ステージおきたま

劇団と農業と韓ドラと、そして、世の中に一言

『怪物』って、だれのことだ?

韓ドラだからって、幸せラブコメディばかりじゃない、そうだ、そうだった。
『智異山君へのシグナル』とか『マスクガール』とか『ソンサン・弔いの丘』とか、『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』とか、何かに取り付かれたような陰惨な負の主人公が蠢くドラマも少なくなかったっけ。
 
で、今回は『怪物』だ。
 
 
あっ、ネタバレありなんで、ご注意を!
 
なんだぁ、このわけのわからない引力は?
全18エピソード、呆然自失状態でいいように引きずり回された。
 
暗い!辛い!息がつまる。
 
見終わった感想?何を書きぁいいんだ。
 
『怪物』って、いったい誰なんだ?
 
前半部分は、自分の娘さえ殺してしまう連続殺人犯がそれらしい、と思わせておいて、物語はずんずん明後日の方へ転がって行く。
 
車で主人公の妹を轢き、その事実の重さに記憶を失って20年悩み続けた友人の警官のことか?
 
いやいや、物語はそんなところで止まらない。
 
秘密を抱え幻影におびえ続ける息子を庇いつつ、市長になるとの野望故に息子の事故を隠し続ける母親の市会議員か?
 
政治の裏には金と野心が絡む。恵まれぬ身から不動産業での成功を目指し、悪行を重ねる成り上がりのロシアマフィアかぶれの男か?
 
そしてついに、究極の大悪人が姿を現す、やっぱり権力の頂点、警察庁長官こそが現代の怪物なのか?なるほど、大物こそは怪物に相応しいってことか?
 
と、引きずられ、しだいしだいに連続失踪事件の全容が明らかになって行く、この経過がスリリングで惹きつけられるのだが、
 
違う!違うんだ!!
 
『怪物』は、変質者の殺人魔でも、我が子可愛いやと野望の合わせ技の母親でもない。まして、ギャングまがいの乱暴者でも、権力の頂点でもない。
 
『怪物』は、
 
実は、事件を追う二人の警官なのだ。
 
 
20年前、妹を殺したとの冤罪を被り周囲からの有形無形の指弾を受けて苦しむ一人の警官、行方不明の妹を見つけ出し、犯人を捕まえることに執念を燃やす主人公イ・ドンシク。常に血走り、怒りに燃えるその眼差し。憤りと屈辱と哀しさと、復讐心を秘めたその表情の大写しの連続。
 
もう一人の主役は、出世のためなら家族も追い落とす父親のもとで、母を奪われ、自身も捻じ曲げられ削ぎ落されて育った若手警官ハン・ジュオン。親はもちろん、友人、仲間のいっさい、いや、自分さえも信じていない若者。人と交わること自体を拒絶しつつ、己を追い詰めた父親への復讐を目指す。その表情は、ほとんど動くことなく冷たく白壁のごとく固まったままだ。人間としてのあらゆる感情を削ぎ落して来た男の目は同僚の警官に、近しい人々に、犯人に、じっと据えられる。
 
対照的な二人の表情、中でも両極の二人の眼差し、これが、この長い物語を緊迫感を孕みつつ引っ張って来たものなのだ。そう、
 
彼らこそが『怪物』!
 
愛する者を強奪され、喪失感に突き動かされ、復讐の炎を暗く燃やしつつ、社会の常識はもちろん、法律順守さえもかなぐり捨て、絶望に突き動かされる二人の警官。
 
己の意思をはるかに超えたものに支配され、ひたすら復讐の対象に迫って行く二人、その取りつかれた暗い情念こそが、人間の闇、怪物の正体なのだと思う。
 
だれしも、やりきれない怨念のようなものを抱えている。この二人ほど激しく圧倒的ではないだろが。
それはそっと抑えつけられ、心の奥でざわざわと蠢くばかり。時に噴き出し激情、そんな不穏な経験を持つからこそ、彼らの怪物性に引き寄せられどこまでも追随して行くのだ。
 
だが、様々な困難を乗り越え、互いの不信感や苛立ちの末に、互いに見交わした顔の許しの表情に救われるのだと思う。
ずいぶんと長い仲違いだった、やれやれ。