    4.5
4 ドイツ    72,762    3.5
5  日本    70,225    3.4

 

 池上氏「ちょっと深刻だなと思うのはドイツに負けてる。ドイツって日本より人口少ないわけですよ。日本は1億2,500万人、ドイツは8,900万人ですから」

 シェアの推移で見てみると日本は2000年代に入ったあたりから下降気味、対してその数を急速に伸ばしているのが中国。

「いま中国は基礎的な研究にものすごくお金をつぎ込んでるんですよね。日本もかつては結構潤沢に資金が出ててその結果いろんな成果をあげた。30年前にあげた成果で今ノーベル賞が出てるわけですよね」

 

理系が少ない日本
 日本は昔から文系に偏りがちな文系大国と言われている。
 去年の高校生で理系はおよそ3割を切っている。
 対して文系の方は5割近い。

 文科省は来年度以降数千億円規模の基金を活用して各都道府県の高校に重点的に資金を配分、理系カリキュラム拡充の支援をする。
 最終的には理系の生徒の割合を4割まで引き上げる方針。

 

STEAMの授業 関西大学初等部の例

 小学4年生の国語で習う新美南吉作の「ごんぎつね」。

 キツネのごんは、兵十が母のために捕まえたウナギにいたずらをして逃がしてしまう。
 兵十の母の死を知ったごんはいたずらを後悔。
 その償いにイワシを送ったり栗や松茸を兵十の家に届けるようになる。
 しかし、またいたずらをしに来たと思った兵十は、ごんを火縄銃で撃ってしまう。
 そして近くにあった栗を見て、ごんが届けてくれたことを知るという結末。

 

 この「ごんぎつね」をSTEAM化するという試み。

 国語として読み解くのではなく、疑問点を探し「問い」を出す。

 

 生徒Aイワシは本当に新鮮だったのか?」
 生徒B「どういう栄養があるか」
 堀先生「まったく別の視点で、じゃあ例えばこんなのはどう?」(「数学」の札を示す)
 生徒C「何匹とるかとか、値段はどのくらいにするのかとか」

 生徒D「一番気になったのが、兵十が、貧乏なのになぜ火縄銃を持っていたのか。本当に買えていたのか?時代が幕末から明治時代だから、だいたいその金額が100万円らしい。お母さんが死ぬ前にそのお金をお母さんに使ってあげていたら、お母さんは生き延びていたのでは」

 生徒E「なんで2~3日雨が降っただけでごんがイタズラをしたい気持ちになったのか。調べてみたら、雨の日は日光を浴びられないからセロトニンが減少してイラついていた?」

 生徒F「最初は問いをあんまり出せなかったけど、STEAMの視点で結構問いが思い浮かんで、便利だなって」

 

 国語の松本先生「国語教師として教えている身としては、文学をそういう読み方をして大丈夫?文学の世界壊れない?っていう不安もありつつ」
「表面的じゃなく深いところまで読むことができたっていうのはみんな言っていたのと、普段国語より算数が好きな子とかが活躍したりだとか」

 

──宮野先生、この授業どうですか?

 宮野公樹准教授(京都大学 学際融合教育研究推進センター)

 2022年から日経STEAMアドバイザー

「すごいなと思った。あらゆることはあらゆるものと関係しているので、それがさっき言った一つの分野に留まらないという意味で、むしろ一つの分野、国語だったら国語の授業に留まっている方が特殊というかおかしいんで」

 

京都大学「京大100人論文」

 2015年から始まった、STEAM的な視点の研究交流イベント。学際融合教育研究推進センター主催。

 京大の研究者100人が自分の研究テーマや関心事を匿名でポスター(テンプレートがある)に掲示

 そのポスターに来場者が付箋で匿名コメント(質問、意見など)を貼っていく。

 互いに肩書きや所属の先入観なく、本音の意見交換をすることが狙い。

 宮野氏の「大学の研究環境が閉鎖的になりがち」という問題意識からスタート。
 このモデルは全国に広がり、広島大学琉球大学横浜国立大学など30以上の大学・組織で類似イベントが開催されている。(Grokによる補足)

 

 宮野氏「匿名性が最大の売り。偉い先生だから…というのをなくす。純粋に問いだけで意見交換する」

「本来研究者って何か知りたくて研究者になったんで、研究者の前に探求者なんだよ本当は。でもそれが研究者になったらやっぱりちゃちゃっと論文書いてちゃちゃっと金取ってみたいな。慣れちゃうというか。やっぱりそうなると学問はダメだと思っていて、そもそも俺何で研究者になったんだっけとかその探求心を確認しなきゃ。思い出さなきゃ初心を」

 

「学際」

 池上氏「それぞれの学問がものすごく細かく分かれてしまうとそのちょうど間にこぼれ落ちるようなことが起きるわけですよね。それを他のところと協力し合ってこれまでこぼれていたものを助け上げるということだと思うんですよね」

 

 宮野氏「いい仕事っていうのは必ずまたぐ。分野もまたぐし業種もまたぐ。いい仕事ってのはすごい広い。でつまりやっぱり研究者もいい仕事をしようと思ったら分野を超えざるを得ない」

「大事なのはSTEAMって語呂いいからAがあの場所に入ってますけども多分本当はアートはもっと土台なんですよ。さっき言った『感じる』ですよ。それがあってS、T、EとかMがある」

 

「わかりやすい」とはどういうことか

 池上氏「私(が気を付けているの)は専門用語を使わない、和文和訳という言い方もしてますけど、わかりやすいと思うのはどういうことかっていうと自分の中に持っていたバラバラの知識がいきなりつながったときにあ、そうかっていうときに思わず膝を打つわけですよ。だから伝えようとしている相手が小学生なら、中学生や高校生ならどれくらいの知識を持っているだろうかあるいは一般の方ならどれくらいだろうかっていうと少なくともこの知識は持っている。そしてこの知識がある。これとこれをつなげていくことによって自分なりにわかったということになる」

「毎年4月に東京科学大学で新入生に話をするんですけど、君たちはきっと小中高校と良き答えとは何かとひたすら先生が求めている答えは何だろうと忖度してきたと。忖度力を身に付けてきたと。大学からはそうではない、良き問いを立てることだって、いつも言ってるんですよ」

 

 

 

音から電気を「収穫」するという発想 エネルギーハーベスティング

サイエンスZERO 電源革命!?”エネルギーハーベスティング”技術最前線
放送日 2025年12月21日

 

