「ワークライフバランス」に疲れたら。仕事と生活を分けない「ワークライフインテグレーション」入門

ワークライフインテグレーションを実践するビジネスマン

休日は仕事をしない主義……。でも「月曜の会議」や「返信していないメール」が頭をよぎり、出勤を考えるだけで気が重くなる——。
そんなふうに、オンとオフを切り替えること自体がストレスになっていませんか?

もしかすると、「ワークライフバランス」という考え方そのものが、現代の働き方に合わなくなっているのかもしれません。かつては「仕事」と「生活」をきっちり分け、天秤にかけることが理想とされてきました。

しかし、リモートワークやハイブリッド勤務が当たり前になったいま、その境界線はどんどん曖昧になっています。働き方改革が進み、柔軟な働き方が広がるなかで、「分ける」こと自体が難しくなってきたのです。

そこでいま注目されているのが、仕事と生活を「分ける」のではなく「つなげる」考え方——「ワークライフ・インテグレーション」です。

これは単純に言えば、仕事と私生活を「別々のもの」と考えるのをやめて、「どっちも自分の時間」として流れでとらえる働き方のこと。

臨床心理学の複数の研究をまとめたレビュー論文でも、自分なりのやり方で柔軟に動ける人ほど、心身の調子も仕事の成果もいいことが報告されています。*1
つまり、無理にオンオフを切り替えるより、自分に合ったリズムで一日を組み立てるほうが、楽だし成果も出やすいのです。

この記事では、そのための3つの習慣を紹介します。どれも「体力」「やる気」「人とのつながり」を、仕事と生活の間でうまく回すという考え方がベースです。

ワークライフインテグレーションとは?「つなげる」働き方がうまくいく理由

「仕事が終わったら、すぐ頭を切り替えよう」
「休日は仕事のことを考えないようにしよう」

——そう思えば思うほど、かえって仕事が頭から離れない。心理学者ダニエル・ウェグナーが提唱した「シロクマのパラドックス」という現象です。「考えるな」と言われると、逆にそのことばかり考えてしまう。*2

しかも、「仕事モード」と「オフモード」を毎回きっちり切り替えようとすると、脳は毎回パソコンの再起動のようなコストを払います。ミネソタ大学の研究者ソフィー・ルロワの実験では、頻繁に切り替えると前のタスクが頭に残り続けて、次の作業に集中しにくくなることが示されています。*3

つまり、オンオフをきっちり分けようとするほど、疲れるんです。

一方、ワークライフ・インテグレーションは「オン/オフ」ではなく「流れ」で一日をとらえる発想。仕事も生活も、どっちも自分の時間——そう考えるだけで、切り替えのストレスから解放されます。

では、具体的にどうすればいいのか。3つの習慣を紹介します。

仕事と生活をつなげるワークライフインテグレーションのイメージ

習慣① 疲れる前に休む

多くの人が、「仕事=消耗する時間」と思っています。朝から晩まで集中力を振り絞り、家に帰る頃にはヘトヘト。週末に寝だめして、なんとか月曜を迎える——。

でもそれでは、疲労を貯めているだけ。必要なのは「止まる」ことではなく、「流れの中で回復する」ことです。

ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文では、パフォーマンスは「働いた時間」ではなく「エネルギーの質」で決まると指摘されています。*4
8時間ぶっ通しで頑張るより、こまめに回復しながら働くほうが、結果的に生産性は上がる。

 

💡どれくらい休めばいい?

メルボルン大学の実験では、たった40秒窓の外の緑を眺めるだけでも集中力が回復することが確認されています。*5 また、19本の研究をまとめたメタ分析でも、10分未満の短い休憩を何度か挟むと活力が上がり疲労が減ると報告されています。*6
「休憩=長時間」である必要はありません。

ポイントは、「疲れたから休む」ではなく「疲れる前に休む」こと。

✍️ 筆者も試してみた
1週間、「90分作業したら5分休む」を徹底してみた。最初は「まだ集中できるのに」と中断するのが惜しかったが、3日目あたりから変化を感じ始めた。以前は18時を過ぎると頭が回らず、退勤後はソファで動画を流し見するだけだった。それが、20時過ぎても本を読む気力が残っている。積読していた本を1週間で1冊読み切れた。先月は1冊も読めなかったので、これだけでも大きな変化だ。「まだ元気なうちに休む」が、結果的に1日の総エネルギーを増やしている実感がある。

たとえば、こんな小さなことから。

 
  • 90分作業したら、5分だけ立ち上がってストレッチ
  • 午前と午後に1回ずつ、コーヒーを淹れに行く
  • トイレに立ったついでに、窓の外を30秒眺める

こうした「小さなリセット」を一日の流れに混ぜておくと、集中力が途切れにくくなり、結果として成果が出やすくなります。

マイクロブレイクでコーヒーを飲む様子

習慣② プライベートの刺激を仕事に持ち込む

「仕事が忙しいから、趣味は後回し」「資格の勉強をしたいけど、平日は時間がない」——そんなふうに、仕事とプライベートを「取り合い」にしていませんか?

