今日も秋アニメの1話視聴感想はお休みです。
読書の秋ですよ。
秋じゃなくても読書を楽しんでいる人間ではありますが。
高校、大学生の頃、『読書が好き』と言うと『凄いね』と言われたことがあります。
何が凄いものか(笑)
こんな楽な趣味もないよ。
本は通販で届けてもらえるし、体を動かす必要は一切、不要だし。
完全、自分のペースで楽しめるし、いろんな、それこそ『物語』を味わえるし。
感情のトレーニングにもなるし。
漫画も含めた読書は、本当に楽にして素敵な趣味だと、改めて思います。
楽、大事。いえーい。
てなことで本日、感想をお送りするのは井上真偽さんの『アリアドネの声』でございます。ちなみに井上さんの作品を読んだのは、私は本作が初。
『恋と禁忌の述語論理』で第51回のメフィスト賞を受賞。その後『その可能性はすでに考えた』シリーズで、大きなミステリー大賞の候補作に選ばれるなど、その更なる活躍が期待されているミステリー作家さんのおひとりでいらっしゃいます。
そんな井上さんが発表された『アリアドネの声』は、2023年に刊行された作品です。そしてその年の年末に発表された主要ミステリーランキングに、数多くランクインした作品でもあります。
なので私も、文庫化されるのを今か、今かと待ちわびていたのです。
ではでは。まずは本作のあらすじを。
事故で兄を亡くした経験のある主人公のハルオ。成長した彼は、贖罪の気持ちから、災害救助用ドローンを扱うベンチャー企業に就職していた。
業務の一環で、同僚と共に障がい者支援都市『WANOKUNI』に訪れていた彼は、巨大地震に遭遇する。そして地下に1人の女性が取り残されていることを知る。
崩落と浸水のため救助隊が地下に向かうのは不可能。約6時間後には、その女性が避難できる安全地帯への経路も断たれてしまう。
ハルオたちはドローンを利用して、女性を避難誘導することになったのだが、そこには更なる困難が横たわっていた。
それは、その女性-中川博美が『見えない。聞こえない。話せない』、みっつの障がいを抱えていると言うことだった・・・と言うのが、本作の簡単なあらすじです。
文庫の帯にもでかでかと記載されています。単行本が刊行された際にも、同じような文言が宣伝文句として使用されていたように思います。
『話題沸騰!一生モノのどんでん返し』です。
大きく出たものです。これだけ煽られて、楽しみにしない、期待に胸膨らまない。
そしてそれと同じくらいに不安にならないミステリー好きはいないことでしょう。
過去に何度、この手の惹句に騙されてきた、裏切られてきたことか(笑)
てなことで、ここからは感想です。
まず結論から言うと、めちゃくちゃ面白かったです。
そしてどんでん返しの部分も、私としては非常に驚かされましたし『成程』と。
物語の最後の最後で明かされた、ある真実。それによるどんでん返しで、読み進める中で感じていた、そしてどんどんと強くなっていった疑問。ハルオたちと同じように『もしかして』と胸に沸いた疑念。
それらに、見事に答えが提示されると言うこの構造も、お見事の一言でした。
どんでん返しが、単なるどんでん返しに留まっていない。ちゃんと意味のある、そして役割を果たしているどんでん返しであったな、と。
そして『一生モノのどんでん返し』と言う帯の文句に関しても、やっぱり『成程』と言う、腑に落ちるような思いがあります。
確かに。こう言う感じのどんでん返しと言うのは、私は初めてのような気がする。
それもこれも本作は、確かにミステリーではあります。けれど誰かが誰かを殺すこともなければ、誰かが明確な悪意を持って何か事を起こすようなこともない。
様々な困難に溢れた状況下の中。それでも決して諦めずに、人が人を救う。救おうとする。その一部始終を描いたミステリーです。
何と言うか、いわゆる一般的なミステリーを想像すると、少し違うと言うか。
だから、物語の最後に待ち受けているどんでん返しもまた、この作品らしいものです。
『会心の一撃!騙された!そうか!かっはー!』と、騙された悔しさと快感に天を仰ぐようなものではなくて。
じわり、と胸に染みてきて、やがてそれが大きなうねりとなって、有無をも言わせぬ感情を生み出していく。そんなどんでん返しと言うか。
そのどんでん返しの根幹にあるのは、ミステリーで言えば『ホワイダニット』になるのかな?