 スマホやイヤフォンの充電が不要になるかもしれない。コンタクトレンズで血糖値をモニタリングできるようになるかも。

 

 音、Wifi電波、動き、涙から電力を「収穫」する技術の開発が進んでいる。

 

 エネルギーハーベスティング。  

 

 スマホの中にある指紋センサー、音センサー、光センサー。
 これらはほんのわずかな電力で動いている。
 家電の1億分の1、たった数ナノワット。  

 

 これだけ小さな電力なら「その場で発電」ができるかもしれない。

 どうやって発電するか。  

 

「音」から発電
 横田知之准教授(東京大学大学院)  
 発電素子と呼ばれるエネルギーを高効率で電力に変えるシートを開発。大き目の切手ほどの面積。音の振動を使って発電する。
 厚さ50マイクロメートル。薄い3層のシートが重なってできている。  
 中心にフッ素樹脂を使ったナノファイバーシート(振動の圧力で電圧を発生させる素材)、それを2枚の電極シート(ナノファイバーをメッシュ構造にして金属でコーティング)で挟む。  

 音の振動を受けた3層のシートはそれぞれ細かく震える。
 このとき中心の層が外側の電極シートに触れることで電力が発生する。静電気に近い原理。  

 番組内の実験では90dBの音で200mVの電圧が発生。  

 

 この発電素子は面積を広げれば発電量も増やすことができる。  
カラオケルームの壁一面に発電素子を貼れば歌声を音エネルギーとして収穫、歌っている間にスマホを充電、という未来もありえる。

 横田氏「ライブ会場とか工事現場など大きい音がある場所で利用すればより効率的にエネルギー収穫できるんじゃないか」

 

エネルギーハーベスティングとは
鈴木雄二教授(東京大学大学院工学系研究科)  

「日本は半導体スマートフォンの世界でも材料は非常に強いんですけれども、このエネルギーハーベスティングの世界でも日本発の新しい材料が続々出てきていますので非常に注目できるものだと思っています」  
「日本はもったいないという意識が非常に高いので、普段捨ててしまっているエネルギーだけれどもそれをうまく使って電池もいらないという世界は非常に合うんじゃないかなと」

 

 エネルギーハーベスティング技術が進んでいくと生活はどう変わるか。

 鈴木氏「使いたい時に振れば電力が生じる懐中電灯、額に貼ると発電して体温が測れる体温計もできるようになるんじゃないかと思う」


Wi-Fi電波で発電
 Wi-Fiなどの電波強度は極めて小さく、ここから効率的に電力を取り出すことはこれまで不可能とされてきた。  
 それを可能にする研究がある。

 

 深見俊輔教授(東北大学電気通信研究所

 スピントロニクス
 Wi-Fiの周波数帯での電波からの発電が可能。  
 電子の性質を利用した新しいエレクトロニクス。  
「電子は電荷に加えてスピンという磁気的な性質も持っていて(電気と磁石の性質)、これを両方利用するというのがスピントロニクスの特徴です」  
「電波というのは正確に言うと電磁波で、これは電気的なエネルギーと磁気的なエネルギーを両方同時に運んでいるんです」  


 その磁気的なエネルギーをキャッチして電気的なエネルギーを生成することができる。

 スピントロニクスの発電素子は1つ1つの素子がいわば発電所。幅およそ200ナノメートルの中で電力を生み出す。5cm四方ほどの薄いシートに発電素子が並ぶ。
 発電の仕組みは手回し発電機と同じ。持ち手を回すと中の磁石が回り、磁界の向きが変化することにより電気を発生させる。  
 Wi-Fiの周波数の電波を受けると電子のスピンが回転し、それに伴って電気の流れが生じる。  

「最も小さな磁石、電子によって電気を起こすことができるのです」

 

 シンガポール国立大学との共同研究で発電素子を8個つなげ実験、Wi-Fi電波からの発電でLEDの点灯に成功。世界最高効率の発電を達成した。

 この時生み出した電力は1.4マイクロワット。
 1秒間に電子が250兆個動いた計算。  

 

 深見氏「究極の目標は例えばスマホで通信しないときにその電波で充電する。充電が不要になるというようなこと」
  この発電はBluetoothの電波、テレビの電波など全ての電波で同じようにできるという。  

 

振動、動きで発電
 鈴木氏の研究
 エレクトレット発電デバイス
 エレクトレット:電気エネルギーを半永久的に保持できる誘電体
 基板の上にエレクトレットのフィルムが乗っており、表面は1000ボルトほどの電圧。

 番組で紹介されたのは手首につけられるほどの四角いデバイス
 エレクトレットの下に2つ電極があり、スライドさせることでプラスが右に行ったり左に行ったりすることによって発電。

 

 鈴木氏「手首につけて体温や心拍数が分かる。暑い日の熱中症の予防に役立ったりスポーツとかリハビリテーションの時に腕につけると運動の評価に役立つ」

 

 踏切の警報器に使われている。
 エレクトレットの発電機が世界で初めて商品化された例。
 音を振動として吸収しエレクトレットによって電気に変換。  

 鈴木氏「踏切の警報器が鳴らないと非常に危険。これまで人手を使ってチェックをしていたが自動的に確認ができることによってチェックがいらなくなる。電池交換も必要なくなるというメリットがあります」  

 

涙で発電
 心拍数や消費カロリーなどを測るウェアラブルバイス。  
 そのデバイスを動かす電力を「体から」収穫してしまおうという技術。  

 極薄極小の発電素子を組み込んだコンタクトレンズ

 

 新津葵一教授(京都大学大学院 情報学研究科)
「涙の中にわずかに糖分が含まれています。その糖分で発電し電力が得られます」  

 発電のエネルギー源は涙に含まれる糖分、グルコース。  
 糖分と金属が化学反応を起こし電子の動きが発生。電力が生まれる。  

 

 このコンタクトレンズにより血糖値を測ることも可能。
 新津「血糖値と涙液糖値の間には相関があるので、その発電量をモニタリングすることで血糖値を推定することができます」

 糖尿病患者などの血糖値を常時身につけるコンタクトレンズなら発電しながら計測できる。
 血糖値を測定する計算は外部のパソコンで行うことで超省エネで血糖値を測り続けられる。  

