聴いてきた範囲だと、一番良かったのはCarl Creigのコンピ盤『Elements 1989-1990』だ。同時代にBellebile Threeが強調したハードな勢いやハウスに由来する高揚感から距離を置きながらもDerrick Mayの"It Is What It Is"以降にみられるアンビエント要素を継承し強めたようなソフトな音響は、まさにIDMの先駆けといえる。ローパスフィルタが深めに効いたシンセパッドは、かなりAphex TwinのSAWシリーズを思い出す。空気に淡く滲むあの感じ。
Underground Resistance(Mike Banks)の『Nation 2 Nation』から始まる「Hi-tech Jazz」三部作も凄い。テクノ~ハウスにジャズのハーモニー…というより長和音の平行移動でフュージョンに近いハーモニーワークを取り入れている。生楽器のソロも含めて。平行和音はハウス黎明期から、意図的な選択というよりシーケンスにおけるサンプリング機能の産物として*1多用されてきた(例:Inner City "Paradise" "Big Fun" "Good Life")。他にも絶対あるけど全然聴けてないな。同様の仕組みから、オーケストラ・ヒットもその延長線上にある(例: X-101 "Sonic Destroyer" The Suburban Knight "Nocturbulous")。こうした背景があって、Mike Banksがバンドマンとして楽器の知識を持っていたということも考慮すると、このジャズとハウスの自然な融合は狙って作られた…のだろうか。わからんよーん。
野田努『ブラック・マシン・ミュージック』で言及されていた世界初のアフロ・フューチャリズム論考「Loving the Alien」のことが気になり、Wayback Machineを当たったらその掲載元である英『WIRE』本誌が丸ごと上がっていた。折角なので読んでみた。「アフロ・フューチャリズム」という語句が使われていないこと以外、骨格?は昨今見られるものと変わりないのかな。奴隷制以降のアメリカン・ブラック・カルチャーの根底には身近な素材を再配置するブリコラージュ的・折衷主義的な発想があり、Sun Raの一見胡散臭い宇宙観も、Public Enemy『Fear of a Black Planet』でみられるビデオゲームやコメディの引用も、ビバップの伝統(おそらく「スタンダード」や「アヴェイラブル・ノート・スケール」といったルールや仕込んでおいたリック~引用などの素材を組み立てる即興演奏のこと)も、漏れなくその特徴を持つ。音楽に限らず、文学の分野では、サミュエル・R・ディレイニーやオクタヴィア・バトラーといった黒人SF作家が挙がっている。筆者Mark Sinkerはこうして生き残ってきた文化およびブラックSFのリアリズムを称揚しつつ、ブラック・カルチャー全体の性質を南部に由来する「偉大なソウル神話(Great Soul Myth)」に還元するとか、ビートジェネレーションの作家みたいに非インテリ的な「高貴な野蛮人」の前提で黒人音楽を捉えるとか、そういうことはやめよ~ぜ!と言っている。サイバーパンクを現実化したヒップホップとテクノの台頭を見ろと。参照されたSF作家の作品はフィリップ・K・ディック以外読んだこと無いし、まだSun Ra影響下の哲学は全くと言っていいほど咀嚼できていないが、論旨は掴んだつもり。ColtraneはSun Raの弟子であることを知らないと理解できない、ということも書かれているので、そちらのほうも進めたい。まずは映画『スペース・イズ・ザ・プレイス』から…
知らない単語・慣用句が多くてとても時間を食った。「save one's bacon」おもしろいですね。「no more than」構文もこれをきっかけに知れてよかった。
ところで、「Loving the Alien」の次のページにはLouise Grayによる「Detroit Techno」と題された論考がある。これも読んだ。当時「テクノ」と呼ばれていた音楽の全体像を軽く描いたのち、デトロイト・テクノの発展と高速化(ハードコア・テクノ)が突き当たる創造力の壁について書かれている。これ自体には何の問題もない。『ブラック・マシン・ミュージック』では、なぜかこの文章がMark Sinkerによるもの、つまり「Loving the Alien」の一部だと捉えられていた。うーん。まあ、別に気にする必要のない些細な瑕疵なのかもしれないY。
Occulted Death Stance『Feathered Serpent』 YouTubeレコメンドからとてつもないものが出てきた。空間を腐食させるノイジーなディストーション・ギター、ゾンビの如きボーカル、ブルータルデスの風味も備えた無骨なドラム、アンサンブルに埋もれない図太さを持つベース、チープさと壮大さを兼ね備えた謎のシンセ。並大抵の人間には辿り着けないであろう凄まじい禍々しさ。ノイズ音響とブラックメタルを土台にしながら、少々デスとジャンクを通る。これだけイカれていながら、各楽器のバランスはかなり丁度いい具合なのが逆に怖い。Mayhem『Live in Leipzig』よりも病み付きになるかも。中国のアングラレーベル・GoatowaRex、チェックしておこう。