ホワイダニットは、ミステリーにおいては『何故、罪を犯したのか』に該当しますが。
再度になりますが、この作品においては誰ひとり、罪を犯してはいません。
だからこの作品におけるホワイダニットは『何故、そうしたのか』と訳するのが適切かと思います。
何故、そうしたのか。
そこにある、とても単純明快な感情は、けれど『何故』と問われれば、非常にその理由のようなものを説明するのが難しい。私はそう思います。
そして何より・・・ダメだ。これ以上はネタバレになっちゃいそうだから内緒。
とにもかくにも、いわゆる人が殺されるミステリーで待ち受けているどんでん返し。
それとはまた異なる趣き、衝撃を与えてくれたどんでん返しは、成程。確かに『一生モノ』のそれかもしれません。
で。
このどんでん返しにも関わってくるのですが。
本作を読んでいて、私が何よりも好感を持てたのが、決して『お涙頂戴』の物語になっていないことでした。
主人公をはじめとする登場人物たち。彼ら、彼女らが背負っている過去、状況。また置かれている状況を考えると、何と言うかもっと暑苦しいまでにヒューマニズムを感じさせる物語にしていても、違和感はなかったと思います。
けれどこの物語は、それがなかった。
あらすじでも書きましたが、主人公のハルオは過去、ある事故で兄を亡くしています。
それ以来、彼は『無理』と言う言葉に対して、過剰なまでの拒絶感を抱き続けています。『無理』と言う言葉を許していないと言うか。
『無理だと思ったら、そこで終わり』『無理なことなんてない。必ず、どうにかできるはずだ』と言う彼の強い思いは、確かに素晴らしい。けれど誰あろう彼自身が、自身のその思いに縛められているようにも、私には見えたほどです。
それでも彼は、その思いを胸に『見えない。聞こえない。話せない』の障がいを抱える博美さんを助けるために、健闘し続ける。
しかし物語が進むにつれ、博美さん、そしてハルオたちを取り巻く環境は、いろんな意味で厳しさを増していきます。
更にドローンを通じて届けられる博美さんの行動。それに対して芽生える、ある疑念。それもハルオたちの精神を惑わせていくのです。
体力的にも精神的にも限界を迎え、とうとうミスをしてしまったハルオ。
そこで彼は、博美さんの介助をしている女性、伝田さんから、『無理』と言う考え、言葉に対する博美さんの考えを教えられます。
一言で言うなら、それは『軽やかな諦め』だと、私は思いました。
軽やかな諦めです。
そしてそこから生まれる、新たな希望、変わることと言うものも、見せられたような思いがしました。
無理なものは、どうあがいたって無理なんです。
でも、その基準を決めるのは『誰か』じゃなくて『自分』であることが大切なんです。
そして無理だとわかった上で、それでもできることはたくさんあるんです。
そうやって『これは私には無理。でも、それに近いあれなら、私にもできるかもしれない』と言う遠まわりを続けた結果、それが『無理』を飛び越えることになる。
そう言うことも決して、無きにしも非ず、なのです。
何より、その軽やかな諦めを通じて、私は『何もそんな『考え方はこれひとつだけだ!』『それ以外は認めないぞ!』なんて頑なな姿勢にならなくても』『もっと柔軟に、臨機応変に。その時、その時で対応していっても良いんだよ』と。
そんなことを教えられたような気がして。
そしてそれが、やっぱり物語の最後に待ち受けていたどんでん返し。
そこにもしっかりと関係していて。
登場人物の変化が、物語を通じてしっかりと描かれている。
なおかつそれが、読んでいて非常に納得感のあるものとして描かれている。
だけど決して押しつけがましくない。涙ぐましくない。
自然と『あぁ』と納得できる、感じられる。
その自然さが、個人的には本当に好感が持てて。そして同時に『うまいなぁ』と感じさせられたのであります。
とても人間臭い物語だと言うか。登場人物たちが、本当に人間臭いと言うか。
はい。
この点で言うと、ハルオや博美さんもそうなんですが。
ハルオの高校の同級生で、やはり不慮の事故によって妹が声を失うと言う障がいを抱えることになった韮沢と言う女性の存在も、めちゃくちゃ人間臭くて。再会して早々、彼女がハルオに食らわせたカウンターパンチよろしくな、痛烈な言葉含めて、彼女の変化と言うのも、ひとつの見どころだと思います。
あとハルオの同僚である我聞先輩、花村さんもめちゃくちゃ好きです!
こうした人間描写も非常にうまい作品であると同時に、次々と発生する事態。そのシリアスさが生み出す緊張感。
更にはハルオが操縦するドローンの技術?なんかも、めちゃくちゃ読みごたえがありました。
ドローンとか、私なんかそれこそ何にも知らないから『ラジコン操作するみたいに、びゅーってやったら、ほいほーいって飛ぶんだろうなぁ』とか(笑)
勝手に思っていたのですが。
勿論、ハルオが操縦しているのは災害救助用のそれと言うのもあるからなのでしょうが、めちゃくちゃ求められる技術とか高度なものなんですね。
そしてその内部と言うか構造とか、あるいはスペック?も、わかりやすく説明されているのを読んで『凄いなぁ』と、ただただ驚かされるばかり。
でもだからこそ、災害救助だったり、避難者の支援。また物流の人手不足を解消できるかもしれない存在として注目を集めていると言うのも、改めて理解できました。
『アイドルマスター』のライブでもドローンくん、びゅんびゅん飛んでるもんなぁ。
果たしてハルオたちは、圧倒的に不利な状況に置かれた『見えない。聞こえない。話せない』を抱える博美さんを、無事、救い出すことができるのか。
そして物語が進む中で、博美さんが見せる行動。そこに隠されていた真実とは。
『無理』に挑んでいく、様々な人たちの懸命な姿。そして揺れ動く思いにページをめくる指が止まらない、そんな作品でございました。
なんだろう。映画化されてもおかしくない、そんな気がする。
ただそれこそ、映画化されたら『感動』とか『涙が止まらない』とか。
まさに『お涙頂戴!』路線で宣伝されそうなのが、ちょっと嫌だけど。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました。