ヒトデの目は腕の先端にある
ヒトデは、ウニやナマコと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間です。一般的なヒトデは星型をしており、腕が5本です。足とは呼ばすに腕と呼んでいます。タコやイカにも8本や10本の足があるように見えますが、正しくは腕と呼びます。移動するのに使いますが、物をつかむのにも使うからです。
タコやイカとは違ってヒトデにははっきりとした頭や胴体のようなところがなく、5本の腕が体全体と言った方がよいかもしれません。目はそれぞれの腕の先端部に一つずつ。5本の腕は等間隔に伸びているので、どちらの方向も均等に見ていることにはなります。上下はありますが、前後左右がなく、水平方向ならどの方向にも進むことができる不思議な動物です。
5つあるヒトデの目は複眼で、一つの複眼を構成しているのは150~200個の個眼です。一つの個眼が一つの画素を作るので、つまり150~200画素で見ていることになります。およそ1000万画素あるスマホのカメラとは比べ物にならないくらい少ない画素数です。おまけに個眼にはレンズがないので、ヒトデの見ているのはとても荒い像ということになります。
デンマークのコペンハーゲン大学のAnders Garmらはアオヒトデを用いて、視力がどのくらいあるかを実験によって調べました。アオヒトデはその名のとおり青色をしています。体長は10~20センチメートルで、日本では沖縄の近海などに棲んでいます。
実験では、棲みかであるサンゴから離れたところでヒトデを放して、もとの住みかに帰れるかどうかを調べました。サンゴから1メートル離してもすぐに戻ることができるけど、2メートル以上離すと帰れなくなるという結果でした。また、暗くなると1メートルの距離でも戻れなくなりました。つまり1~2メートル先のサンゴを見つけることができる程度の視力ということになります。
時速数メートルと動きの遅い動物なので、敵を発見しても逃げることができません。ヒトデはおもに肉食ですが、エサとなるは貝のような動きが極めて遅い動物や動かない動物です。つまり視力がよくてもあまり役には立ちそうもありません。しかも、脳(中枢神経)がないので、仮に視力がよくて細かいところまで見えたとしても、その情報を処理することができないかもしれません。
つまりヒトデはそこそこ見えれば十分ということで、このような目になったと考えられます。
参考文献
Anders Garm and Dan-Eric Nilsson、Visual navigation in starfish: first evidence for the use of vision and eyes in starfish、Proceedings of the Royal Society B · February 2014
複眼とカメラ眼
形が分かる高度に発達した目は、その構造の違いから2種類に分けることができます。複眼とカメラ眼です。それぞれの構造とそれによる見え方にはどんな違いがあるのでしょうか。
(1)複眼
複眼は昆虫の目です。エビやカニなどの甲殻類も複眼をもっています。トンボの目を例に複眼の構造を説明しましょう。
トンボは、頭の大部分が目と言っていいほど大きな目をしています。トンボの目を拡大してみると、表面に小さな粒々がたくさんあるのが分かりますが、一つ一つが個眼です。小さな個眼が2万個も集まって複眼を構成しています。
粒のように見えているのは個眼の表面の角膜部分です。角膜の下に光を感じ取る視細胞が数個ずつ。それぞれの個眼は少しずつ違う方向に向いています。個眼一つで一つの画像が見えているのではなく、個眼からの情報は一つの画素となり、すべての個眼の情報を集めて一つの画像となる。
個眼の数は動物によって異なりますが、個眼の数が多いほど視力が高くなります。トンボは個眼の数が最も多い動物の一つですが、それでもカメラ眼に比べて視力が悪く、細かいものを見るのには適していません。
複眼のもう一つの特徴は、視野がとても広いということです。丸い目でほぼ全方向を見ることができます。また、動きを敏感にとらえることもできます。
(2)カメラ眼
カメラ眼は人など脊椎動物の目です。タコやイカなどの頭足類もカメラ眼を持っています。ヒトの目を例に、カメラ眼の構造を見てみましょう。
図は人の目の断面図です。名前が表すようにカメラと似た構造をしています。カメラの絞りが瞳孔、レンズが水晶体、フイルムが網膜に相当します。光は角膜や水晶体で屈折し、眼球の内側の網膜上に像を結ぶ。カメラではレンズを前後させてピントを調整しますが、人の目では水晶体の厚みを変えることでピントを合わせます。