 発電装置で電気を起こしその発電量を送信するだけのシンプルな設計のため消費電力はわずか0.27ナノワット。涙の発電だけで充分稼働させ続けられる。

 新津氏「将来はディスプレイを内蔵し視界に数値が表示できるようにしたい」

 
 鈴木氏「新津先生のご研究はバイオ燃料電池というもの。もう少し大きいものを体内に埋め込むと例えば心臓のペースメーカーとか糖尿病の治療をするためのインシュリンポンプを電池なしに動かすことができるようになると思います。電池交換の手術も不要になる」
「体温も非常に大きなエネルギー源になる。皮膚温と空気の温度の温度差で発電するということもできて、その熱電材料というものも日本が非常に強い分野。多くの研究者が取り組んでいるのでこれからどんどん効率の高い材料が出てくるんじゃないかなと思っています」  

 

 

 

 

 

 

ロシア戦闘員リクルートとアフリカの若者たち

国際報道2025 ロシア戦闘員リクルート活動の実態
放送日 12月22日

 

 ロシア軍が戦場にアフリカの若者を送り込んでいる。

 

 ウクライナのシビハ外相は先月、少なくとも36のアフリカの国々から1,436人がロシア軍に参加しているとSNSで明かした。

 

 ケニアからは200人以上がロシアに渡り戦闘員として参戦していると同国外務省。
 25歳の息子デビッド氏を戦闘で失った女性、スーザンさん。
「彼はそこにいるのが嫌だと話していました。家に帰りたいと。でも仕方がなかったのです」

 

 日雇い労働の日々から抜け出すため、警備の仕事で出稼ぎに行くと話してたがその後ロシアの戦闘員として戦っていると明かした。

 スーザンさんは息子が砲撃に巻き込まれ死亡したことを息子の仲間から今年10月に知らされた。

 デビッド氏から送られてきた映像にはロケットランチャーの訓練を受けている様子が。
 ロシア戦闘員「よかったぞ!これで本当のロシア人だ!」
 うまくいき笑顔を見せるデビッド氏が褒められている。

 

 スーザンさんはデビッド氏の安否についてケニア政府に問い合わせているがいまだ正式な通知はない。遺体の返還についても何の返答もないと言う。
「私たち家族は伝統的な方法で彼の遺体を埋葬してあげたいのです。彼のことを思い浮かべるととてもつらいです」

 

 ケニアの首都ナイロビ最大のスラム街、キベラスラム。
 前線から逃れてきたという20代の若者。
「あの場所にいると地獄にいるような気がしました」
 地元で大工の仕事をしていたという男性。
 安い給料に不満を募らせ9月、既にロシア入りしていた友人の紹介で仲介業者に連絡。
 友人からは戦場に行く可能性を伝えられていたが、7倍の収入は魅力的だった。

 

 ロシアで3週間の訓練後、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地に送られる。
「爆撃を受けたバイクや車があり、遺体の頭や脚が外にぶら下がっていました。誰も遺体を収容しに来ずとても危険な場所でした」

 部隊はロシア人、ケニア人、ナイジェリア人の計7人。
 絶え間なくドローンが攻撃してくる前線で地雷原を突き進むようロシア人の司令官に命じられた。

「地上を移動していた時にドローンが空からやってきて遠くからその音が聞こえてきました。逃げようと走るのですが地雷を踏んで吹き飛ばされる人もいました。ドローンがロシア人を攻撃してその人は死にました」

 

 怪我をまぬがれた男性。次に配属された部隊で移動中、隙を見てトラックの荷台から飛び降り逃走。
 夜通し9時間近く歩き、小さな町にたどり着き、そこでタクシーをつかまえてモスクワへ移動。
 ケニア大使館に逃げ込んだところ、他にも同じような若者がいたと言う。

「私はとてもラッキーだと感じました。ケニア人の中には手や脚にケガをした人やひどいケガをした人もいました。ケガをせずお金を稼いだ人もいました。死の淵から生還してとても幸せです。あの場所では何の望みも持てませんでした。今日は生き残れても明日はわからない。私は二度と行かないと思います」

 

 ケニアの若者がウクライナの戦場で命を落とす問題は大きく報道され、当局は一部の人材派遣会社の関係者を拘束するなど再発防止に取り組む姿勢をアピール。

 

 ケニアの若者の失業率は60%超。

 

 町の若者「故郷の家族が大事だから戦場に行きたいと思います。アフリカでは貧困が深刻な問題なんです。貧困は私たちから多くの機会を奪い心を崩壊させてしまう。だから戦場への出稼ぎを考えてみたい」

 

 アフリカの若者たちが戦場に誘い出される理由は経済的な事情以外にもあるのか。

 

 宮内篤志支局長(ヨハネスブルク支局) 
「戦場の実態への理解が不充分であることも一因。取材した人たちは現地に行った友人などの口コミを信じて仲介業者を紹介してもらい、渡航のための手続きを進めていた。安易にロシアに渡航したという印象は否めない。取材した若者は当初はゲームのようなものだろうと考えていたと、自分の考えが甘かったことを認めていた」

 

 仲介業者の一人は「私たちのバックには警察もいる、だから安心なんだ」と話す。当局の中ではびこる汚職や腐敗がずさんな出入国管理につながっている可能性がある。

 

 インドでも同様の例がある。その他の国でも同じことが起きているのか。

 

 宮内氏「取材した若者はケニア以外にもナイジェリアやネパール、メキシコからの参加者も目撃したと証言していた。南アフリカでも先月、ロシアの戦闘員として戦い捕虜になった若者たちが救出を求めたことが大きなニュースになった。ロシアは幅広く戦闘員を勧誘している」

 

 アフリカでは就職難などから出稼ぎに活路を見出そうとする人が多いのが実情。
 ロシアにとっては勧誘しやすい条件が整っている。

 

 長引く戦闘の背景にはこうした途上国の若者の存在がある。

 

 

 

 

 

ロシア使用のイラン製ドローンとアフリカ女性たち

【抜粋】BSスペシャル プーチン大統領 力の源泉 秘密の武器ネットワーク

 放送日 2025年9月12日 NHK BS

取材協力 Joost Oliemans, Yang Uk

制作協力 Bonne Pioche Television

制作 NHKエンタープライズ

 

 ロシアがウクライナへの攻撃に使用するイラン製自爆型ドローン、シャヘド。
 航続2,500km、ロシア圏内からキーウが射程圏に入る。50kgの爆薬を搭載。

 

 イラン製兵器をなぜロシアが導入できるのか?

