休日の記録と角川春樹を巡るあれこれ、不在とその神話

はじめに

  • 休日に出かけた記録と、角川春樹に関するあれこれを掘り出して書いてみました。だいたいは2025年の1~2月頃の記録です。
  • 角川武蔵野ミュージアムと角川庭園、それぞれに兄弟である春樹と歴彦が不在で、そこに勝手に意味を見出してしまうという話です(自分で書いておいて、単にこれ見落としているだけだったらどうしよう……)。

角川武蔵野ミュージアム、春樹の不在について

  • 年越して、正月は酒飲んで家でゴロゴロしているうちに終わってしまいそうになり、どっか出かけようという話から、所沢の角川武蔵野ミュージアムを訪れました。
  • 入館すると、まず目に飛び込んでくるのが角川源義(春樹の父)による「角川文庫発刊に際して」の文章。これは角川文庫発刊に際して、源義が文化の普及と滲透を謳いあげた名文として知られています。
  • 館内5Fは武蔵野ギャラリーと銘打たれ、武蔵野関連の文化、郷土関連の書籍が陳列されているのですが、中に辺見じゅん(春樹の姉)の著書も展示されていました。
  • また1Fのマンガ・ライトノベル図書館の巻頭言には、角川歴彦(春樹の弟)の名前も記載されていました。 東京オリンピックパラリンピックを巡る贈賄罪に問われているので、取り下げられているのかな、とゲスい興味を抱いていたわたくし。
  • しかし当然のように角川春樹の名前は館内には存在しませんでした。まーそりゃそうですよね、とは思うけど、源義による辞典出版や歴彦によるオタク文化振興と、角川一族による事業の来歴が語られるのに、80年代の春樹の巨大な業績がなかったことにされるのは、あまりに無理があるし、なんかこう居心地悪くないですか……。
  • とかなんとか思いつつ、図書館に特設された荒俣宏先生による選書のコーナーを眺めていて、『帝都物語』には作中のキャラクターとして角川春樹が登場することを思い出しました。そうだ、ここに春樹がいますよ!春樹は消せないンだ!(言いたかっただけ)

余談、栗本薫グイン・サーガ』について

  • ここから余談、栗本薫の話です。関係なさそうですが、作者不在でも続く物語、神話と言えるかも……(無理矢理)。
  • 1Fのマンガ・ライトノベル図書館にて。栗本薫グイン・サーガ』が陳列されており、懐かしいなーと手に取りました。
    • グイン・サーガ1 豹頭の仮面
  • 本人著作としては最後となる130巻にて、夫であり、編集者の今岡清氏があとがきを書いています。
  • 曰く、作者である栗本薫が亡くなり、当初は続きは考えられなかった。しかし「誰かがこの物語を綴ってくれるのであれば、それでも良い」という本人の意向を知った。作品として継続することで、この物語を知る新しい読者が現れ、そして「それは異形であった」という始まりに出会うことがあれば喜びであると。
  • 感傷的な気分になる名文なのですが、冷静になると後年の栗本薫の筆は乱れに乱れ、自分もさすがに付き合いきれなくなり『グイン・サーガ』も途中で読むのを止めてしまったのだ、ということに思い至ります。亡くなると人はつい対象を美化しがちだけれど、良い思い出ばかりではないんだよなと……。
  • 無理やり連結すると、自分の中で栗本薫前田日明と同じ箱で、思春期に影響を受け、恩義のような気持ちもあるけど、後年はなんちゅうかこう、敬して遠ざけるような対象になってしまった人物という感じです……。
  • そう言いつつ、その場で1巻を読み直して。豹頭人身の戦士、亡国の双子の王子と王女、病を抱え全身を鎧に隠した辺境の領主。おどろおどろしい筆致で描かれるそこには確かに今でもマジックが宿っているように思いました(20巻までは本当に面白い、という評価もあります……)。
  • 冷戦核戦争恐怖時代の作品なので、人外魔境の地、ノスフェラス放射能汚染されたのが原因だった、みたいな仕掛けもあり。当時あっちょんぶりけーと驚きながら読んでいましたね……なにもかも懐かしい……。
  • 漫画『ベルセルク』が『グイン・サーガ』に影響を受けているという話を聞いたことありますが、確かに思えば美貌の野心家グリフィスはナリスとイシュトヴァーンを掛け合わせたような造形です。奇しくもどちらも未完のまま作者は亡くなり、続きは別のチームが書いているんですよね。
    • ベルセルク (1) (ヤングアニマルコミックス)
  • グイン・サーガ』は一度、アニメ化されましたが、ほとんど話題にならなかったように思います。漫画『進撃の巨人』は『ベルセルク』鷹の団、黄金時代篇が元ネタと言うから、師の師ならば師も同然。WIT STUDIOMAPPAでもっかいグインの映像化とかないですか……ないですかハイ。
    • 進撃の巨人(1) (週刊少年マガジンコミックス)
  • そんなこんな取り留めもない過去を回想しているうちに日は暮れ、お腹空いた帰ろう、という話になり。所沢郊外チェーンの中華定食食って終了。