網膜は0.2~0.3ミリメートルととても薄い膜ですが、この中に光を感じ取る視細胞が1億個以上。視線方向の対象物が像を結ぶ中心窩(ちゅうしんか)には視細胞が特に高密度に分布しています。
視細胞には、明るいときに働く感度の低い錐体(すいたい)という細胞と、暗いときに働く感度の高い桿体(かんたい)という細胞の2種類があります。感度の異なる2種類の視細胞を光の強さによって使い分けることによって、明るいときはもちろん、わずかな光しかない暗いところでも見ることができるのです。
カメラ眼は、網膜にたくさんの視細胞を配置できるため、一般には複眼に比べて視力が高く、きれいな像で見ることができという特徴をもっています。

図 人の目の断面図
ヤギの瞳孔は長方形
目の網膜に届く光の量を調整するのが瞳孔です。人の瞳孔は円形で、虹彩によって大きさを変えることができます。鳥や多くの哺乳類の瞳孔も円形ですが、縦長や横長など円形以外の動物もいます。
縦や横に細長い瞳孔の特徴の一つが、目の中に入ってくる光の量を大きく変えることができることです。人の円形の瞳孔では、明るいとき直径2ミリメートルと小さくなり、暗いとき直径8ミリメートルと大きくなります。面積を16倍にすることができます。縦や横に細長い瞳孔は、明るいとき細長く小さいのですが、暗いとき丸く大きくなり、面積では100倍以上になります。大きく開いて夜間のわずかな光をできるだけ多く取り込み、暗い中でも見ることができるようにしているのです。
縦に長い瞳孔を持っているのは、ネコ、キツネ、ワニ、夜行性のヘビなどです。カメラの円形の絞りを絞ればピントの合う距離が広くなりますが、絞りを開けば狭くなり、ピント位置以外のボケが大きくなります。細長い瞳孔は絞りを開いた時と同じようにボケが大きくなります。この像のぼけ具合や、正面についた左右の目による立体視から対象物までの距離をつかむことができます。捕食者であるネコやヘビなどは待ち伏せて獲物を捕らえますが、距離を把握しやすいのは狩りにおいて大きな利点となります。
横長の瞳孔を持つのはウマ、ヤギ、ヒツジ、クジラ、カバなどです。ヤギの瞳孔は漢字の「一」の字のような長方形をしています。縦長に比べて、横長な瞳孔の特徴は、頭上からの強い日差しを遮ることができることと、広い視野を確保できることです。
ウマ、ヤギ、ヒツジなど草原に住む草食動物の目は頭のほぼ真横についています。二つの目の視野が重なる範囲が狭いので、立体視はうまくできません。これらの動物にとって距離感はさほど重要ではありません。それよりは、天敵である捕食動物をいち早く見つけるために、草原を見渡す広い視野が必要です。二つの目が頭の真横についているとほぼ全方向を見ることができます。
また、瞳孔が横長だと水平方向の視野を広く保てます。正面を向いているときに、瞳孔は水平になっていますが、下を向いて草を食べているときは、頭が傾くので瞳孔も斜めになり、水平方向の視野が狭くなりそうな気がします。しかし、ヤギなどが下を向くと眼球が回転することで瞳孔の水平を維持できるのです。
横長の瞳孔も縦長の瞳孔と同じようにピントの合う範囲が狭く、像がぼけやすくなります。でも天敵はライオンのような大柄な動物なので、多少ぼけても見つけるのに大きな問題はありません。
このように動物の目は、活動する時間や見る対象物によってそれにふさわしい瞳孔の形をしているのです。
参考文献
Martin S. Banks, et al.、 Why do animal eyes have pupils of different shapes? 、 Science Advances (2015)
タコには盲点がない
うっかりして気づかず見落としてしまう事柄のことを盲点と呼んでいます。本来の盲点は視野の中で見えていない場所を指す言葉ですが、その例えとして使われるようになりました。
図のように人の目では、光を感じ取る視細胞が網膜の一番奥にあります。そのため網膜の一か所に視神経の束が出ていく部分が必要になり、そこには視細胞を配置することができません。したがって、その部分に結像した像は見えません。
盲点の位置は右目では右15度方向、左目では左15度方向で、大きさは約5度の楕円形です。これは、野球のボールを持って腕を伸ばして見たときのボールの大きさに相当します。かなりの範囲が見えていないのですが、ふだんは気づきません。両目で見ている限りは、盲点の領域でも反対の目では見えています。
しかし、片目をつぶると必ず見えないところが生じているはずです。しかし、盲点があることには分かりません。それは見えていないところを、その周りの情報を用いて脳が補完しているためです。
脊椎動物の目は、人と同じカメラ眼と呼ばれ、その構造上盲点が存在します。しかし、軟体動物のタコの目はカメラ眼ですが、盲点がありません。
