2025年ベスト本

 

毎年恒例の。

 

去年はこちら。

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今年は現時点で過去最少の35冊。
でもいい本たくさんありました。
年末年始の参考にでも。

 

 

『生きる言葉』 俵万智
『マザーアウトロウ』 金原ひとみ
『アワヨンベは大丈夫』 伊藤亜和
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 三宅香帆
『夫婦間における愛の適温』 向坂くじら
『悲しみの秘儀』 若松英輔

 


①『生きる言葉』 俵万智(新潮社)

 

言葉と文章の奥深さと面白さを学べて、著者の真摯であたたかい目線での捉え方がとても素敵な作品。

 

”でも、繰り返すが、目印はないよりもあったほうが、ずっといい。説明できないことをわかったうえで、いくつかの目印を集めて、だいたいこんな感じなんですと伝える努力をすることがコミュニケーションだし表現ということなのだ。”

 

”賢い人とは「笑顔である事。幸せである事。正直である事。誇りを持つ事。」”
”「夜の街」に向けられる目は、厳しい。けれど夜の街という名前の街はない。曖昧な言葉でひとくくりにするとき、抜け落ちてしまう何か。そこを掬うのが文学の役目でもあるだろう。”

 

②『マザーアウトロウ』 金原ひとみ(U-NEXT)

 

思っていること・思っていたいことを言語化してくれると自分のための物語のように感じられる。180ページのほど良い長さ。

 

”じゃなんで産んだん?って。怪獣でも妖怪でもなんでも愛せますって自信あるやつ以外産むなよって。”

 

”でも子供とか繁殖とかのことを考えるなら、まずは自分をどのレイヤーで見つめたいか、を見極める必要があるんじゃないかしら。”

 

③『アワヨンベは大丈夫』 伊藤亜和(晶文社

 

“相変わらず私たちのあいだには、温かいセクハラとパワハラと差別が横行している”

 

認めてもらうつもりなんかハナからない、自分たちだけの不文律が許されている場所の居心地の良さにすごく共感した。
祖父とのエピソードも素敵だし、より周囲の人たちに対して愛おしさも湧いたけど、「陽だまりの季節」は特に素晴らしかった。
デビュー作よりさらに好き。

 

 

④『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 三宅香帆(集英社

 

時代の変遷を紐解きながら現代社会を知る面白さもあるけど、なによりもなぜ自分が本や読書を好きなのかということを言語化して改めて教えてくれた作品。

 

”大切なのは、他者の文脈をシャットアウトしないことだ。
仕事のノイズになるような知識を、あえて受け入れる。
仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。
それこそが、私たちが働きながら本を読む一歩なのではないだろうか。”

 

”自分から遠く離れた文脈に触れることーそれが読書なのである。”

 

⑤『夫婦間における愛の適温』 向坂くじら(百万年書房)

 

夫婦間の出来事や考え方の違いも興味深いけど、自身の考えで結論に到達する前の一度立ち止まった思考の巡らせ方がとても好き。

 

“誰かに愛によって行われたことが、自分にとっても本当にいいことである、そんな奇跡のようなことが、どこかで起きてくれないかなあと思うのだ”

 

⑥『悲しみの秘儀』 若松英輔文藝春秋

 

2025年のベスト。これから何度も読み返したい作品。
世界中の様々な形式の作品の掘り下げを通して、悲しみを読み解き、読者に寄り添ってくれる。著者の実体験を含めた文章にも圧倒される。
表紙の刺繍作品も含めて最高の一冊。

 

”また、文学とは、ガラスケースに飾られた書物の中にあるのではなく、個々の魂で起こる一度切りの経験の呼び名であることも想い出してよいのである。”

 

 

『今、ラジオ全盛期。』冨山雄一

『今、ラジオ全盛期』

著者:冨山雄一

出版社:クロスメディア・パブリッシング(インプレス

 

▶︎紹介

なぜラジオのイベントは東京ドームを満員にできるのか? 

タイパが重視される時代に、ラジオは「リスナーとの関係性を、長期間かけてじっくりと耕す」というまったく逆の戦略で成功を収めています。どれくらい長期間かというと「ラジオは1クールが10年」という言葉もあるほど。じっくりと耕すことで、推し活のファンダムのような熱狂とは異なる、ラジオならではの「静かな熱狂」が生まれるのです。

本書は、オールナイトニッポンがV字回復するまでの20年間を紐解きながら、「静かな熱狂」を生むコンテンツづくりに必要な考え方をご紹介します。

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▶︎感想

好きなモノの歴史を知れることは楽しいし、表側の人物からだけではなく、それを支える側(今となっては関係性は違うかもしれないけど)からの視点で紐解かれる物語は新鮮だった。

 

自分が聴き始める前の、伝説として聞いていたエピソードの舞台裏なんてたまらない。

「静かな熱狂」の渦中の熱さと、それが偶然ではなく必然として生まれるまでのプロセス、どちらも楽しめる。

 

ラジオに関わる人たちって、「好きなことを仕事にしている」最たる例なんじゃないか。

 

 

 

 

『あつあつを召し上がれ』小川糸

『あつあつを召し上がれ』

著者:小川糸

出版社:新潮社

 

▶︎紹介

うまい物を食うと、本当に子供みたいな顔になるね。
恋人との最後の食事、今は亡き母にならったみそ汁のつくり方……。ほろ苦くて温かな、忘れられない食卓をめぐる七つの物語。
この味を忘れることは、決してないだろう――。10年以上つきあった恋人との、能登へのお別れ旅行で味わった最高の朝食。幼い頃に、今は亡き母から伝授された、おいしいおみそ汁のつくり方。何年か前に家族みんなで並んでやっとありついた、天然氷でつくった富士山みたいなかき氷……。ときにはほろ苦く、ときには甘く優しく、身も心も温めてくれる、食卓をめぐる7つの感動の物語。