 

 ダーシャ・リトヴィシュコ
 ジョージアのジャーナリスト。ロシアから亡命。動画配信サイトでロシア政府の闇を告発してきた。
「ロシア・タタルスタン共和国の経済特区アラブガがシャヘド製造拠点になっていると視聴者が教えてくれた」

 

 アラブガにドローン製造会社の登録はない。
 そこで働いていた男性「アラブガの労働者は電話を盗聴されネットで誰と交流しているかを把握していると経営陣に言われていた」

 彼はロシアを脱出、身を隠し転々としている。
「用語集が配られ、ドローンはモーターボート、弾頭はバンパーのように言葉の言い換えが行われた」

 

 ロシアは2,700億円を投じイランの最高レベル技術者を招きシャヘドの量産を開始。年間6万機の製造が可能。

 

 その人員確保は。

 

 アフリカの女性をターゲットにしたアラブガのPR動画では明るく楽しい職場のイメージが描かれる。
 彼女たちにはホテルやレストランで働く選択肢があると言われるが実際には選択肢はなく、ドローンの部品を組み立てることになる。

 ダーシャ「アフリカ女性たちの人材確保が難航した時期、彼らは出会い系サイトを使って誘い出す方法をとった。アラブガの男性がアフリカ女性と交際、アラブガで働くと言って一旦姿を消し再び接触、『良いところだから君も一緒に働かないか』と持ちかける。この手法でかなり成功したようだ」

 

 彼女たちを管理するマネージャーに渡された「命令書」には退職の禁止、従業員のパスポートの没収、不服従の場合従業員を拘束することが記されていた。
 現在エチオピアタンザニアからの1,000人超の女性が働かされている。

 

 イランと手を結ぶアラブガのドローン兵器製造拠点はこれまで幾度となくウクライナから攻撃を受けている。しかしプーチン大統領がこの戦いを諦めることはない。

 

 

 

 

出地球 米アルテミス計画

ヒューマンエイジ 人間の時代 第6集 出地球
放送日 2025年12月14日

 

 2022年、宇宙への移住を目指すプロジェクトが始まった。
 アメリカ、NASAが主導する「アルテミス計画」。

 

アルテミス計画
 日本を含む世界50カ国以上が参加する巨大プロジェクト。
 まず2027年、人間が半世紀ぶりに月面に降り立つ。
 その後、月で長期間滞在できる基地の建設に取り掛かる。
 その月の基地を足掛かりに2040年代にはさらに火星へと人間を送る計画。

 

[補足 (Grok)]

 中国、ロシアはILRSという別のプロジェクトを主導している。17か国+50機関が参加。月への有人着陸目標はアルテミス計画より3年後の2030年頃。2019年に月の裏側に人類初無人機軟着陸、2024年に同じく無人機により月の裏側から初めて土壌や岩石のサンプルを採取している。

 

 現在、人間が地球から離れて活動できる一番遠い場所はISS。高度約400km。
 月までの距離はおよそ38万km。現在の技術で片道3日。
 火星までは地球に最も近づいたときでおよそ6,000万km。片道8ヶ月。

 

 かつて人類はアポロ計画で月着陸を成し遂げたが、その後50年間、月に向かう技術開発は行われていなかった。
 そこでアルテミス計画では月へ行く技術を新たに開発し直している。
 早ければ2026年2月、4人の宇宙飛行士が宇宙船に乗り、まず月の周りを飛行して戻ってくるという実験が行われる予定。

 

 この計画がこれまでの宇宙開発と決定的に違うのは、宇宙飛行士ではない一般の人々を月や火星に大勢送り込み、移住させるという点。

 


 月の表面温度は太陽が当たらないとマイナス170℃。
 逆に日が当たると最高110℃に達する。
 空気はなく、地球の200倍の放射線や大量の隕石が降り注ぐ。

 

 どうやってそこに人間が暮らすのか。
 移住実現の鍵を握るものが去年発見された。

 

 ロレンツォ・ブルッツォーネ教授(トレント大学 情報工学
「私たちは月の地下に洞窟があることを発見しました。放射線や微小隕石を防ぐ天然のバリアとなるのです」

 月にはかつて活発な火山活動があり、溶岩によって作られた巨大な洞窟があると考えられてきた。
 その存在が最新のレーザー観測によって初めて確かめられたのだ。
 洞窟の中の放射線は月面の10分の1以下。
 温度も20度前後で安定しているという研究結果も。
 こうした地下の洞窟を利用し、安全を確保しながら拠点を広げていこうと考えている。

 

火星
 リン・ロスチャイルド教授(NASA エイムズ研究所 宇宙生物学)
「キノコを使うというのはとんでもないアイデアに思うかもしれません。
しかし彼らは自己複製し修復までできるのです。」
 火星の砂と結合して成長し、しかも放射線も防げる特殊な菌糸を発見。
 菌糸は成長すると砂を固める性質がある。
 フィルム内で育てることで椅子やベッドなどを作ることができるだけでなく、巨大な居住施設も建設できると考えている。

 

スペースX社
 イーロン・マスク率いる同社は全長約120mのスターシップを開発。100人の乗客を一挙に運ぶ。
 船内には40の客室、調理室や娯楽エリアを作ることも構想されている。

 マスク氏「できるだけ早く火星に自立した文明を築きたい。SFを単なるフィクションで終わらせません」
 2050年代までに火星に100万人が暮らす都市を築くことを目指す。
 それには100人乗りのスターシップを1万回打ち上げる必要がある。
 打ち上げのチャンスは地球と火星が最も近づく26ヶ月に一度。
 短い期間に集中し何度も打ち上げることになる。

 

 そこで宇宙船打ち上げのためのブースターを何度も繰り返し使えるようにする。
 打ち上げた後、ブースターだけ地球に戻し発射台のアームで回収。
 整備すればすぐに次の宇宙船を打ち上げることができる。
 使い捨てにならず大幅なコストダウンが期待できる。

 

 2023年から飛行試験を開始、1年半後の2024年10月13日、5回目の飛行試験でブースターの回収に成功。
 計画では人間を初めて火星を回る軌道に送るのが3年後。
 開発は「恐るべき勢い」で進んでいるという。

 

月と火星の環境
 関根康人教授(東京科学大学 惑星科学者)
「月も火星も地球に比べると重力は数分の1。重力が小さいと何が起きるかというと、筋力が落ちる。さらに骨の骨密度が落ちていく。筋力や骨密度が落ちていくと内臓の疾患も現れ、身体が壊れてしまう。だから月や火星に行くときにはトレーニングが必須になる」

 

──火星で子どもは生まれるのか。
「まだ不明。宇宙ステーションでマウスの生殖をさせる研究もようやくスタートしたばかり。ただ火星に1回行くと、2年に1回しか帰る便がないので必ずそこで2年間暮らさないといけない。火星で子どもが生まれる可能性がある。子どもが生まれたら、もうちょっと大きくなるまでロケットに乗せられないよねということになる。子どもはここがふるさとだと言い始める。それが多分宇宙に居住するということの本当の始まりかなと思って、その火星までの2年というのはすごく運命的だと思っています」

 

なぜ宇宙に移住したいと思うのか?

 番組では5万年前の「出アフリカ」を例に挙げる。
 近年の研究で、出アフリカの直前に「不安」に関わる遺伝子(河田雅圭 総長特命教授 東北大学 進化学)、「恐怖の記憶」に関する遺伝子(ライナー・ラインシャイド博士 イェーナ大学病院 薬理学)の双方に突然変異が起こっていたことが分かった。
 不安を感じにくく恐怖の記憶が弱まった新しいタイプの人類が出現したことが出アフリカの実現に繋がったとする。

 

 出アフリカでは不安を感じにくいタイプとともに従来通り不安を感じるタイプの人たちも世界に広がっていった。
 トレイシー・デニス=ティワリー教授(ニューヨーク市立大学ハンター校 心理学 不安について長年研究)
「私たちの祖先が出アフリカを果たし世界中へ広がることができた理由の一つは、未来を想像し危機に備えることを可能にした不安の力にあると考えています」

 

 宇宙移住の試みにもこれらの遺伝子が関わっているという。


 関根康人教授(東京科学大学 惑星科学者)
「宇宙飛行士の選抜試験に『浦島太郎と桃太郎、どちらに強く共感するか』という設問が出ることがある。宇宙飛行士は、浦島太郎タイプから選ばれるらしいですね。桃太郎タイプは不安があるとそれを論理で補う。空から攻めたらいいんじゃないか、木から攻めたらいいんじゃないかとか。彼らに報酬を渡して最後大きなお宝をもらってそれでみんな還元すると。それ非常に不安に対して備えるやり方なんですけど。一方浦島太郎は不安をあまり感じない。助けたカメに連れられて深海に普通行かないですよね」

 

人間ならではの不安の感じ方

 菊水健史教授(麻布大学 動物行動学者)
「動物は今ここで生きることに特化していて、何か行動を起こして失敗するとそれが罰になって行動が弱まっていくんですよ。もうやめようっていう風に。だけど人間の場合ちょっと時間軸を長く持ててその失敗を繰り返しても成功までは動くと。そのとき動き続けるために脳内麻薬と言われるオピオイドが出るんですね。そうすると辛い状態とか不安状態が少し軽減されて続けることができる。それを繰り返していって最後に成功したときに今度は脳内の快楽物質と言われるドーパミンがパッと出るんですね。すると今度は失敗を繰り返しても成功するんだという全体の成功体験を記憶してまたやりたくなるんですよ。また新しいことにチャレンジしたいと。苦痛苦痛苦痛成功っていうのをずっと繰り返していく。そういう風に脳の中は反応しているんだと思いますね」

 

宇宙に出ることの意義

 関根氏「宇宙に移住すると地球人としての意識が芽生えるかなと。宇宙からの視点。それを持つと地球規模の課題に対する自分ごと感が違ってくるんじゃないかなとは思っています」

 

 若田光一氏(宇宙飛行士)
「宇宙船からふるさと地球を見ると地球が宇宙船のように思えるんですね。宇宙に行くことによって新たに地球の環境を守るための意識っていうのが芽生えてくるのかなという風に思います」

 

宇宙の「活用」

 今年オーストラリアで開かれた国際宇宙会議(IAC)。
 およそ100カ国から宇宙開発の関係者が集まり議論されたテーマは「持続可能な宇宙、回復する地球」。

 

 ジェレミー・ハレット氏(国際宇宙会議 組織委員会委員長)
「地球生命の維持には宇宙の活用が重要です」


 Amazon創設者ジェフ・ベゾス氏率いるブルーオリジン社。
「我々は地球を汚染する産業を宇宙へと移すことが可能です。そうすれば地球環境を傷めることはありません」
 環境を汚染する産業を月や火星に移設しようという。
 発表直後から賛否両論の大議論を巻き起こしている。

 

 イーロン・マスク氏は「地球にとどまればいつか人類は絶滅します。正しい道は宇宙を生き来し多惑星を生きる種になることです」と演説する。
 世界規模の核戦争、過酷な気候変動さらには巨大隕石の衝突。
 地球で生き続けることが困難になる前に人間という種を避難させなければならない。
 その避難先が火星だという。

 

 火星よりさらに遠い宇宙での人間の生存を目指す企業も。

 マックス・ハオット氏(Vast社 CEO)
 ヘイブン、安息の地と名付けられた宇宙ステーションを開発。
 宇宙空間での長期滞在を可能にする。
 1号機の打ち上げ予定は来年。地球を周回しながら実際に人が長期滞在しその居住性や安全性を確認。将来的には太陽系のあらゆる場所での居住を目指す。
「数百年数千年のスケールで見れば、人間は地球上での生存に問題を抱えるか多惑星文明になるかのどちらかです。人類に他の未来はありません」

 

これらの計画について 番組ゲスト

 渡辺陽子氏(アジア開発銀行 地球環境の専門家)

「健康な地球がない限り健康な宇宙開発もないんじゃないかなと。まだ地球の回復力は結構あると感じてます。例えば漁業でカンボジアの沿岸で魚が枯渇してしまった。でもマングローブを育てたり海藻を復活させたりすることによってその漁業は戻ってくるんです。2年ぐらいの間に40%ぐらい漁獲高が上がる。そういう状況があるので、地球の回復力を用いその資源も用いて宇宙開発を進めていく。そのバランスが大事ではないかなと思います」

