「すごいぞ腸内細菌」のブログ

管理栄養士と学術博士の資格を持ち、日々腸内細菌の研究をしています。腸内細菌に関することを書いています

体内時計と腸内細菌


1日は24時間ですが、ヒトの体内時計は24時間よりも少し長いと言われています。太陽の光を受けることでその差を補正しています。

ヒトの体内時計を約24時間に形成しているのが体内にある時計遺伝子です。朝の太陽の光を受けると脳の時計遺伝子が調節を行い、朝食を食べたり、午前中に運動をすると臓器にある時計遺伝子が調節を行うと言われています。

 

体内時計は腸内細菌にも関係しています。

 

通常のマウスは、朝と夜では異なる腸内細菌叢をしています。餌を食べたり運動する時間と寝ている時間とでは腸内細菌は異なっているのです。一方で、時計遺伝子を持たないマウスでは、通常のマウスでは見られた腸内細菌叢の変化が見られなくなり多様性も低下しました。さらにこのマウスは高脂肪餌を食べると通常マウスより顕著な肥満を呈するようになり、このマウスの糞便を健康なマウスに移植したところ、同様に肥満になりました。(↓論文リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

 

ヒトにおいても、8~10 時間の時差がある国の間を移動した2名について、「フライト1日前」「フライト1日後」「フライト2週間後」の3回にわたって腸内細菌叢を調べた研究があります。2名どちらにおいても、「フライト1日前」よりも「フライト1日後」で、肥満者において増加すると言われているFirmicutesが増加していました。また、そのヒト糞便を無菌マウスに移植すると、「フライト1日前」「フライト2週間後」の糞便を移植されたマウスと比較して、「フライト1日後」の糞便を移植されたマウスの方が体重増加が確認されました。(↓論文リンク)

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(14)01236-7?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867414012367%3Fshowall%3Dtrues

 

朝起きたらしっかり太陽をあびて、朝食を食べることで腸内細菌は整い、ダイエットにも効果があるかもしれません。

 

ビフィズス菌の種類

ビフィズス菌は「お腹の調子を整える菌」と良いイメージをもっている人も多いと思います。実際にスーパーで売られているヨーグルトにもビフィズス菌が配合されているものを多く目にします。

しかしひとくちに「ビフィズス菌」といっても菌種だけで50種類以上見つかっており、ヒトの大腸に住むビフィズス菌だけでも10種類ほどあると言われています。今日はビフィズス菌の種類のお話です。

 

赤ちゃんのビフィズス菌

赤ちゃんの腸内細菌の最優勢はビフィズス菌ですが、このビフィズス菌と大人の腸内細菌のビフィズス菌は違う菌種が棲んでいます。赤ちゃんはお母さんの母乳や粉ミルクを飲んで成長していきます。そのため、母乳や粉ミルクに含まれるヒトミルクオリゴ糖を餌として利用することができるビフィズス菌が腸内細菌として占めるようになります。具体的には、Bifidobacterium bifidumやBifidobacterium breve、Bifidobacterium longumなどです。これらのビフィズス菌は母乳に含まれる。市販のヨーグルトに含まれるビフィズス菌もこれらの菌が多いです。

 

大人のビフィズス菌

大人の腸内細菌に占めるビフィズス菌はおよそ10%程度です。具体的にはBifidobacterium longumやBifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium pseudocatenulatumなどがあります。これらのビフィズス菌の多くはヒトミルクオリゴ糖を餌として利用することができません。

 

ヒトの腸管に住まないビフィズス菌

ヒト以外の動物や昆虫などの腸内に棲むビフィズス菌であり、Bifidobacterium animalisやBifidobacterium thermophilumなどがあります。

 

興味深いことに、これらの菌種やさらに細かい種類の菌株の違いにより、増殖や代謝に好む食品や環境が異なります。同じヨーグルトを食べても腸内のビフィズス菌が増える人と増えない人がいる理由の一つと言えます。