荻外荘公園~角川庭園へ、歴彦の不在について

  • 前日の疲れでグースカ昼過ぎまで寝て、このままだと相変わらず一日ゴロゴロして終わりそうなので、半強制的に出かけました。1月に復元、公開されたという荻外荘公園へ。
  • 近衛文麿の別邸で、戦後に自決した書斎含めほぼそのまま保存されているそうです。観覧用にタブレットが置かれていて、近衛と松岡洋右の対談をARアプリで再現……というアジなサービスあり。
  • すこし移動して、近場にある角川庭園へ。
  • 角川源義の自宅を公開したもの。角川一族に伝わる歌人の才を継いだものとして、ここでは春樹の名前が記載されており。一方で歴彦の名がないのは、別に不自然なことではない(歌人ではない)のですが。先日訪れた角川武蔵野ミュージアムと対比になっているようでもあり、つい勝手に意味を見出してしまいそうになります。
  • 最後に大田黒公園へ。
  • 景色綺麗なのだけれど、閉園間際のこの時間となると、陽が落ちて滅法寒く、あーこれはもう帰りましょうとなってこの日は終了。

インタビュー本『最後の角川春樹』について

  • 不謹慎の極みですが、源義〜春樹と歴彦の確執、愛憎はまるで王位継承を巡る神話的闘争のよう。スコセッシに映画化して欲しいです。春樹、歴彦それぞれが別の形で源義の後継であることを主張している。春樹にとってそれは歌人としての才能であり、歴彦にとっては事業の運営者としての功績なのではないか……というまー下衆な見立てですね。
  • 自分の角川一族に関する知識の大半は以下の伊藤彰彦『最後の角川春樹』に拠ります。
    • 最後の角川春樹
  • これ大変面白い内容で、業界の風雲児としてのライズアンドフォールからのまた復活劇が綴られる、それ自体が角川映画のような一本です。角川春樹が父への愛憎を劇的な口調で語っており、特に病院へ向かう車に乗った自分を極めて映像的に活写してみせる場面など何この巧みな話法!とビビってたじろぎます。
  • 他の関係者への言及も魅力的で、特に大林宣彦について。映画『男たちの大和』を巡り政治的信条から絶縁を突き付けられるものの、後に和解するくだり。大林の病気を知って愕然とするも、彼はそこから何本も映画を撮ってみせたんですよ得難い戦友でした……とこういうトーンの語りがいちいち上手いんですよね。
  • 角川春樹というと毀誉褒貶あり奇矯な人扱いされがちですが(わたくしもついウヒヒ的な態度で擦ってしまう)、しかしこういった本読むと恐れを知らぬベンチャー経営者であり、教養深い文化人、知識人でもあり、やはり異能の天才やと思わされます。
  • (一方で角川春樹が急にユダヤ陰謀論を語り始め、インタビューアが突っ込まないまま話が進行して行く不穏な部分もあります……)
  • また改めて瞠目するのが氏の日本古代文化への造詣。思えば80年代頃って伝奇ブームで、金がないわたくしは図書館で角川ノベルの伝奇小説を借りては読み漁っていた時期あり。後追いですが、後年に角川映画魔界転生』とかも夢中になったし、直接、間接的にもいろいろと影響受けてきたんだなあという思いもあります。

余談:『無冠の男 松方弘樹伝』について

  • 前記の角川春樹インタビューと同作者なので手に取った『無冠の男 松方弘樹伝』。こちらも大変面白うございました。
    • 無冠の男 松方弘樹伝
  • 松方弘樹ってこんな懐深い人だったんだな……と思わされること多々あり。例えば台本は30、40回は読み込み、複数の役者が自他の役を演じた場合を予め想定して現場に臨む話など。
  • 関連して語られる『柳生一族の陰謀』にて萬屋錦之介成田三樹夫が衝突したエピソードも面白いです。錦之介が複数の芝居パターンを用意してぶつけるのに対し、成田三樹夫は毎回同じ受け答えをする。それが錦之介には許せなかったという話。
  • 一方で丹波哲郎は、自分から「ABCの3パターンの演技をするゾ」と宣言するのに全部同じで、深作欣二が「どれもあんまり変わらないのでAで良いです」なんて面白挿話もあり。

さいごに

  • 当然、松方氏も角川映画に出演しているわけで、同時代を生きた巨人たちなんだなーという感慨もあります。
  • しかし上述の角川春樹角川映画も含め、何でもかんでも素晴らしかったかと言うと、さすがに美化し辛いものもあり。『野性の証明』とか、あれは何だったンだよ!という気持ちもあるなあ……。
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  • とりとめないまま、おしまい。