「今も格差があり、貧困層が8.5%まだいるというような状況にありますので、弱者とかそういう人たちが連れていかれてそういうものを発展させるということにもなりかねないので、環境の面からも人権の面からも見ていく必要があるのかなという感じがします」

「お金持ち、パワーのある人、政治力のある人の話だけを聞くのではなくて、やはりいろんな社会のメンバーとして例えば女性とか先住民であるとか若者の新しい発想、そういうものを取り入れた社会システムをより進めていく必要があるんではないかなと。そういう努力が必要じゃないかなと思います」

 

 菊水氏「格差の問題で言うとやはり宇宙ビジネスに関しては投資する富裕層が宇宙でなにかメリットを手にすると思うんですね。持ってしまうと実は手放すことってすごく難しくて一回持ったものは失いたくない。それがあるのでなかなか平等に弱者までその利益を分配することは難しくなると思うんですね」

「やっぱり多くの人たちの意見っていうのはすごく大事で、宇宙開発にかけて当事者化というかみんなでやってるんだっていうところがどこまで広がっていくかだと思うんですね。人類が外に出るわけなので多分人類の問題になって帰ってくるはずなんですよ。そこのところをもっと議論して、いろんなところで意見交換するところがスタートになると思いますね」

 

 関根氏「火星上で生きていこうとすれば人の世話にならなきゃ絶対に生きていくことができない。つまり利己じゃなくて利他的な考えに立たないといけない。全体が一個の共同体となる。火星は全然自由じゃないですからね。物を100%リサイクルしないと生きていけない世界なので、他人を思いやるとか共同体の中で助け合うっていうものが、火星の中で社会が生まれるとしたらそれが中心的な概念になって、それこそこれから地球で必要になるものだと思ってます」

「大前提として我々は地球に住み続ける努力を最大限しないといけない。地球で生きる技術を磨くための宇宙という考え方を持つべきかなと思いますね」

「ただ単に宇宙に今の競争が延長されるだけだったら、それは全くやる価値はないんだろうというふうに思ってます」

 

 

遺していくということ マンガ原画の海外流出

なぜ“原画”は海外へ マンガ・アニメ文化の行方

放送日 2025年11月28日

 

 日本のマンガ原画の海外流出が深刻化している。

 

 2025年9月、アメリカのデ・ヤング美術館で「アート・オブ・マンガ」展が開催され、高橋留美子犬夜叉」「らんま1/2」、荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険」、尾田栄一郎「ワンピース」など700点の原画が展示され、4ヶ月で18万人の来場が見込まれた。

 

 来場したアメリカ人漫画家女性「原画を見て特別講義を受けている気分になります。原画の中には学ぶべきものがたくさんあります。さっき『らんま1/2』のカラー原画の前に立った時少し涙がこぼれました。カラー原画を初めて見ましたが水があんなに青かったなんて知らなかった。高橋留美子先生の色使いはとてもすばらしいです。特別な経験になりました」

 

 企画したキュレーター、ニコル・クーリッジ・ルマニエール氏

「実際に原画を見ることでマンガ家が描いている横にいるように感じられます。まさに『線が生きている』ように思えるのです」「この展示会で伝えたいのは、日本のマンガはアメリカ人が思うよりはるかに豊かだということ。ミケランジェロダヴィンチが描いたすばらしい絵が世界の美術館にありますが、原画にはそれらと同じような価値があります」

 

 10月のニューヨークのポップカルチャーイベントでは、4日間で25万人超が訪れ、マンガ原画やセル画の購入が目当てだった。

 日本のコンテンツ産業の海外市場は10年で4倍、輸出額約6兆円に拡大した。

 

 参加者「私は何年もこのイベントに参加していますがここ数年の盛り上がりはすごいですよ。みんなアニメが大好きです」

 YouTubeでマンガ関連配信をする別の参加者「原画は一点ものなのでそれは歴史的なものだと感じています。だから自分の手で歴史の一部を所有できるのはクールです」「ポケモンエヴァンゲリオンの原画をいつか手に入れたいと思っています。入手するには僕のコレクションと引き換えにするしかありません」

 

 原画がここまで注目されたのは7年前のパリでのオークションで手塚治虫鉄腕アトム」の1950年代の原画が3,500万円で落札されたのがきっかけ。以降価格が高騰し、ガッチャマン原画650万円、AKIRA原画1,250万円、となりのトトロ原画3,450万円などとなった。

 

 アメリカの大手ヘリテージオークションズでは昨年、原画・セル画売上げが25億円の過去最高。「魔女の宅急便」キキのセル画が予想60万円の6倍370万円、「もののけ姫」セル画が590万円で落札された。同社は東京事務所を開設し、日本からの出品が1年で4倍に。

 

 漫画家・ながやす巧氏は仕事先に預けた「愛と誠」の原画が知らぬ間にオークションで400万円で売られ、取り戻せなかった。

 妻・福子氏「何とか取り戻すことができるのかっていろんなことを考えたんですけど、結局一番悪い形で終わってしまいましてね。しょうがないやって本当に力を落としてましたね。だって我が子が離ればなれになってどこにどういうふうに生きているかわからないっていうのと同じ気持ちですよね」

 

 森川嘉一郎准教授(明治大学国際日本学部)

「『風の谷のナウシカ』原画の枠外に書かれた修正指示。宮崎監督が作品制作においてどのような役割を果たされたのかということが、完成したフィルムだけではわからないようなことがその中間生成物を見ると鮮明にそこに残っていたりするんですね」
「国の文化のある種のアイデンティティを成しているようなものがどんどん海外に渡ってしまって、気づいた頃には日本に残っていないという状況はおそらく望ましくはないのだろうなというふうに思います」
「もともと庶民の娯楽として楽しまれたものが海外へどんどん渡っていって、取り戻そうにもあるいは展示を組もうにもなかなかハードルが高かったり、もっぱら海外のコレクションから借りる形でしか展示が実現されないという(かつての浮世絵と)似た点が発生してきているように思います」

 

 アメリカ人ブローカー「かつてアニメ制作会社はセル画をゴミ同然に扱っていた。それを売って処分することだけを考えていた。セル画がぎっしり詰まった箱をただ眺めるだけだった。今ほど価値を置いていなかった。当時日本を訪れるたびに数百枚買っていた。セル画はとても高い利益をもたらしいい商売になった。仕入れ値よりも2倍3倍ときには4倍で売れることもあった。言ってしまえば最初に制作会社が値打ちがないと捨ててしまったからだ。我々がそれを救い出し価値があることを証明した。もし返してほしいと言ってきたら、捨てたのはお前たちだと言い返すよ」

