ハードバピッシュ&アレグロな日々

50~60年代のジャズを中心におすすめCDを紹介します

ビル・エヴァンス/ニュー・ジャズ・コンセプションズ

本日はビル・エヴァンスの記念すべき初リーダー作をご紹介します。1956年9月に録音され、翌年初めにリヴァーサイド・レコードから発表されたこのアルバム。後のエヴァンスの輝かしいキャリアの第一歩となるのですが、実は発売当初は評判を呼ばなかったようです。当時のレコード売り上げはたった800枚。もともとジャズのレコードはポップスに比べると大して売れないものですが、それにしても惨憺たる結果です。

実際、エヴァンスのディスコグラフィーを見てもこの後の彼の録音は1957年にチャールズ・ミンガス「イースト・コースティング」、ジミー・ネッパー「ア・スウィンギング・イントロダクション」,、プレスティッジ・オールスターズ「ルーツ」等のサイドマン参加作があるものの正直そこまで目立った役割は与えられていません。エヴァンスが多くの人の注目を集めるのは1958年になって帝王マイルス・デイヴィスにピアニストとして抜擢されてからです。その後のエヴァンスの活躍については言わずもがな。1958年末録音の「エヴリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス」を皮切りに怒涛の勢いでジャズ史に残る名盤を吹き込んでいきます。

では、そのデビューアルバムの出来がどうかですが、フラットな目で見て普通に良質のピアノトリオ作品だと思います。もちろんその後の歴史的傑作群と比較すれば色々とこなれていない感じはありますが、後のエヴァンスの独特の世界観はこの時点でほぼ確立されていたことがわかります。デビュー作のセールス面での失敗はエヴァンスにとってもショックだったはずですが、そこから大衆路線に迎合することなく、マイルスと言う理解者に見出されるまで自分のスタイルをキープし続けたエヴァンスは偉いですね。なお、メンバーはベースがテディ・コティック。白人ながらチャーリー・パーカーホレス・シルヴァーに重用されたバップ畑の人です。ドラムが後にリヴァーサイド4部作はじめ数多くの名盤でエヴァンスと共演するポール・モティアンです。

全11曲。スタンダードが5曲、バップのカバーが2曲、自作曲が4曲です。注目は後にエヴァンスの代表作「ワルツ・フォー・デビー」で演奏される"Waltz For Debby"と"My Romance"が収録されていること。ただ、どちらもエヴァンスのソロピアノで時間も1分半〜2分程度しかありません。本作での演奏をベースに、より洗練されたインプロヴィゼーションで表現したのが後の「ワルツ・フォー・デビー」と言う訳ですね。なお、ソロピアノはもう1曲エリントン・ナンバーの"I Got It Bad And That Ain't Good"があり、そちらも1分半ほどの短い演奏です。

それ以外はコール・ポーターのスタンダードをスインギーなピアノトリオで聴かせるオープニングの"I Love You"、同じピアニストのジョージ・シアリングタッド・ダメロンの名曲をそれぞれダイナミックにカバーした"Conception"と"Our Delight"が素晴らしい出来です。どの曲もベースとドラムとのインタープレイもバッチリですね。一方、エヴァンスお得意のロマンチックなバラード演奏は上記のソロピアノ3曲を除けばあまりなく、”Easy Living”ぐらいでしょうか?

オリジナル曲は"Waltz For Debby"の他にはまず2曲目の"Five"。1956年の時点ではかなり先鋭的なメロディ構成の曲で、エヴァンスがアルバムタイトル通り"新しいジャズの概念"を示そうとしていたことが伺えます(ソロピアノ3曲もそうですね)。”Displacement”はわりとスインギーなピアノトリオ演奏。ラストの"No Cover, No Minimum"はスローブルースで、ジョー・パス「キャッチ・ミー」でカバーしていました。以上、エヴァンスのデビュー作と言う歴史的価値を抜きにして普通に名盤だと思います。