トンヌラの弓道

現役部活動指導員の初心者ガイド

【素引きの真髄】試合前のストレッチにもなる!弓を持つための正しい練習とフォーム改善術

弓を持つ練習である「素引き(すびき)」の真の目的、試合前のストレッチとしての活用法、そして正しいフォームを確立し改善するための練習方法を解説した記事のアイキャッチ画像。


ゴム弓を卒業した弓道初心者が次に手に取るのは、いよいよ本物の弓です。しかし、その練習は的を射る「射込み」ではなく、地味な「素引き(すびき)」から始まります。

ここで重要なことを伝えます。素引きは「初心者が延々とやる練習」ではありません。これは【試合前のストレッチ】や【的前(まとまえ)が使えない時の補助練習】として、上級者も行います。

この第9記事では、素引きの本来の目的と、正しいフォームを身につけるための重要ポイントを徹底解説します。地味な練習を乗り越え、綺麗な「型」を身につけましょう。

素引きとは? 「初心者の練習ではない」という本質

素引きとは、矢を番えず、離れを出さずに、弓を引く動作を繰り返す練習です。これは「弓を持った動作」を体に覚え込ませるための、非常に重要な工程です。

素引きは補助練習:試合前のストレッチ、的前混雑時の代替練習

  • 素引きの本来の役割は、あなたの射形(しゃけい)を安定させることです。
  • 試合前や審査前には、体の各関節を調整し、力の方向を再確認する【最終ストレッチ】として利用されます。
  • 道場の的前(的のある場所)が混雑している時や、時間がない時の【代替練習】としても積極的に行われます。

素引きの四つの目的:弓の重さに慣れる/本格的な動作の習得/筋力養成

  • 弓の重さに慣れる:素引きの最大の目的は、弓の大きさ・重さに慣れることです。特に体格に合わない重い弓を持った時の不安定さを解消します。
  • 本格的な動作の習得:執り弓の姿勢や、足の運び方である摺り足(すりあし)など、弓を持った状態での【本格的な移動動作】を体に覚え込ませます。
  • 筋力養成:地味ですが、弓を引くために必要な背中や肩周りの筋力トレーニンの側面も持ちます。
  • 型を固める:ゴム弓では曖昧だった、正しい力の方向と【射形(しゃけい)の基礎】を確立させます。

素引きとゴム弓の決定的な違い

ゴム弓と素引きは全く違います。ゴム弓は「動作の順序」を覚える練習ですが、素引きは「弓の重さ」と「手の内にかかる圧力」を体感する練習です。ゴム弓の感覚は一度リセットしましょう。

土台を固める! 素引きで徹底的に習得するべき要素

素引きで意識するべきは「引くこと」ではなく、「どこに力を込め、どこを緩めるか」です。

素引き練習の「安全・指の保護」と大前提のルール

  • 【最重要】絶対に「離れ」を出さないこと

    素引きは弓の弦を離しません。もし弦を離してしまうと、弓の破損や【変な癖】がつく原因になります。必ずゆっくり引き込み、ゆっくり戻しましょう。

  • 慣れるまでは「諸手(もろて)」で引いて指を保護しよう

    弓の弦は細く固いので、慣れないうちは引き手(右手)の指が痛くなります。痛みを我慢して変な引き癖がつくより、慣れるまでは【全部の指(諸手)】で引いても構いません。指の痛み軽減のため、タオルや布を指に当てるのもおすすめです。

胴造り(どうづくり)の強化:体の中心をブレさせない

弓の重さに負けて体が左右に傾くのが初心者最大の弱点です。素引きでは、下半身(胴造り)の安定を最優先してください。体がブレないように、常に体の中心(丹田)に意識を集中させましょう。

本格的な大三の練習:ゴム弓では得られない感覚の養成

大三(だいさん)は、ゴム弓では難しかった【押し手と引き手のバランス】が問われます。弓の重さを感じながら、弓の力を利用して体の横方向に伸展する感覚を養成しましょう。

手の内(てのうち)の作り方:会で完成させる意識を持つ

押し手(左手)の手の内は、弓と体が一体となるための生命線です。ゴム弓では指の形をほぼ変えませんでしたが、素引きでは弓構えから大三へ移行する際、弓が手のひらの重心に乗るよう、手の位置を微調整します。

具体的には、弓は動かさず、自分の手のひらをわずかにズラして弓の力を受け止める「手の内を完成させる準備」を行います。引いている間はゆるめず、【会(かい)で完成させる】という意識を持って練習しましょう。

体幹を使った引き分け:胸を割り、肩甲骨を寄せる感覚

大三から会への引き分けは、腕の力ではなく背中と体幹の力で行うことが重要です。意識すべきは、次の二点です。

  • 胸を弓に割って入れる:弓を引くことによって、胸が左右に広がり、胸郭が弓によって割られるような感覚を持つ。
  • 肩甲骨を寄せる:引き手側の肘を体幹の力で動かし、背中の肩甲骨をジワジワと中央に寄せていくことで弓を引き込みます。

息合いと会(かい)の保持:力の入らない引き方

引き分けの際は息を吐きながら、体に余計な力が入らないように引きます。会(かい)では、無理なく数秒間、弓を引いた状態を保持できるかチェックします。

伸合い(のびあい)の維持:縦横のバランスと矢筋

会を保った状態から、さらに体の中心を軸に縦(天と地)と横(左右)に【伸合う(のびあう)】感覚を養います。矢筋(やとすじ)が体の中心を通り、直線になるように意識しましょう。

初心者が陥りやすい!素引きの「NG動作」と改善法

鏡や仲間にチェックしてもらい、悪い癖がつく前に修正しましょう。

  • NG動作①:手先だけで弓を押している → 押し手(左手)は手先ではなく、肩根(かたね/肩の付け根)から押す意識を持つこと。
  • NG動作②:勝手に肩が上がってしまう → 大三から引き分けに入る際、肩甲骨を下げる意識を持ち、顎が上がらないように注意。
  • NG動作③:会の形が不安定で左右に揺れる → 胴造りと伸合いを意識し、弓の重さに体が負けていないかチェック。

素引き練習の目安と巻藁への移行基

素引き練習は「何回やったら卒業」というものではありませんが、目安はあります。

理想的な素引きの回数と期間の目安

一般的に、弓の重さに完全に慣れ、射形(しゃけい)が安定するまで【1日50回〜100回】程度を目標に継続します。期間としては、最低でも2週間〜1ヶ月は続けた方が良いでしょう。

巻藁(まきわら)への合格ライン:「先輩・コーチの承認」が全て

素引きには明確な合格ラインというものはありません。自己判断で移行せず、必ず先輩やコーチに自分の素引きを見てもらい、「もう巻藁(まきわら)に進んでいいよ」という【承認】をもらってから次に進みましょう。指導者の許可なく勝手に次のステップに進むのは危険です。

まとめ:素引きは地味だが、上達への最速ルート

素引きは「退屈」かもしれません。しかし、ここで確立した【正しい射形(しゃけい)】は、今後あなたが何百射、何千射と矢を射るための、唯一無二の土台となります。

地味な練習を軽視せず、今日の練習を明日の上達に繋げましょう!

次回予告:いざ巻藁(まきわら)練習へ!

先輩からの「OK」が出たら、次はついに【巻藁】という的に向かって矢を射る練習です。次回は、巻藁での狙い方、注意点、練習の目的を解説します。お楽しみに!