 

 漫画家・バロン吉元氏(85歳)「出版社の方でも(原稿を)大事にする編集者と本当に紙屑同様に扱うようなその程度の価値しかないという思いを持った者もいたと思いますよ。ある原稿が折り曲げられて机の足の支えにしていたということもあったし捨てられてしまうというのも結構あったと思うんですよ。原稿が返ってこないわけですよね。返ってこなければ返ってこないで漫画家も原稿料もらったんだからいいやというその程度の認識」
「やはり連載作品をたくさん描いている漫画家にしてみれば段ボールの中にしまい込むしかないよね。そうするとどんどん段ボールが増えていって自分たちの住むところさえおびやかされるような」

 

 娘エミリー氏は70箱以上の原画を管理。
「これが生原稿です。これはまだ5分の1程度かなと思いますね」
「全部自分の寝室兼仕事場のお部屋に収納しています。ベッドとか仕事机を囲むようにしてこういった生原稿の入った箱がひしめいているような状態でございます」
「幸福なことに私がまだ肉体的に動ける年齢にあるというところで自分のマンパワーで何とかやり過ごしてるっていう感じです。もう限界を正直今も感じてますし個人で保存をするのは非常に大変なものです」

 

 漫画家・上村一夫の娘・上村汀氏は自宅を改築して原画を保管。
「父にとってはいわゆる版下っていう。当時の漫画家さんはみんな版下っていう意識の中でやってたと思うんですけど、素人から見たら版下なんていうもんじゃないクオリティっていうか。そんなものが…一枚一枚に魂が込められていると感じて。これはちゃんと管理しなきゃって多分誰でも思うんじゃないかな」
「父が亡くなった今、私がこれはこういうものだったとかこういう風に貴重なんですとか説明する人がいないとなかなか保管するだけはできるけれどもその後世に出してくれることはできるのかなという不安はちょっとありますね」

 

 エミリー氏「(海外から購入オファーがくるが)すごくいい値段で言ってこられます。父が出版社からいただいている原稿料の金額よりも遥かはるかに、一枚の絵画を買うような金額で先方は提示してくるといった状況で、お!って思うんですけど(笑)、そんなに、しかもやっぱり父の原画をありがたい絵画のように大切な原画のように思ってくれてるのかなとか最初の方はちょっとまんざらでもないみたいな。でも結局は一枚も売ってないですね。やっぱり流出させたくないというか。私自身が今後も若い世代とか後世に父の作品を伝えていきたい気持ちが強いので。原画は売らないようにしているという状況ですね」

 

 フランスの大手スーパーの経営者ミッシェル・エドワード・ルクレール氏(73歳)は2億円以上を投じ1,500枚超を収集。
 7年前「鉄腕アトム」原画を3,500万円で落札したのも氏だった。


「(持っている原画は)1,500枚くらいかな。あまり収集の記憶がないです。それが美しい原画だったとしても、私はいつも計画して突き進むタイプなので過ぎたことは振り返らないのです」
「多くのコレクターは懐かしい思い出として原画を購入しますが、私は懐かしいからと言って買うことはありません。私は原画のクオリティーや歴史を人々に見せるために購入しているのです」
「原画やデッサンを見るとわかるのですが、印刷されたマンガでは日本の漫画家の豊かな才能が覆い隠されているのです。創造的な作品を鑑賞・評価できるよう展覧会やフェスティバルを通じて広めていく。原画の価値を広めることが私の目的です」
「私が10代の頃、両親が葛飾北斎歌川広重の浮世絵を壁に飾っていました。私は日本の画家を知りませんでしたが浮世絵を通じてその芸術を感じました。ですから浮世絵は文化や芸術を広める役割を担っていたのです。そして興味深いのが日本人が浮世絵を再評価したのはフランス人コレクターを通じてだったことです。市場に流通させることが大切です。芸術作品は金庫にしまってはいけません。世界中の人々の目に触れてこそ価値を持つのです。私たちが日本で集めた原画はこれからも世界で展示され続けるでしょう」

 

 フランスでは2027年、「ハウルの動く城」のモデルとされる東部の町コルマールに「ヨーロピアンマンガ・アニメミュージアム」がオープン予定。


 キュレーターのヴィルジニー・フェルモー氏(アルザス・欧州日本学研究所)
「私たちは原画の展示を目指しています。フランスでは原画なしに美術館を開けません。マンガは今まさにブームでフランスのマンガ市場は日本に次ぐ2位です。今こそマンガを芸術として紹介するときだと考えました」

 

 日本では文化庁が2030年頃、原画保管を担う「メディア芸術ナショナルセンター」整備を計画。
 小野賢志参事官「マンガやアニメについて今取り組んでいかないと浮世絵のように後で価値が大事だということになってからでは遅い、取り返しがつかないという危機感を持っています。産官学で力を合わせて取り組む中で国としてはそのネットワークの中心となるような役割をしっかりと果たすような拠点をつくっていかなければならないと考えているところ」

 

 秋田県の増田まんが美術館は182人の漫画家から預かった原画50万枚を保管するが限界。
 大石卓館長「原稿保管のキャパシティ70万点ということでリニューアルしたけど、机上での計算と実際の保管での空間のロスはどんどん大きくなっていった。いま50万点の状態でいっぱいいっぱいな印象」
「今の漫画文化をしっかり残してあげるということは次の世代に新しい発展した漫画文化を生み出すその基礎になるいうことだと思います。なのでまあとにかくその資料を守るためには多くの人やそして施設、体積が必要ですよね。この貴重な文化資料をですね、未来の世代のためにしっかり残していく。まあ僕はこの意識一つでいいっていうふうに思っているのでたくさんの仲間が増えることに期待したいなというふうに思いますね」

 

 初代館長は「釣りキチ三平」の作者、地元出身の矢口高雄氏。未来に原画を残していく重要性を説いていたという。

 館長「この建物の構想段階では矢口高雄記念館を併設したらどうかということも検討されたが、矢口先生のほうから、個人の記念館もありがたいがそれよりも次代を担うこれから漫画家を目指す若者や子供たちに一流の漫画家の原画を見せるのが一番の勉強になるから、原画を展示する美術館を作ったらどうかと。文化として後世に残していくにはどうしたらいいかということを真剣に考えるきっかけになった言葉が矢口さんからあった」
 矢口氏の思いを受け継ぎ、原画の魅力が伝わるようデジタル化した原画を大型モニターで拡大できるなど展示に工夫を凝らしてきた。

