
納期前夜の追い込み、プレゼン資料の駆け込み作成、深夜まで続くメール対応。
「徹夜」や「睡眠を削っての仕事」は、多くのビジネスパーソンにとって身近な経験ではないでしょうか。
2012年、ペンシルベニア州立インディアナ大学が学生1,500人を対象に行った調査では、99%が「締め切り前に一夜漬けをした経験がある」と回答しました。
社会人においても、この傾向は変わらないでしょう。
むしろ、責任の重さや業務量の多さから、学生時代以上に睡眠を犠牲にしている方も少なくないはずです。
しかし、この「徹夜仕事」という習慣は、あなたの記憶力やパフォーマンス、そして心身の健康に深刻なダメージを与えています。
「徹夜仕事」がもたらす3つのダメージ
【ダメージその1】記憶が長続きしない
徹夜で詰め込んだ情報は、驚くほど早く記憶から消えていきます。
人間の長期記憶は、脳の奥深くにある海馬という部位に保存されます。
生理学者の久保田競氏によれば、睡眠を取らずに詰め込んだ情報は「ワーキングメモリー」として脳の表面(前頭葉大脳皮質)に一時保存されるだけ。
この領域に保存された情報は「忘れても困らないもの」と脳が判断するため、すぐに消去されてしまうのです。
つまり、徹夜で仕上げた企画書の内容も、急いでインプットした業界知識も、睡眠を取らなければ長期的な資産にはなりません。
その場しのぎの仕事は、キャリアの積み上げにつながらないのです。
【ダメージその2】仕事のパフォーマンスが低下する
睡眠不足は、翌日以降の仕事の質を確実に下げます。
2012年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校が行った調査では、睡眠不足がパフォーマンスの向上を妨げることが明らかになりました。
また、米国マカレスター・カレッジの心理学助教授Cari Gillen-O'Neel氏の2013年の論文でも、睡眠不足が理解力や成果物の質に悪影響を及ぼすことが示されています。
筑波大学の高木眞莉奈氏と林悠氏の研究によれば、記憶の定着にはレム睡眠とノンレム睡眠の両方が必要不可欠。
どれだけ働いても、適切な睡眠を取らなければ、学んだことは脳にストックされません。
徹夜明けの会議で頭が回らない、ミスが増える、判断力が鈍る——これらは、睡眠不足による認知機能の低下が原因です。
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【ダメージその3】睡眠不足が引き起こす心の病
一夜漬けをした翌日に眠くなってしまうことはよくあること。
しかしながら、睡眠不足が慢性的に続いてしまうと、体の不調に加えて、精神にも負担をかけてしまう場合があるのです。
アメリカのロチェスター大学メディカル研究チームが明かしたところによれば、慢性的な睡眠不足は、脳の神経細胞を破壊するβアミロイドという成分を分泌し、βアミロイドが一定数たまるとアルツハイマー病のリスクが上がってしまうのだそう。
さらに、睡眠不足はうつ病のリスクまでも高めてしまいかねません。
精神科医の森秀人氏は、慢性的な睡眠不足(4時間から6時間の睡眠を2週間)は、感情をコントロールする物質であるセロトニンの分泌に悪影響を及ぼし、感情の起伏を保つことができないうつ病の引き金となってしまうと述べています。
このように、毎日ほんの少し睡眠を削るだけでも、蓄積すると脳や心身にダメージが出てしまうのです。

徹夜を避けるための具体的な改善策
「とはいえ、業務量が多くて時間がない」という方も多いでしょう。
しかし、問題は時間の量ではなく、使い方にあるかもしれません。
限られた時間で効率よく成果を出す方法をご紹介します。
【方法その1】分散効果を活用する
「分散効果」とは、一夜漬けではなくコツコツ取り組むほうが、学習で得られる知識が長期化するという心理学の知見です。
たとえば、2時間の作業時間があるとき。
一気に2時間集中しようとするのではなく、25分の作業と5分の休憩を1セットとして繰り返してみてください。
理化学研究所の永雄総一氏の研究でも、適度な休憩を挟むことで記憶が長期化することが確認されています。
資格取得のための学習、新しいスキルの習得、業界知識のインプット。
いずれも「毎日少しずつ」が、「締め切り前の追い込み」より確実に身につきます。
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【方法その2】7回繰り返し読み勉強法
7回繰り返し読み勉強法は、東大法学部を首席で卒業し、現在は弁護士として活躍する山口真由氏が著書『東大首席弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術』の中で紹介した方法です。
端的にまとめると、学びたい領域の教科書や参考書を7回読むだけの勉強法です。

同氏によれば、1〜3回目に見出しから推測する「流し読み」をし、4、5回目に内容をつかむ「黙読」をし、6、7回目に「要約」しながら読むと、テキストの理解度が向上するとのこと。
ポイントは、同じ資料に複数回触れること。
1回で完璧に覚えようとするのではなく、段階的に理解を深めていくのです。
通勤時間の10分、昼休みの15分——こうした隙間時間を活用すれば、徹夜で詰め込む必要はなくなります。
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毎日少しずつ、計画的に取り組む習慣を身につければ、得た知識やスキルは長期的なキャリアの資産となります。
睡眠を削る働き方から、睡眠を味方につける働き方へ。
今日から、その一歩を踏み出してみませんか。
FAQ(よくある質問)
Q1. どうしても締め切り前に時間が取れない場合、一夜漬けは完全に避けるべきですか?