タコの目は脊椎動物とは全く異なる過程を経て進化した目です。構造は非常によく似ていて、角膜、瞳孔、水晶体、網膜などで構成されています。大きく異なるのは、図に示すように視細胞が網膜の一番手前にあることです。そのため視神経の束を網膜から外に出す必要がありません。つまり、視神経の束が網膜を横切らないので、視細胞がない箇所すなわち盲点がないのです。
タコの目で、人の目とは大きく異なるところがもう一つあります。それは、視細胞が1種類しかないことです。人の目には明るいときに働く視細胞が3種類あります。それによって色を識別しています。視細胞が1種類しかないと色が分からず、白黒映画と同じように明暗しか分かりません。
タコはカムフラージュのため、周りの岩やサンゴの色に合わせて体の色を瞬時に変えることができます。皮膚の表面には色素胞と呼ばれる色素が入った細胞があり、色素胞を伸ばしたり縮めたりすることによって体の色を変えています。
目で色が識別できないのに周りの色に合わせて体の色を変えられるというのは不思議です。皮膚で色を感じ取ることができるともいわれていますが、詳しいことは分かっていません。

人の網膜 タコの網膜
図 人とタコの網膜の構造
参考文献
池田譲、タコの知性、朝日新書(2020)
トナカイは季節によって目の色が変わる
サンタクロースが乗るそりを曳く動物として知られているトナカイ。このトナカイの目には独特な特徴が二つあります。
一つは、季節ごとに目の色が変わることです。夏は黄金色ですが、冬になると青色になります。
目の色が変わる理由は、タペタムです。夜行性の動物や深海の魚など光の少ないところで活動する動物の中には、網膜の後ろ側にタペタムと呼ばれる反射板のあるものがいます。タペタムは、瞳孔から入ってきて網膜の視細胞でキャッチしきれなかった光を反射し、もう一度網膜に戻す働きがあります。これによって網膜で捉える光を増やし、暗い中でも見えるようにしているのです。
暗いところで車のヘッドライトに照らされるとネコ目が光って見えることがあります。これもネコの目に備わっているタペタムが、ヘッドライトの光を反射するためです。
タペタムはわずかな光をできるだけ余すことなく捉えることができるので暗いところで見るのに役立ちますが、反射光を拾うために網膜に映し出された像がぼやける欠点があります。つまり、細かいものが見えにくく、視力があまりよくありません。
トナカイの目にもタペタムがあります。緯度の高い北極圏やその周辺に棲んでいるので、冬太陽は沈んだまま薄明状態が続きます。薄暗い中で物を見るのにタペタムが役に立つのです。
薄明状態では光は波長の短い青い光が相対的に多くなります。薄暗い青い光の中でよく見えるように、冬のトナカイのタペタムは青い光を反射するので、目が青色に見えます。冬のタペタムは青色光だけでなく紫外線も反射します。一方、明るい夏は黄金色にして紫外線の反射を抑えているのです。
トナカイの目のもう一つの特徴は、紫外線が見えることです。冬のタペタムが紫外線も反射するのはこのためです。紫外線が見える鳥や昆虫はたくさんいます。しかし、哺乳類で紫外線が見えるのは珍しいことです。
紫外線が見えるとトナカイにとってどんなメリットがあるのでしょうか。
食べ物の少ない冬、トナカイの主食は地衣類の一種であるライケン(ハナゴケ)です。白っぽいライケンは、人の目には雪の中で目立ちません。雪は紫外線をたくさん反射しますが、ライケンは紫外線を吸収します。紫外線が見えると、雪との反射率の差からライケンが目立って見えます。人の目には見つけにくくても、トナカイの目には見つけやすいのです。
寒くて暗い北極圏の冬。トナカイはこのような特別な目を持っているからこそ、このきびいしい気候のなかでも生きていけるのでしょう。
参考文献
Robert A. E. Fosbury and Glen Jeffery、Reindeer eyes seasonally adapt to ozone-blue Arctic twilight by tuning a photonic tapetum lucidum、Proceedings of the Royal Society B (2022)
蛾の目はわずかな光も逃さない
物体の表面に白い光が当たると、その一部は反射し、それが見ている人の目に届くと、物体の色が見えます。当たった光に対して反射してくる光の割合が反射率です。反射率が高いと明るい色に、反射率が低いと暗い色に見ます。反射率が100パーセントに近くなると白い色に、0パーセントに近づくと黒い色になります。
縫い針数十本をそろえて輪ゴムで束ねます。横から見ると銀色に輝いていますが、尖った方から見ると黒く見えます。黒く見える理由は、針先から入射した光が針の側面で反射しながら奥へ奥へと進んでいき、手前側にはほとんど光が戻って来ないためです。
