日経スペシャル 池上彰のSTEAM教育革新 よき問いでミライを拓け
放送日 2025年12月26日 BSテレ東
STEAM教育(Grokによる補足)
2002年度から始まったSTEM教育(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Mathematics=数学。理数教育に重点)にArtsを組み込んだのがSTEAM教育。
日本では2020年から本格導入。
文科省はArtsを美術・音楽だけでなく文化・経済・倫理なども含む広い範囲で定義し、実社会の問題発見・解決に活かす教育を推進。
※STEAM教育は全国の公立学校で一律に義務化・全面実施されているわけではない。新学習指導要領(小学校2020年度~、中学校2021年度~、高等学校2022年度~実施)でその考え方が取り入れられ、奨励・推進されている段階。
世界の論文数(2021年~2023年)
論文数 シェア(%)
1 中国 599,435 29.1
2 アメリカ 289,791 14.1
3 インド 91,997 4.5
4 ドイツ 72,762 3.5
5 日本 70,225 3.4
池上氏「ちょっと深刻だなと思うのはドイツに負けてる。ドイツって日本より人口少ないわけですよ。日本は1億2,500万人、ドイツは8,900万人ですから」
シェアの推移で見てみると日本は2000年代に入ったあたりから下降気味、対してその数を急速に伸ばしているのが中国。
「いま中国は基礎的な研究にものすごくお金をつぎ込んでるんですよね。日本もかつては結構潤沢に資金が出ててその結果いろんな成果をあげた。30年前にあげた成果で今ノーベル賞が出てるわけですよね」
理系が少ない日本
日本は昔から文系に偏りがちな文系大国と言われている。
去年の高校生で理系はおよそ3割を切っている。
対して文系の方は5割近い。
文科省は来年度以降数千億円規模の基金を活用して各都道府県の高校に重点的に資金を配分、理系カリキュラム拡充の支援をする。
最終的には理系の生徒の割合を4割まで引き上げる方針。
STEAMの授業 関西大学初等部の例
小学4年生の国語で習う新美南吉作の「ごんぎつね」。
キツネのごんは、兵十が母のために捕まえたウナギにいたずらをして逃がしてしまう。
兵十の母の死を知ったごんはいたずらを後悔。
その償いにイワシを送ったり栗や松茸を兵十の家に届けるようになる。
しかし、またいたずらをしに来たと思った兵十は、ごんを火縄銃で撃ってしまう。
そして近くにあった栗を見て、ごんが届けてくれたことを知るという結末。
この「ごんぎつね」をSTEAM化するという試み。
国語として読み解くのではなく、疑問点を探し「問い」を出す。
生徒A「イワシは本当に新鮮だったのか?」
生徒B「どういう栄養があるか」
堀先生「まったく別の視点で、じゃあ例えばこんなのはどう?」(「数学」の札を示す)
生徒C「何匹とるかとか、値段はどのくらいにするのかとか」
生徒D「一番気になったのが、兵十が、貧乏なのになぜ火縄銃を持っていたのか。本当に買えていたのか?時代が幕末から明治時代だから、だいたいその金額が100万円らしい。お母さんが死ぬ前にそのお金をお母さんに使ってあげていたら、お母さんは生き延びていたのでは」
生徒E「なんで2~3日雨が降っただけでごんがイタズラをしたい気持ちになったのか。調べてみたら、雨の日は日光を浴びられないからセロトニンが減少してイラついていた?」
生徒F「最初は問いをあんまり出せなかったけど、STEAMの視点で結構問いが思い浮かんで、便利だなって」
国語の松本先生「国語教師として教えている身としては、文学をそういう読み方をして大丈夫?文学の世界壊れない?っていう不安もありつつ」
「表面的じゃなく深いところまで読むことができたっていうのはみんな言っていたのと、普段国語より算数が好きな子とかが活躍したりだとか」
──宮野先生、この授業どうですか?
宮野公樹准教授(京都大学 学際融合教育研究推進センター)
2022年から日経STEAMアドバイザー
「すごいなと思った。あらゆることはあらゆるものと関係しているので、それがさっき言った一つの分野に留まらないという意味で、むしろ一つの分野、国語だったら国語の授業に留まっている方が特殊というかおかしいんで」
京都大学「京大100人論文」
2015年から始まった、STEAM的な視点の研究交流イベント。学際融合教育研究推進センター主催。
京大の研究者100人が自分の研究テーマや関心事を匿名でポスター(テンプレートがある)に掲示。
そのポスターに来場者が付箋で匿名コメント(質問、意見など)を貼っていく。
互いに肩書きや所属の先入観なく、本音の意見交換をすることが狙い。
宮野氏の「大学の研究環境が閉鎖的になりがち」という問題意識からスタート。
このモデルは全国に広がり、広島大学、琉球大学、横浜国立大学など30以上の大学・組織で類似イベントが開催されている。(Grokによる補足)
宮野氏「匿名性が最大の売り。偉い先生だから…というのをなくす。純粋に問いだけで意見交換する」
「本来研究者って何か知りたくて研究者になったんで、研究者の前に探求者なんだよ本当は。でもそれが研究者になったらやっぱりちゃちゃっと論文書いてちゃちゃっと金取ってみたいな。慣れちゃうというか。やっぱりそうなると学問はダメだと思っていて、そもそも俺何で研究者になったんだっけとかその探求心を確認しなきゃ。思い出さなきゃ初心を」
「学際」
池上氏「それぞれの学問がものすごく細かく分かれてしまうとそのちょうど間にこぼれ落ちるようなことが起きるわけですよね。それを他のところと協力し合ってこれまでこぼれていたものを助け上げるということだと思うんですよね」
宮野氏「いい仕事っていうのは必ずまたぐ。分野もまたぐし業種もまたぐ。いい仕事ってのはすごい広い。でつまりやっぱり研究者もいい仕事をしようと思ったら分野を超えざるを得ない」
「大事なのはSTEAMって語呂いいからAがあの場所に入ってますけども多分本当はアートはもっと土台なんですよ。さっき言った『感じる』ですよ。それがあってS、T、EとかMがある」
「わかりやすい」とはどういうことか
池上氏「私(が気を付けているの)は専門用語を使わない、和文和訳という言い方もしてますけど、わかりやすいと思うのはどういうことかっていうと自分の中に持っていたバラバラの知識がいきなりつながったときにあ、そうかっていうときに思わず膝を打つわけですよ。だから伝えようとしている相手が小学生なら、中学生や高校生ならどれくらいの知識を持っているだろうかあるいは一般の方ならどれくらいだろうかっていうと少なくともこの知識は持っている。そしてこの知識がある。これとこれをつなげていくことによって自分なりにわかったということになる」
「毎年4月に東京科学大学で新入生に話をするんですけど、君たちはきっと小中高校と良き答えとは何かとひたすら先生が求めている答えは何だろうと忖度してきたと。忖度力を身に付けてきたと。大学からはそうではない、良き問いを立てることだって、いつも言ってるんですよ」