ビフィズス菌が入っているヨーグルトだからなんでもいいや!」では少しもったいないかもしれません。自分のお腹にあったビフィズス菌が増えるといいですね。

 

クリステンセネラ(Christensenella)について


糖を分解して酪酸を産生する酪酸産生菌の一種です。いわゆる「やせ菌」として注目されています。

 

Mazierらの研究では、肥満マウスにクリステンセネラ ミヌタ(C.minuta)を摂取させることで脂質代謝が改善され体重増加が抑制されたと報告しています。(↓論文リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

 

Goodrichらの研究では、このCristensenallaceaeは肥満者(BMI≧30)に比べてBMIが18.5~24.9の正常者において多く見つかったと報告しています。(↓論文リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

 

C.minutaには、強い抗炎症作用と強力な免疫調節があることがin vitroやin vivoで分かっています。そのため、C.minutaが結腸の損傷を軽減し、粘膜治癒を促進することで腸の炎症を軽くする可能性があります。実際にマウスの試験では、C.minutaを投与することでクローン病の発症を予防することを報告しています。(↓論文リンク)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

この菌は2012年に日本人の男性の糞便から発見されたため、研究もまだまだこれからだとは思いますが、今後期待したい菌の一つです。

ポストバイオティクスについて

プロバイオティクスやプレバイオティクスはなじみのある言葉になってきていますが、近年ではポストバイオティクスが注目されています。

 

ポストバイオティクスは「宿主に健康上の利益をもたらす不活性化された微生物および/またはその成分の製剤」と定義されています。

加熱殺菌された微生物自体や、微生物が産生した代謝物(菌体成分、酵素、短鎖脂肪酸など)を示します。

 



ポストバイオティクスの例

加熱殺菌乳酸菌菌体

腸管にあるパイエル板に取り込まれることで免疫活性を誘導します。

特に死菌または不活性化されたプロバイオティクスのことを「パラプロバイオティクス(Paraprobiotics)」とも言われています。

 

クオール

大豆製品に含まれるイソフラボンであるダイゼインが腸内細菌による代謝を受けることで「エクオール」という物質ができます。これもポストバイオティクスの一つです。エクオールは女性ホルモンであるエストロゲンに似た働きがあるため、更年期症状の緩和に役立つと言われています。

 

HYA(10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid)

リノール酸が腸内細菌によって代謝を受けることでできる物質です。腸炎の抑制や食後の血糖値上昇を抑える、内臓脂肪を減らすといった効果が報告されています。

 

特に殺菌菌体は、食品加工中の殺菌を気にせずに摂取できるため多くの商品に使用されています。腸活というと、自分のお腹の菌を育てるイメージですが、ポストバイオティクスのようにすでに菌が作った成分や菌自体にも効果があるので、気になる方はお試してみてください。

 

コリンセラ(Collinsella)属について

コリンセラは日本人の腸内で多く存在している放線菌です。放線菌は、細菌でありながらも菌糸を放射線状に伸ばしてカビ(糸状菌)と非常によく似た性質を持ちます。

 名古屋大学の研究グループは、10ヵ国の953人の健常者の腸内細菌叢データを解析し、新型コロナの感染との関係を調べています。その結果、腸内のコリンセラ属の比率が低い人ほど、新型コロナの死亡率が高いことを報告しています。コリンセラ属は、肝臓で作られて腸内に放出される一次胆汁酸を二次胆汁酸に変換することが知られている。この二次胆汁酸は、新型コロナウイルスが感染する際の受容体であるACE2への結合を防ぐと考えられています。

アジア人が新型コロナウイルスによる死亡者が少ない原因として言われていた「ファクターX」が、もしかしたらこの腸内のコリンセラ属なのかもしれません。(↓論文リンク)

 

 journals.plos.org

 