A. 理想は避けることですが、現実的に難しい局面もあります。
その場合は「徹夜しない一夜漬け」に切り替えてください。深夜まで作業しても、最低でも3〜4時間は眠ることで、記憶の定着と翌日の判断力低下を最小限に抑えられます。
Q2. 「7回繰り返し読み勉強法」は、どんな教材でも効果がありますか?
A. 効果はありますが、特に向いているのは構造がはっきりした教材です。
資格テキスト、業界本、報告書のように章立てや見出しがあるものほど、流し読みから要約までの段階を回しやすく、理解が深まります。
Q3. 7回も読む時間がありません。回数を減らしても意味はありますか?
A. あります。
重要なのは回数そのものではなく、同じ情報に時間を空けて何度も触れることです。たとえば流し読み数回でも、短期記憶で終わらせずに長期記憶へ移す助けになります。
Q4. 分散効果を活かすなら、どれくらいの学習時間が適切ですか?
A. 1回10〜30分程度が目安です。
長時間を一気にやるより、短時間を複数回に分けたほうが脳は情報を重要だと判断しやすく、定着につながります。通勤の10分や昼休みの15分でも十分に成立します。
Q5. 記憶を定着させるために、睡眠は最低何時間必要ですか?
A. 個人差はありますが、最低でも6時間、できれば7時間前後が目安です。
記憶の整理と固定には睡眠中の複数のプロセスが関わるため、睡眠時間が短い状態が続くと、学びが「その場しのぎ」で終わりやすくなります。
Q6. 仕事が忙しくても徹夜を避けるために、最初に変えるべきことは何ですか?
A. 最初に変えるべきは「最初から完璧を目指す」姿勢です。
完璧を狙うほど着手が遅れ、最後に徹夜で帳尻を合わせる流れになりがちです。最初は粗く全体をつかみ、回数や工程を重ねて精度を上げる設計に切り替えると、睡眠を削らずに成果を出しやすくなります。
Q7. この考え方は、資料作成やプレゼン準備にも応用できますか?
A. 応用できます。
最初は全体構成だけを把握し、次に要点を拾い、最後に要約と整形で仕上げるという順番にすると、短時間でも質が上がります。読む回数を分けるのと同じで、つくるプロセスも分けるほど、徹夜に頼らず完成度を高められます。
*1 The HawkEye|Cramming for exams? Join the crowd
*2 Cari Gillen-O'Neel(2013)「To Study or to Sleep? The Academic Costs of Extra Studying at the Expense of Sleep」Child Development, Vol.84, No.1, pp.133-142.
*3 ナショナルジオグラフィック日本版サイト|第61回 脳の掃除は夜勤体制
*4 日経ビジネス電子版|記憶力低下…原因は睡眠不足でたまる脳内物質!
*5 独立行政法人 労働者健康安全機構 愛媛産業保健総合支援センター|うつ病と睡眠 「早寝、早起き、朝ごはん」
*6 永雄総一(2012)「運動学習の記憶を長持ちさせるのに,適度の休憩をとることが大事なのはなぜか」化学と生物, Vol.50, No.9, pp.631-632.
*7 公益社団法人日本生化学会|レム睡眠のメカニズムと生理的意義
*8 山口真由(2014)『東大首席弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術』SBクリエイティブ
STUDY HACKER 編集部
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