「失敗できる環境」が人を伸ばす。ゲームが育てる “成長マインドセット”

星先生

医療や航空業界など、「失敗が許されない仕事」を中心に広まっているのが、「シリアス・ゲーム」というものです。シリアス・ゲームとは、フライトシミュレーターなど主に従業員育成を図るようなゲームを指します。スタンフォード・オンラインハイスクール校長を務める星友啓先生は、「ゲームのなかでは失敗できる」という側面が、これからのビジネスパーソンにとって有効に働くと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
星友啓(ほし・ともひろ)
1977年12月28日生まれ、東京都出身。スタンフォード・オンラインハイスクール校長。哲学博士。2001年、東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。2002年より渡米、2003年、テキサスA&M大学哲学修士修了。2008年、スタンフォード大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクール・スタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、日本、米国、アジアに向けて、学校や教育スタートアップの支援やコンサルティングにも取り組む。慶應義塾大学や横浜市立大学では経営や教育に関する研究活動も行う。『13歳からの哲学的思考』(ソシム)、『脳を活かす英会話』(朝日新聞出版)、『脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)、『全米トップ校が親に教える57のこと』(SBクリエイティブ)など著書多数。

急速に広まりつつある「シリアス・ゲーム」

近年、とくに専門職を中心として、ビジネスの現場で「シリアス・ゲーム」の活用が広まっています。ゲームといえば、その主な目的はもともとエンターテインメントです。でも、ゲームのもついい側面に注目し、エンターテインメントではなく教育やビジネス、医療、防災など、社会的な課題解決や学習を目的としたゲームが、シリアス・ゲームと呼ばれるのです。

それ以前は、「ゲーミフィケーション」というものが注目されていました。ゲーミフィケーションとは、楽しさや没入感といったゲームのエッセンスを教育や仕事に取り入れることで、学習者や従業員のモチベーション、エンゲージメント(参加意欲)などを高めるというものです。

例を挙げましょう。小学生だった頃、わたしの担任の先生は、いま思えばまさにゲーミフィケーションを実践していました。漢字練習をするたびに「漢字券」がもらえて、一定のポイントが貯まると週末に先生の家に行って遊べるというシステムです。これがすごく楽しくて、クラスのみんなが躍起になって漢字練習に取り組んでいたことを覚えています。

ただ、最近のトレンドはシリアス・ゲームです。教育や仕事にゲームのエッセンスを取り入れるのではなく、ゲームそのもので教育や仕事の目的を達成しようというものです。医師の場合ならVRを用いた手術トレーニングゲームもありますし、よく知られるものだと、航空機のパイロット育成のためのフライトシミュレーターが代表格でしょう。

コックピット

ゲームでトレーニングをして現実世界の失敗を防ぐ

ほかに例を挙げれば、世界各国にホテルビジネスを展開しているマリオットもシリアス・ゲームを活用しています。ゲーム内の空間でレストランチームを管理するマネージャーのトレーニングをしたり、あるいは客からのクレーム処理をしたりするような内容です。

みなさんのなかにも経験がある人は多いと思いますが、「事実は小説より奇なり」という言葉どおり、客からのクレームのなかには「本当にそんなことある?」と思えるようなものも少なくありません。

そうしたクレームにいきなり直面してしまうと、その場で適切に対処するのは簡単ではないでしょう。そこで、実際にあったクレームをもとにつくられたゲームとして体験することで、厄介なクレームにも迅速丁寧に対応できるようトレーニングを重ねるのです。こうした取り組みは業界を問わず急速に広まっていますから、みなさんのなかにもすでにシリアス・ゲームを経験している人がいるかもしれません。

そして、それらシリアス・ゲームについては、「失敗できる」という点が重要なポイントです。クレーム処理に多少の時間がかかったくらいならまだしも、現実に医師が手術に失敗したり、パイロットが事故を起こしたりすれば大問題です。でも、ゲームのなかであれば失敗しても問題はありません。

外科手術

いま「成長マインドセット」が求められるわけ

さらに、このことが「成長マインドセット」を育むことにもつながります。成長マインドセットは、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・S・ドゥエックの著書『マインドセット 「やればできる!」の研究』(草思社)で広く知られたコンセプトで、「『自分の知性や能力が成長する』と考える心構え」を意味します。簡単にいえば、「たとえ失敗しても努力すればできるようになる」という意識です。

とはいっても、先の医師やパイロットの例ではありませんが、現実世界で何度も失敗するわけにはいきませんし、実際に失敗を続けると精神的に大きなダメージを負うことにもなりかねません。そこで、ゲームのなかで失敗し、そこから立ち上がって努力を重ねるという経験が大いに役立つのです。

シリアス・ゲームに限らず、多くのゲームは、少しずつ難易度を上げていき、プレーヤーのレベルに合わせたちょうどいいチャレンジを与えるようにデザインされています。すると、そのなかで、試行錯誤を繰り返しながら失敗を乗り越えて成功に至ることができます。そうした体験が、成長マインドセットの育成につながると最近の研究で示されたのです。

成長マインドセットは、専門職だけでなくいまの社会人にとくに重要なものであると考えます。終身雇用という形態が崩れ、転職があたりまえの時代となりました。そんな時代背景を考慮すると、ビジネスパーソンはかつてより大きなリスクをとる必要に迫られています。

つまり、「安定」を確保しにくい時代なのですから、うまくいかないこと、失敗をすることもかつてよりはるかに増えているでしょう。そのような時代だからこそ、ゲームのなかで失敗から再び立ち上がって努力を継続する体験を重ね、成長マインドセットを育んでおくことが欠かせないのです。

星友啓先生

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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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