 

 バロン吉元氏「原稿の、漫画原稿の価値の大事さというものを知ってもらう、そういうようなことが一般に広がっていけばいいかなと思いますよね。いい保存方法を見つけてずっとね。これから私がいなくなってもこういうものをね、後輩に見てもらうと」

 

 ながやす巧氏の妻・福子「原画どうしたらいいんだろうってずっと話してるんですけど何らかの形で残ってほしい。いい形で。それこそいろんな人が個人で所有してバラバラになってしまうんじゃなくてどっかにちゃんとした形で保存される。それが一番望みですね。主人にとって」

 

──こういうものはやっぱり未来に残していきたいですか。

 

 ながやす氏「そりゃそうですね。残せるもんだったら」
 福子氏「100年後の人に見てもらいたい」
 ながやす氏「100年もあれば、いいけどね」

 

 

法と大国 ICC 国際刑事裁判所の現状

国際報道2025
放送日 2025年12月11日

 

 先ごろ年に一度の締約国会議が開かれたICC国際刑事裁判所

 

 所長を務めるのは赤根智子氏。
 ICC戦争犯罪や人道に対する犯罪などを訴追し処罰する国際司法機関。
 125の国と地域が加盟、米、露、イスラエルなどは非加盟。

 2002年の設立以来ジェノサイドや戦争犯罪に加担した責任者を逮捕。
 有罪判決を下しケースによっては被害者への賠償も実現してきた。

 

ICCが直面する危機

 ICC戦争犯罪の容疑でプーチン大統領イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出した。

 するとロシアは赤根氏を指名手配。イスラエルを支援する米トランプ政権は2月、ICC検察官に制裁を課した。

 

今回のICC締約国会議

 赤根氏の開会宣言
「はっきりさせておきたい。私たちは法の解釈や事件の裁定に関し誰からのいかなる圧力も受け入れない。独立性と公平性は私たちの”北極星”であり影響を受けることはない。私たちが忠誠を誓うのはICCの規定と国際法のみだ。非締約国を含むすべての国、人々に対し人道擁護のために裁判所と団結するよう呼びかける」

 

 会議ではICCへの圧力を強めるアメリカやロシアなど大国への非難が相次いだ。

 

 パレスチナの団体代表
「これはガザ地区パレスチナだけの問題ではない。ICCそのものへの脅迫であり、法の支配を抹殺しようという深刻な試みだ」

 

米、露の動き

 アメリカ代表(先月の国連で)
アメリカとイスラエルに対するICCの行動は危険な前例だ。国家主権の原則を侵害し重要な安全保障や外交政策を損なう恐れがある」

 アメリカによる制裁を受けたICCの裁判官や検察官はアメリカに入国できず、アメリカ系の銀行やクレジットカード、ITサービスの利用も制限されている。

 

 ICCが逮捕状を出したプーチン大統領は締約国のモンゴルやタジキスタンを訪問。締約国でも逮捕されないと誇示することでICCへの信頼を揺さぶる狙いがあったとみられている。

 

各国の動き

 この状況の中、今回の会議では各国から大国の圧力に対抗しようと団結を呼びかける声が上がった。

 

 フランス代表
「フランスは裁判所やその職員などに対するあらゆる脅迫や強制的措置を非難する」

 

 南アフリカ代表
「遺憾なことに、裁判所は容認しがたい外圧に直面している。断固として拒否しなければならない」

 

 日本代表
「日本は裁判所がその役割を果たせるよう最優先で独立性と安全性を確保する」

 

今回の決議
 会議最終日、ICCは締約国会議の強化や協力などの決議を全会一致で採択。

 

 議長
「最大の課題はすべての国に加盟してもらうこと。全員で取り組まなければならない。
協力することで裁判所の独立性を守り困難を乗り越えられると確信している」

 

 フィリップ・オステン教授(慶応義塾大学)
ICCが大国による圧力で機能不全に陥ってしまった、あるいは潰れてしまったという世の中をちょっと想像していただきたいんですけども、戦後の国際社会における法秩序の全面否定につながりかねない重大な事態になるわけですから、そうした意味でもICCを今だからこそより一層積極的に支えていく必要があります」

 

日本での取り組み 学術面でICCを支える

 ICCへの分担金を世界で最も多く拠出している日本。
 日本はどのような役割を担うことができるのか。

 

 先月、東京でICCとアジアの大学によるフォーラムが開かれた。
 日本、韓国、モンゴルなどアジアの10の大学の関係者が集合。

 

 赤根氏

ICCは公平な運営を妨げられかねない課題に直面している。だからこそアジア太平洋地域の学術機関で支援ネットワークを強める必要がある」

 フォーラムの狙いは学術の面からICCを支える大学ネットワークを作ること。
 将来的にはICCのアジア事務所を日本に設置することも目指す。(アジアは締約国が少ない)

 

 ICC書記局 マール対外関係局長
「私たちは法の支配が重要だと語ってきた。しかし裁判所が脅威にさらされる状況になって、法の支配という概念がいかに脆弱であるか痛感する。アジア太平洋でICCへの関心を高め、最終的な目標としてより多くの市民にICCに関わってほしい」

 

 さらに将来のICC国際法を担う人材を育てるためのセッションも。
 日本、韓国で国際刑事法を学ぶ学生が研究を発表し専門家と議論。

 

 オステン教授
ICCのような国際機関で活躍できるような教育環境を整え人材を養成し(ICCなどに)派遣するような具体的な仕組みを今後制度化していく」

 

ICCから離脱を表明する国々
 ハンガリーに加えてロシアとの関係を深めているマリ、ニジェール
 離脱の理由についてはICCが政治的な意図で動いているなどと主張。

 

ICCに新たに加盟する国々
 今年はウクライナ、去年はアルメニアが加盟。

 

 ICC赤根氏(8月のインタビュー)
「法の支配というのを実現させるために実務的に粛々とやっていくと。ICCが圧迫を受けていることのみ、メディアの人は非常にそういう方面を強く気にされる。そうなんですけど、だからどうなんだと私は言いたいですね、むしろね。これをバネにもっと挑戦する。将来を開く」