以前、43. 池波正太郎『剣客商売』、田沼意次、大石慎三郎、一橋治済 - tn3のブログ で一橋治済の黒幕的側面について記したが、12月7日に放送された大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第47回「饅頭こわい」は驚きの展開だった。すなわち、前回終わりで、将軍家斉(城桧吏)の父として権勢を誇る一橋治済(生田斗真)を討とうとする陰謀を企てるが、実はその陰謀が漏れていて、逆にそれを察知していた治済によって、大崎(映美くらら)が毒饅頭で命を落とす。しかし、今回、松平定信(井上祐貴)、長谷川平蔵宣以(中村隼人)、蔦重(横浜流星)らの静かな敵討ちが成功し、治済が抹茶に入れられた睡眠薬で眠らされ、治済と瓜二つの能役者斎藤十郎兵衛(生田斗真二役)が入れ替わられ、治済は阿波の孤島へと流されてしまう。*1
斎藤十郎兵衛は阿波徳島藩の蜂須賀家の能役者で東洲斎写楽と同一人物との噂がある人物だが、そのことへの言及は最終回であるのか。しかし、本作の写楽はそのような描かれ方をしていないので、きっと出てこないだろう。
私が思ったことは、娯楽ドラマとしてドラマ性があり良かったが、影響がある大河ドラマとして、若い人や子供たちが本回の内容を史実と思ってしまわないだろうかということであった。同様に、当たり前だが、蔦屋重三郎が寛政の改革で出版を規制した元老中の松平定信と親しく会うはずもない。*2だが、田沼意次(渡辺謙)と比して悪く描いてきた定信を、最後は主人公の蔦重と仲直りさせるために、また、このドラマの中で唯一、権勢を恣にし、傀儡師として人々を操ってきた治済に鉄槌を加えることを、すなわち、視聴者にもカタルシスが必要だという選択を、脚本家森下佳子(1971-)は選んだということであろうか。
最後に、今回の茶室の陰謀を実行したのは御三卿の清水重好(落合モトキ)であった。ドラマで初めて重好が活躍するのを見た気がする。*3四代将軍家綱の後は弟の綱吉が五代将軍を継いだ。私は御三卿清水家の祖徳川重好のことをあまり知らないのだが、十代将軍家治の嫡子家基が亡くなった時、どうして家治の弟の重好は候補にならず、一橋治済の子豊千代(後の家斉)が候補になったのであろうか。恐らく年齢の問題であろうか。*4ちなみに、一橋治済(一橋宗尹の子)、清水重好(徳川家重の子)、松平定信(田安宗武の子)は全て従兄弟同士である。*5
*1:生田斗真(1984-)は今回の治済の演技で注目されたのではないだろうか。
なお、オープニングの主演者の最後に名前が登場する俳優を「トメ」と言ったりするが、お笑いグループネプチューンの一員である原田泰造(1970-)や俳優高橋克実(1961-)は大河ドラマのトメとなったことを感慨深く思っているのではないだろうか。本作『べらぼう』では石坂浩二(1941-)や渡辺健(1959-)、里見浩太朗(1936-)などがトメになっているのだから。
*2:また、本作では老中松平定信と火付盗賊改方長官長谷川平蔵の関係もよく描かれているが、石川島人足寄場の設立に尽力した平蔵のことを、定信が自伝『宇下人言』で「長谷川何がし」と記していることは有名なことである。清廉潔白な定信は放蕩無頼の平蔵が人間的に好きになれなかったのであろうと思う。
*3:清水家は田安家、一橋家と比して残念ながら幕末まで活躍しない。初代重好以降の次の有名人は第六代当主の清水昭武であろう。『青天を衝け』(2021)では板垣李光人(2002)が演じていたが、パリ万国博覧会に兄十五代将軍慶喜の名代として参加した人である。
*4:七代将軍家継がわずか満6歳で亡くなった時も、あまり知られていないことだと思うが、六代将軍家宣の弟(家継の叔父)で越智松平家の祖である松平清武という人がいた。但し、33歳の吉宗と比べてかなり老齢だったはずである。