束ねた針と同じ構造になっているのが、蛾の目です。蛾の目の表面は光の波長より小さい円錐形の小さな突起がたくさん並んでいて、光をほとんど反射しません。これをモスアイ構造と呼んでいます。夜に活動する蛾の目は、暗い中でも見ることができるようにわずかな光を逃さず吸収します
反射率が0パーセントの物体は存在しません。紙に印刷した黒インクは真っ黒に見えますが、反射率は0パーセントではありません。反射率はおよそ1パーセントです。
2023年、「光を99.98パーセント以上吸収するシート」が開発されたとの報道がありました。光を99.98パーセント吸収するということは、反射率は0.02パーセントです。きわめて反射率の低い物で、「至高の暗黒」と表現されていますが、本当に真っ黒に見えることでしょう。このシートの表面には0.05ミリメートルという微細な円錐状の穴がたくさん開いていて、光を閉じ込める構造になっています。
パプアニューギニアやその周辺などに棲むフウチョウは、ゴクラクチョウとも呼ばれています。このゴクラクチョウの雄の羽根はとても黒く、光を最大99.95パーセント吸収します。雌に求愛するときに鮮やかな青や黄などの飾り羽根を目立たせるため、周りの羽を黒くしているのです。黒ければ黒いほど飾り羽がよく目立ち、メスの注意をひくことができるというわけです。この羽根の表面もごく細かいとげが並んだような形をしており、蛾の目と似た構造をしています。
一般に黒い色は黒い色素によって作られています。しかし、このように細くて尖ったものによっても作り出すことができます。色素によらずに作り出される色を構造色と呼んでいます。蛾の目やゴクラクチョウの羽の黒色も構造色です。
参考文献
(1) 田口登喜生、箕浦潔、モスアイ構造による機能表面、日本画像学会誌(2022)
(2) Dakota E. McCoy, et al.、Structural absorption by barbule microstructures of super black bird of paradise feathers、nature communications (2018)
アシカの目は丸くない
水に潜って目を開けるとまわりがぼんやりとしてよく見えません。どうして水中でははっきり見えないのでしょうか。
目に届いた光は水晶体だけで屈折して、像を網膜に結んでいるのではありません。3分の2は角膜で屈折し、水晶体で屈折しているのは残りの3分の1だけです。水晶体は見る距離に合わせて厚みを変え、ピントの合った像を網膜に作る役割をしています。遠くを見るときは水晶体を薄く、近くを見るときは水晶体を厚くしています。
角膜が空気と接しているとき光は大きく屈折しますが、水と接しているとあまり屈折しません。角膜と水の屈折率はほぼ等しいからです。そのため水中ではピントを合わせることができず、像がぼやけてはっきりと見えません。そこでゴーグルを着用して角膜の前に空気の層を作れば角膜で光が十分に屈折し、はっきり見えるようになります。
水中に住む動物は、はっきりと見えているのでしょうか。魚は、角膜で光があまり屈折をしないで、水晶体で光がたくさん屈折するようにしています。水晶体の形を球形にして屈折率を高めることで、角膜の前に空気の層を作らなくてもはっきりと見ることができるのです。ただし、水晶体が球形ですと厚みを変えることができないので、水晶体を前後に動かすことでピント調整をしています。カメラのピント調整と同じ仕組みで、近くを見るときは水晶体を網膜から離し、遠くを見るときは網膜に近づけます。
ヒトとは逆に水中に棲む魚は空気中では光が屈折しすぎてピントを合わせることができません。アシカは水の中で泳ぎながら魚を捕らえることができるように、水中でピントの合う目の構造になっています。また、水族館などでのアシカショーで、投げたボールを鼻先で受け取ったりできるように、地上でもよく見えています。なぜアシカは水中でも陸上でもピントを合わせることができるのでしょうか。
アシカの目を真横から撮った写真をよく見ると、丸い目の先端部分だけが平らになっていることが分かります。つまり、平らになっていると空気中でも水中と同じように角膜で光が屈折しなくなります。そうすることによって地上にいるときでも水中と同じようにうまくピントを合わせることができるのです。
空気中でも水中でもピントの合う目を持つ動物は他にもいます。例えば、カメやウは空気中と水中で水晶体形を変えています。光が屈折しにくい水中では、水晶体の一部を押して半径を小さくし、屈折率を上げているのです。
このように水陸の両方で活動する動物のなかには、空気中でも水中でもはっきりと見ることができるような独特な構造をした目をもつものがいるのです。