決められない人が損をする――将棋“秒読み”に学ぶ『10秒即断力』

丸く並ぶ将棋の駒

秋は将棋界にとって特別な季節です。

10月には絶対王者・藤井七冠から伊藤叡王が王座を奪取、六冠に後退させました。竜王戦では、藤井竜王が佐々木八段に4タテを食らわせて5連覇を達成。永世称号を獲得し、史上最年少で永世3冠というとんでもない快挙です。藤井聡太氏の活躍で将棋を見るようになった読者も多いのではないでしょうか。

その魅力のひとつが最終盤、秒読みになってからの激しい攻防です。ある棋士は秒読みになると心拍数が極度に上昇したり、「フルマラソンのあとに100メートル走を繰り返すようなもの」と評したりもするように、棋士たちは秒読みで極限の集中力を発揮します。

私たちの日常からは遠い世界に見えますが、この「秒読み」こそ、ビジネスパーソンが学ぶべき「即断力」の源泉です。

将棋の秒読みとビジネスの「即断力」

将棋を指す人

将棋の最終局面、持ち時間が切れると、棋士は1分以内に次の手を差さなければなりません。これが「秒読み」です。

「……40秒……50秒、1、2、3、4、5……」

この僅かな時間に最善の一手を決めなければならないのです。

これは私たちの職場でも同じです。上司とのやりとり、会議での発言。もしくは社外との交渉の現場でも、即座に最善の一手を決める「即断力」の有無が、その後の成果や信頼を大きく左右します。

◆即断力の効果

(1)ビジネスチャンスを逃さない
優柔不断は、好機をみすみす失わせます。投資判断や商談の現場で「いますぐ」と言われる瞬間は意外と多いものです。

(2)マイナス局面の悪化を防ぐ
炎上対応など危機管理はスピードが命。動きが遅れれば事態は悪化するだけです。

(3)信頼感につながる
「あの人は迷わず決める」と思われること自体が、評価と信頼を高めます。

加えて、心理学的なメリットもあります。

◆心理学的メリット

(1)判断疲れを防ぐ
小さな決断を素早く済ませることで認知コストを節約。脳のエネルギーを有効活用できます。

(2)自己肯定感が積み重なる
「決めた」「動いた」という体験が自信となり、自己効力感が強化されます。

(3)集中時間が最大化する
迷う時間を減らすことで、成果に直結する場面にリソースを集中できます。

「即断力」は鍛えられる

即断力は生まれつきの才能ではありません。棋士に及ばずとも、日常で鍛えられます。カギは「秒読みを生活に取り入れる」こと。*1 つまり「数字で区切る小さな訓練」です。

■ランチを30秒で決める

■メールの下書きを5分以内で作る

■会議で最初の10秒で発言する

このように「時間を区切る」だけで、日常の行動が即断力トレーニングに変わります。大切なのは「完璧」ではなく「まず動く」こと。繰り返すうちに判断が早くなり、自然と集中力も高まります。

脳科学と心理学が示す「時間制限の3効果」

時計と砂時計のイメージ

「時間制限がある」ことで人の脳は大きく変化します。研究によると、秒読みのようなプレッシャーは次の3つの効果を生みます。

 
(1)集中力が爆発的に高まる
制限時間があると、人は雑念を切り捨て「いまここ」に全集中します。これを「時間プレッシャー効果」と呼びます。*2

 

 
(2)バイアスの軽減と意思決定の最適化
時間制約下では情報のフレーミング効果が弱まり、その瞬間に最適な選択がしやすくなります。 *3

 

 
(3)創造的な決断を生み出す
自己決定権がある「チャレンジ型」の制約下では、むしろ革新的な発想が生まれることも分かっています。*4

心理学者ロイ・バウマイスターが「自己制御力は筋肉のようなもの」と説いたように、即断力も日々のトレーニングで強化できます。酷使すれば疲れる一方、適度な負荷を繰り返せば、確実に伸びるのです。*5 

即断の裏にある感情コントロール

笑顔の男性

さらに見逃せないのは、即断が「感情の制御」に直結している点です。
秒読み下で動揺すれば、凡ミスが命取りになるのは将棋もビジネスも同じ。

脳科学や心理学の研究によれば、時間制限は人の注意や探索行動を変化させることが分かっています。たとえば ある実験では、制限時間があると不確実性の探索が抑制され、意思決定がよりシンプルなパターンに収束する傾向が示されました。*6

つまり、迷いや不安に長くとらわれて思考が停滞する余地が減り、自然と「切り替えの早い」判断構造へ移行するのです。時間制限がプレッシャーとなりながらも、余計な逡巡を削ぎ落とすフィルターとして働くといえます。

この仕組みをビジネスに応用すれば、緊張する会議や即答を迫られる場面でも、感情に振り回されず論理的な一手を選びやすくなるでしょう。

「10秒で決める」習慣を今日から

秒読みは単なる勝負の演出ではありません。短時間で決断する経験は、集中力と感情制御を磨き、即断力を鍛える最高のシミュレーションです。

レジェンド・羽生善治九段は秒読みについて次のように述べています。

「長考してしまうと迷って怖くなって踏み込んでいけない時がよくあるのですが、秒読みだと怖がっている時間さえないのです」*6

秒読みの怖さとともに、その効能を十分に語り尽くしている言葉ではないでしょうか。

あなたも今日から「10秒で決める」習慣を取り入れてみませんか。その小さな実践が、ビジネスの成果を大きく変える一手になるはずです。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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