
日々忙しいビジネスパーソンが「時間はつくるものだ」と言われ、「なるほど! ではつくりましょう!」と言って、スムーズにうまくいくことは決して多くありません。
だから結局は、「忙しいから勉強に時間を割けない」というスタート地点に戻ってしまうのです。
それならば、「意識を変える」ことだけに集中してみてはいかがでしょう。時間を直接増やすのは難しくても、「過ごし方の解釈」を変えることで、体感的に余裕を取り戻すことは可能です。
じつは、時間管理の専門家であるテキサスクリスチャン大学のアビー J. シップ教授も、極度の時間管理によって健康を害し、2019年に「何かがぷつりと切れた」体験をしています。そこから彼女が発見したのが、「客観的時間」と「主観的時間」の違いとその関係性でした。*1
この理論を参考にすれば、短時間でも質の高い学習体験を設計することが可能になります。たとえば朝に10分、夜に30分――ぜひ、ひとつのアプローチとして参考にしてください。
「時間がない」の正体:客観的時間への固執
シップ教授は自身の体験を通じて、私たちが「時間がない」と感じる原因のひとつが、客観的時間の管理のみに固執することにあることを発見しました。*1
客観的時間とは、時計やカレンダーに重きを置く、自分の外側に存在する時間の尺度のこと。一方、主観的時間とは、自分の内側に個人的な時間体験をもたらし、時間をどう認識し、解釈するかを反映する時間です。*1
シップ教授自身、分刻みのスケジュール管理や効率化を追求した結果、慢性的な不眠症や栄養失調に陥りました。客観的時間の管理に固執するあまり、主観的時間の豊かさを完全に見失ってしまったのです。*1

主観的時間を取り戻す「意味づけ学習法」
ただし重要なのは、彼女が時間管理そのものを否定していないということ。よって解決の鍵は、客観的時間管理の利点を保ちながら、主観的時間の視点を取り入れることです。
有名な心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏のフロー理論でも明らかになっているように、集中状態や意味のある活動に従事しているときには、時間の感覚が変化し、短時間でも密度の濃い体験ができることが知られています。
楽しい時や意味のある活動をしているときには時間が短く感じられ、充実した体験ができるものなのです。
つまり、同じ10分でも「なんとなく過ごす10分」と「意味のある10分」では、体感する時間の質がまったく違うということ。
実践:朝10分+夜30分の「意味づけ学習法」
以下の表は、今回ご紹介した知見を参考に設計したひとつの実践例です。
つまり、短い客観的時間で、主観的時間の豊かさを最大化する学習法。ポイントは、時間の長さではなく「意味づけ」にあります。
重要なのは完璧を目指さないこと。週に3〜4回でも、この「意味づけ」を意識するだけで、時間に対する感覚の変化が期待できるでしょう。
なぜ短時間でも効果があるのか
短時間でも効果が期待できる理由として、以下が挙げられます。
- 意味のある活動はエネルギーを生み出す
シップ教授が体験を通じて発見したように、目標や価値観とつながった活動は、疲労感ではなく充実感をもたらします。*1 - 集中状態では主観的時間が豊かになる
先述のとおり、楽しいときや集中しているときは時間が短く感じられ、短時間でも密度の濃い体験ができます(フロー理論)。 - 自分のリズムでコントロールできる感覚
千葉大学の一川誠教授いわく「時間の使い方は自分で決めることが大切」。なぜなら「自分で選択する行為」には自尊心を高める効果があると心理学の研究で示されています。*2

期待できる「主観的時間の回復」効果
シップ教授ほか複数の知見に基づくと、この「意味づけ学習法」は客観的には短時間でも、主観的な満足度を向上させる効果が期待できます。
短期的に期待できる効果
- 「時間がない」焦燥感の軽減
同じ忙しさでも、「今日は意味のある時間を過ごせた」という実感が生まれやすくなります。 - 集中力の向上
短時間でも「これは自分にとって大切な時間」と意識することで、自然と集中しやすくなります。 - 1日の満足度向上
たとえば朝の10分で達成感、夜の30分で充実感といった具合に短時間で満足感を得ることで、1日全体が意味のある日に感じられます。
継続することで期待できる変化
- 時間に対する感覚の変化
「時間をつくる」から「時間を意味づける」思考にシフトし、時間管理のストレスが軽減される。 - 学習の質的向上
短時間でも集中できる習慣が身につき、同じ時間でより多くを吸収できるようになる。 - 生活全体のリズム改善
朝夜の学習習慣が、生活全体にメリハリをもたらす効果が生まれる。
客観的時間から主観的時間へのシフト
シップ教授の研究が示すように、私たちに必要なのは客観的時間における効率を過剰に重視することではなく、時間の包括的な体験をより主観的にとらえることです。*1
つまり:
- ✗ 従来の発想:「1日24時間しかない。もっと効率化して時間を捻出しなければ」(客観的時間優位)
- ○ 新しい発想:「同じ時間でも、意味づけ次第で豊かな体験になる。質を重視しよう」(主観的時間優位)
この発想転換こそが、持続可能な学習時間確保の鍵なのです。
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時間管理の専門家さえも陥った「客観的時間への固執」という罠。私たちが取り戻すべきは、主観的時間の豊かさとのバランスです。
朝に10分、夜に30分。時計の針が示す時間は短くても、「未来の自分への投資時間」「今日を意味ある日にする締めくくり時間」と意味づけることで、その時間はより充実したものになるでしょう。
毎回すべてを完璧にこなす必要はありません。大切なのは、学習時間を苦しみの時間ではなく、豊かな時間に変えること。
今日からほんの数分でも、時間に「意味」を与えることから始めてみませんか。その小さな意識転換が、未来の大きな成果にきっとつながります。
*1: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|行き過ぎた時間管理で生きる喜びを見失っていないか
*2: クローズアップ現代 - NHK|限りある時間の豊かな過ごし方とは? 時間学の第一人者が行動チェックリストで解説!
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。