この発想が、やる気を下げる原因です。

✍️ 筆者も試してみた
週末に読んだ本のネタを、月曜の定例会議で意識的に話すようにしてみた。最初は「仕事と関係ない話をしていいのか」と躊躇したが、2週目に転機が来た。たまたま読んでいた行動経済学の本から「選択肢が多すぎると人は選べなくなる」という話を紹介したところ、企画中だったアンケートの設問数を減らす提案につながった。上司から「その視点はなかった」と言われたのは素直に嬉しかった。趣味の読書が「仕事の役に立った」ではなく、「仕事が趣味を正当化してくれた」感覚。この循環が回り始めると、週末の読書にも妙な充実感が出てくる。

心理学者デシとライアンが提唱した「自己決定理論」によれば、人のやる気は「自分で決めている感覚」「うまくできている感覚」「誰かとつながっている感覚」の3つで支えられています。*7
そしてこの3つは、仕事だけで満たされるものではありません。プライベートが充実しているからこそ、仕事にもエネルギーが湧くのです。

 

💡企業の例

サイボウズは「100人100通りのマッチング」を掲げ、働く時間や場所を個人の希望とチームの事情をすり合わせて決めています。*8
制度として整っている会社は限られますが、個人でもできることはあります。趣味や家族との時間で得た発見を、意識的に仕事へ持ち込むこと。週末に読んだ本のアイデアが、月曜の企画のヒントになることは珍しくありません。

こんな「小さな循環」から始めてみてください。

 
  • 趣味で見つけたネタを、翌週の会議で話してみる
  • 家族に「今日仕事でうれしかったこと」を話す
  • 通勤中に、興味のあるポッドキャストを聴く

ポイントは、「やる気をどこで使うか」ではなく「どう回すか」。仕事とプライベートを敵同士にせず、お互いに刺激し合う関係にすると、やる気が長続きします。

柔軟な働き方を実現するリモートワークでのオンラインミーティング

習慣③ 「話せる相手」を増やす

ワークライフ・インテグレーションの本質は、「一人で抱え込まない働き方」です。
職場の同僚も、家族や友人も、お互いに支え合うネットワークの一部。

公衆衛生学の研究では、人とのつながりが豊かな人ほど、ストレスからの回復が早く、幸福度も仕事の成果も高いことが繰り返し報告されています。*9

 

💡企業の例

ミクシィでは「マーブルワークスタイル」という制度で、オフィス・在宅・サテライトを自由に組み合わせて働けます。*10
この柔軟さが、部署を越えた雑談や社内外の関係づくりにつながっているそうです。

個人としてできることは、仕事でも家庭でも「ちょっと話せる相手」を意識的につくること。愚痴を言い合える同僚、今日あったことを聞いてくれる家族——そういう存在が、ストレスを和らげ、やる気を支えてくれます。

✍️ 筆者も試してみた
「1日1回、誰かにありがとうを言う」を2週間続けてみた。カウントしてみると、意識する前は週に2〜3回程度だったのが、週10回以上に増えた。意外だったのは、言われた相手より自分の気分が上がること。「ありがとう」を言うために相手の行動を観察するようになり、「あ、この人こういうところ気を遣ってくれてたんだ」と気づく場面が増えた。2週間で、ランチに2回誘われたのは偶然かもしれないが、少なくとも「話しかけやすい人」にはなれた気がする。

今日から始められる、小さな一歩。

 
  • 1日1回、誰かに「ありがとう」を言う
  • ミーティングの前後に、2〜3分だけ雑談する
  • 家族と「今日あったいいこと」を言い合う

こうした小さなやりとりが、仕事と生活をゆるやかにつなぎ、自分を支えてくれる「人の流れ」をつくります。

ワークライフインテグレーションを実践する3つの視点

ワークライフバランスは、仕事と生活を「別物」として天秤にかける発想でした。
でも、リモートやハイブリッドが当たり前になったいま、その境界はどんどん曖昧です。

だからこそ、これからは「切り離す」のではなく「つなげる」働き方。

この記事で紹介した3つの習慣は、どれも「体力」「やる気」「人とのつながり」を、仕事と生活の間でうまく回すという考え方でつながっています。

1. 疲れる前に休む
→ 体力を「消耗→回復」のリズムで回して、集中力をキープ

2. プライベートの刺激を仕事に持ち込む
→ やる気を仕事と私生活の間で循環させる

3. 「話せる相手」を増やす
→ 職場でも家庭でも、支え合える関係をつくる

どれも特別なスキルや時間はいりません。大事なのは「意識」ではなく「習慣」。
仕事も生活も「自分の時間」としてデザインすれば、疲れにくく、成果も出やすい働き方が手に入ります。

まずは今日、ひとつだけ試してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. ワークライフバランスとワークライフインテグレーションの違いは?

ワークライフバランスは仕事と生活を「分けて」天秤にかける考え方。一方、ワークライフインテグレーションは両者を「つなげて」、自分の価値観を軸に一日の流れとしてデザインする考え方です。リモートワークが普及し、境界が曖昧になった現代では、後者のほうが実態に合っていると言われています。

Q. ワークライフインテグレーションのデメリットや注意点は?

「つなげる」ことで、かえって仕事が私生活に侵食してしまうリスクがあります。大切なのは「境界をなくす」ことではなく、「自分でコントロールできる状態をつくる」こと。たとえば「22時以降はSlackを見ない」など、自分なりのルールを決めておくと安心です。

Q. ワークライフインテグレーションに向いている人は?

裁量の大きい仕事をしている人、リモートワーク中心の人、仕事と趣味の境界が曖昧なクリエイティブ職の人などは取り入れやすいでしょう。逆に、勤務時間が厳密に決まっている職種では、まずはマイクロブレイクなど「習慣①」から始めるのがおすすめです。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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