
学生時代は優秀だったのに、「仕事ができない人」になってしまった——。この現象は決して珍しいことではありません。
勉強は「決まった問いに正しく答える力」が求められる世界。一方、仕事では「曖昧な状況のなかで、自分で考え、動き、調整する力」が問われます。勉強のできる人が、このギャップに苦しみやすい傾向があるのです。
この記事では、「勉強はできるのに仕事ができない人」の3つの共通点と、職場で本当に評価される人材になるための具体的な改善策を解説します。
- 勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点1:正解がわからないと動けない
- 勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点2:「相談」が苦手で、人に頼れない
- 勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点3:「計画が狂うと全部パニック」で柔軟性がない
勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点1:正解がわからないと動けない
正解志向が強すぎる人の例
「これって、正解のやり方ありますか?」
新しい販促企画を任されても、口癖のようにこの質問をする新入社員。「正解のやり方はありますか?」「過去の成功事例を教えてください」と何度も確認を重ねる。
納得できるまで着手しないため、企画の初稿提出までに予想以上の時間がかかってしまう。そのうえ、ようやく提出された企画書は「指示された内容をそのまま形にしただけ」で、独自の視点や創意工夫が感じられない。
上司から「もっと自分の頭で考えて動いて」とアドバイスされても、「正しい答え」を求める思考パターンから抜け出せず、結果として、「真面目だけど、主体性がない」「時間をかける割に成果が物足りない」といった評価を受けてしまいます。
学生時代の勉強は、基本的に「正解探し」の世界。数学の公式、歴史の年号、英語の文法——すべてに明確な正解が存在し、その正解にたどり着くための道筋も教科書や授業で示されていました。努力すれば必ず正解にたどり着けるという、ある意味で「安全な環境」だったのです。
しかし、ビジネスの現場には「教科書通りの正解」は存在しません。市場は刻々と変化し、顧客のニーズは多様化し、競合他社も常に新しい手を打ってきます。そんななかで求められるのは、「限られた情報のなかで仮説を立て、スピーディーに実行し、結果を見ながら軌道修正していく力」。
「正解が欲しい」「納得してから動きたい」という思考パターンのままでは、変化の激しいビジネス環境についていけないのです。

解決のヒント: 「自分で仮説を考えて動く」を習慣に
正解志向から脱却するために必要なのが、「仮説思考」を身につけることです。これは、限られた情報から「最も確からしい答え」を先に想定し、その仮説を検証しながら進める思考法。
経営戦略やマーケティングを専門とする、グロービス経営大学院教授の村尾佳子氏は、「仮説思考」について以下のように説明しています。
根拠(=情報やデータ)から問いに対する答えを探しにいくのではなく、限られた情報から最も確からしい「仮の答え」を先に想定した上で、あたかも「逆算」するかのごとく、その答えに必要な根拠を探しに行きます。*1
仕事でいう「自分の頭で考えて動く」とは、このような仮説思考で動くことを指すのです。具体的には、以下のような思考プロセスに変えていきます。
「このタスクはなんのためにするのか」を把握し、「自分なりの答えを想定する」のがポイントです。
重要なのは、完璧を目指さないこと。60~70点程度の仮説でも、早い段階で上司や関係者に共有し、「方向性はこれで合っていますか?」と確認を取る。そこでフィードバックを受けて軌道修正し、最終的に求められる水準まで仕上げていけばよいのです。
「100点満点の答え」を目指して動けずにいるより、「60点の仮説をスピーディーに共有し、改善していく」ほうが、高く評価されます。これが、仕事における「自分の頭で考えて動く」ということの本質なのです。

勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点2:「相談」が苦手で、人に頼れない
相談が苦手な人の例
「わからないことがあったのですが、どう相談したらいいのか迷ってしまって……」
なぜ仕事の納期を過ぎたのか聞かれ、そう答えた若手社員。実際には、近くの先輩に相談すればすぐに解決できる問題だったにも関わらず、「自分が任されたタスクだから、一人でやらなければ」と思い込み、黙って抱え込んでいたのです。
さらに問題なのは、ようやく相談するときも曖昧で丸投げ型の質問になってしまうこと。これでは相手も何から説明すればいいのかわからず、結果的により多くの時間を奪ってしまいます。
「人に迷惑をかけたくない」という配慮が、実際には最も迷惑をかける結果になってしまう——。これは、個人プレイに慣れた優秀な人材が陥りやすい典型的なパターンなのです。
学生時代の勉強は、基本的に「個人の能力を測るもの」でした。テストでは隣の人に聞くことはできませんし、レポートも一人で仕上げることが求められました。そのため、勉強ができる人は無意識に「自力で解決できてこそ優秀」「人に頼るのは能力不足の証拠」という価値観をもっていることがあります。
しかし、ビジネスは根本的にチームプレイです。どんなに個人の能力が高くても、周囲との連携なしには成果を上げることはできません。情報共有、進捗報告、相談、確認——これらは「甘え」ではなく、チームで成果を出すための必須スキルなのです。
むしろ、一人で抱え込んで締切を遅らせたり、相手の時間を無駄にしたりするほうが、はるかに迷惑。どれだけ優秀でも、周囲が状況を把握できない人は「何をやっているかわからない人」「連携がとれない人」と評価され、重要な仕事を任せてもらえなくなってしまいます。

解決のヒント:「ソラ・アメ・カサ」で相談の質を劇的に変える
そこで活用したいのが、マッキンゼーで使われている「ソラ・アメ・カサ」という問題解決の型です。人事戦略コンサルタントの松本利明氏は、以下のように解説しています。
- ソラ「空を見ると曇ってきた(事実)」
- アメ「雨が降りそうだ(解釈)」
- カサ「傘を持っていこう(判断)*2
このように事実・解釈・判断の順序で整理することで、相手は状況を正確に把握し、的確なアドバイスができます。
「何がわからないのかわからない」という状態から、「具体的な課題と解決案を持って相談する」姿勢に変わることで、相手の時間を有効活用でき、あなた自身も「思考力のある人材」として評価されるようになるのです。

勉強はできるのに、仕事ができない人の共通点3:「計画が狂うと全部パニック」で柔軟性がない
予定外の出来事に弱い人の例
「計画が崩れるとパニックになってしまう……」
週次の営業会議を前に、チームで共有する進捗資料を作成していた若手社員。事前にしっかり段取りを立てており、「木曜午前中に仕上げて、午後に提出する」予定でした。
ところが、水曜の夕方「急ぎで最新の売上データを反映してほしい」と依頼されました。慌てて作業しましたが、ほかのタスクの調整などを柔軟にすることができず、結局会議に間に合いませんでした。
勉強は、基本的に「試験の日程」「提出の締切」などが事前に決まっており、すべてを自分のペースでコントロールできます。しかし、仕事は常に流動的。他者や外部要因に合わせて、臨機応変に調整する力が必要になります。
柔軟な対応に慣れていないと、どこを調整すればよいかわからず、パニックになってしまうのです。

解決のヒント:「計画通りにいかない前提」で動く
柔軟性を育てるためには「仕事ではよく変更が起こるもの」という考え方を身につけることが大切です。
タイムマネジメントの専門家である水口和彦氏は、突発的なタスクやトラブルが発生したときの具体的な対処法について、以下のように紹介しています。
- 突発的なタスクが発生したら、その日実行するタスクを、「今日中にやるべきもの」と「翌日以降に先送りできるもの」に分ける。そして、「最悪の場合、今日中にやるべきタスク」だけ実行できればいいと考える。
- トラブルのある日にタスクが先送りになることを考え、日頃から余裕のあるときは翌日以降のタスクも先取りして実行しておく。*3
このように対策をとることで、「崩れたときに立て直す力」を養うことができます。
このような対応ができるようになると、周囲からは「頼りになる人」「安心して任せられる人」として評価され、より重要な仕事を任されるようになります。変化に強い人材こそが、現代のビジネス環境で真に求められているのです。
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学校の勉強は、言うなれば「整備された一本道を正しく走る」ゲームです。対して仕事は、「地図のない森を自分で切り開きながら進む」ゲーム。
このような文化の違いがあることさえわかれば、攻略することは可能です。仕事の文化に慣れて、勉強で得た知識やスキルを存分に発揮してみてくださいね。
*1 グロービズキャリアノート|仮説思考を鍛える3つの方法。仕事の効率化と質向上を目指そう
*2 ITmediaエグゼクティブ|マッキンゼー式「ソラ・アメ・カサ」は報連相を超える
*3 日経クロステック|突発的に仕事が増えても対応できるようにする「スゴ技」
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。