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▶︎感想

悲しさを伴ったあたたかさや清潔さみたいなイメージを著者に持っていたけれども、それだけには収まらない退廃的な美しさや色っぽさ、奇妙さみたいなものを感じることができて面白かった。

食べ物と調理の描写の細やかさは言わずもがな。

 

 

 

 

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『アワヨンベは大丈夫』伊藤亜和

『アワヨンベは大丈夫』

著者:伊藤亜和

出版社:晶文社

 

▶︎紹介

日本人で文学好きのママと、セネガル人のキレやすいパパの間に生まれた亜和と弟。おだやかな祖父と口うるさい祖母、そして海の向こうにいるまだ見ぬ姉など、いずれも個性的な家族たちが織りなす、愛と旅立ちの物語。

ジェーン・スー糸井重里など多くの文化人がその才能を認める文筆家の第二作は、晶文社スクラップブックで大評判だった連載に、note記事、書き下ろしを加えた、せつなくも愛おしいエッセイ集。装画・我喜屋位瑳務、装丁・名久井直子

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▶︎感想

個人的に前作を超える面白さだった。

様々な媒体を通じて著者のことを多少なりとも知ったこともあるけれども、内容が前作よりも自分の近くに感じることができた。

特に大学友人たちのことを綴った「ごきげんよう」にある、

“相変わらず私たちのあいだには、温かいセクハラとパワハラと差別が横行している”

という、認めてもらうつもりなんかハナからない不可侵領域みたいな場所の居心地の良さはすごく共感した。

祖父とのエピソードも素敵だし、より周囲の人たちに愛おしさも湧いたけど、「陽だまりの季節」は特に素晴らしかった。

まとめていたらまた読みたくなってきた。

 

 

 

 

 

『ある行旅死亡人の物語』武田惇志 伊藤亜衣

『ある行旅死亡人の物語』

著者:武田惇志 伊藤亜衣

出版社:毎日新聞出版

 

▶︎紹介

はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ――。

「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。ウェブ配信後たちまち1200万PVを獲得した話題の記事がついに書籍化!

2020年4月。兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死した。現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑鑑......。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、身元調査に乗り出す。舞台は尼崎から広島へ。たどり着いた地で記者たちが見つけた「千津子さん」の真実とは?

行旅死亡人」が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。

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▶︎感想

以前の部署で聞き馴染みはあった「行旅人」。

ひとつの官報から繋がっていく事実は徐々に壮大なドラマの予感を高めていく。
 
当たり前だけど決して作られた物語ではないのでわかりやすい着地があるわけではなく。それでもそこに至るまでに出会う人たちとの会話や想いがとてもいい。
 
日々流れ見過ごされていく些細なことのように扱われることから広げ深めていく記者たちの根気と熱意には驚きだった。
 
あとがきの、“人はいつか”ではなく、“私はいつか”必ず死ぬのである。という言葉が印象的。

 

 

 

 

 

『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤彩

『母という呪縛 娘という牢獄』

著者:齊藤彩

出版社:講談社

 

▶︎紹介

母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。

 

公判を取材しつづけた女性記者が、拘置所のあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の往復書簡を交わすことによって紡ぎだす真実の物語。

 

獄中であかりは、長年別居していた父の手厚いサポートを受け、多くの「母」や同囚との対話を重ねた。そのことが、あかりに多くの気づきをもたらした。

 

一審で無表情のまま尋問を受けたあかりは、二審の被告人尋問で、こらえきれず大粒の涙をこぼした――。

 

気鋭の女性記者が、殺人事件の背景にある母娘の相克に迫った第一級のノンフィクション。

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▶︎感想

以前からずっと気になっていた作品。

 

二人が積み上げてきた9年以上もの歳月の、背筋が凍る恐ろしさ。

 

読み進めて娘の月日を追体験すると、たまに「母親に正当性があるのでは?」という洗脳のような錯覚に陥りそうになる。

 

率直な感想として、娘が最後に至った感情にはどうしても想像できない部分がある。母が絶対的な悪ではなく、それまで経験しなかった周囲からの理解や救いによって想いが変わっていく過程は、当たり前だけど当人にしかわからない。無感情な攻撃よりも愛憎入り混じった罰が良くも悪くも相手を苦しめてしまうのか。

 

物語的なバッドエンド・グッドエンドではない、紛れもないひとつの親子の現実。

 

『傷を愛せるか』宮地尚子

『傷を愛せるか 増補新版』

著者:宮地尚子

出版社:筑摩書房

 

▶︎紹介

たとえ癒しがたい哀しみを抱えていても、傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷の周りをそっとなぞること。過去の傷から逃れられないとしても、好奇の目からは隠し、それでも恥じずに、傷とともにその後を生きつづけること―。

 

ケアとは何か? エンパワメントとは何か?

バリ島の寺院で、ブエノスアイレスの郊外で、冬の金沢で。旅のなかで思索をめぐらせた、トラウマ研究の第一人者による深く沁みとおるエッセイ。


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▶︎感想

年明けに行った高円寺の「蟹ブックス」で購入。

 

幸か不幸か自分自身の傷をそこまで認識したことがないからか、とても響いたわけではないれど、専門家の方がこんな風に読み手に誠実に向き合って綴ってくる文章は面白い。

 

自分自身の傷はたいしたものがないかもしれないけれど、他者に対しては冗談や気付かぬふりをして傷つけてはいないだろうか。

 

引用されていた『おしゃべり階段』の、

“あの幼い日に悩んだ重さは その内容はちがっても 今悩んでる重さとほとんどちがわないはずなの”

が心に残っている。