一方で、月経前症候群PMS)の人と対照の人の腸内細菌の占有率の平均値を比較した結果、ビフィドバクテリウム、ブラウティア、コリンセラの占有率がPMS群で有意に高いことが分かりました。特に、PMS群では対照群に比べてコリンセラの占有率が顕著に高く、その差は約4.5倍でした。これらの菌はいずれも糖を分解することができる善玉菌として知られる菌です。PMSの精神的な症状を悪化させる原因の一つには、腸内細菌が糖を分解することによる血糖値の急激な変化があるのではないかと考えられてます。(↓論文リンク)

 

 www.dovepress.com

 

 

善玉菌といえども、時には悪い影響も与える可能性があることがここ最近の考え方です。腸内細菌はいろんな菌の集合体であるため、お互いが影響を及ぼし合っていると考えられます。まだまだ研究途中の腸内細菌の分野、今後の研究でより機能がわかってくる菌の一つと言えます。

ビロフィラ(Bilophila)属について

短鎖脂肪酸を産生する菌ばかりを紹介していたので、今回は、体にあまり良い影響を及ぼさない(有害)菌について紹介します。

 

ビロフィラ属は、便秘の人に多く存在している菌です。

動物試験および臨床試験において自閉スペクトラム症ASD)では健常人に比べて腸内細菌が変化していることが報告されていますが、その中にビロフィラ属の増加も含まれます。ASDの患者さんは便秘の方が多いそうなので、そういったことも関係しているのかもしれません。(↓論文リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

 

ビロフィラ・ワーズワーシア(Bilophila wadsworthia)硫化水素を産生する菌で、この硫化水素が大腸がんに関連していると言われています。(↓論文リンク)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

スウェーデンの研究チームは、マウスにラード(動物油)食を与えたグループと魚油食を与えたグループに分けて腸内細菌を調べています。

魚油食を摂取したグループでは、アッカーマンシア・ムシニフィラとラクトバシラス属の細菌が増加した一方、ラード食を摂取したグループでは、アッカーマンシア・ムシニフィラとラクトバシラス属の細菌が減り、ビロフィラ属の細菌が増えました。

さらに、ラード食を与えたマウスに、魚油食で飼育したマウスの糞便を移植したところ、魚油食マウスの糞便を移植されたマウスでは、アッカーマンシア・ムシニフィラが増加し、炎症のレベルが低下していました。(↓論文リンク)

www.cell.com

 

この菌は食事による影響を受けやすそうなので、魚や食物繊維を摂ることを意識するといいかもしれません。

 

コプロコッカス(Coprococcus)属について

コプロコッカス属は、短鎖脂肪酸のうちの一つ、酪酸を産生する能力を持つ善玉菌です。

 

2022年には、ヨーロッパの参加者を対象とした研究により、コプロコッカス属を含む13種類の腸内細菌がうつ病と関連していたことが報告されており、うつ病患者ではその酪酸産生菌が減少していたことが示されています。(↓論文リンク)

www.nature.com

 

 日本人を対象とした2023年の研究においても、コプロコッカス属をはじめとする酪酸産生菌がうつ病患者で少なくなることが報告され、腸内フローラが酪酸産生を介して宿主のうつ状態に影響を与える可能性があると報告されました。(↓論文リンク)

www.mdpi.com

 

 アメリカの研究では、腸内にこのコプロコッカス属の菌を多くもっている人は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが働きやすくなる傾向があるとのことです。(↓論文リンク)

diabetesjournals.org

 

妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症の妊婦さんは、健常な妊婦さんと比較して、コプロコッカス属が少なく、血中の酪酸濃度が低いことも報告されています。(↓論文リンク)

www.mdpi.com

 

コプロコッカス属はお肉を多く食べる人よりも菜食主義者に多く存在するといわれています。他の短鎖脂肪酸産生菌も、食物繊維や野菜を食べることで増えることが多いため、普段から意識して摂取するといいかもしれません。