
ビジネスの現場は、正解のない問いだらけです。
そんなとき、ふと「偉人ならどうしたか」と思いを巡らせたことはありませんか?
本記事では、幕末の志士から経営の神様まで、日本の偉人たちが実践してきた「思考を深め、行動に変える」習慣を、現代の学習科学の知見に照らし合わせて解説します。
取り上げる3人の習慣は、じつは一連の成長サイクルを形づくっています。
① 問いを立てる(西郷隆盛)
② 行動に変換する(吉田松陰)
③ 振り返って改善する(松下幸之助)
この流れに沿って、今日から使える実践法を紹介します。
- 西郷隆盛に学ぶ 「問い」をつくれば思考は深まる
- 吉田松陰の実践 「学びを行動に翻訳する」アクティブ学習術
- 松下幸之助の習慣 就寝前の「振り返り」が行動を変える
- まずひとつだけ変える。それが偉人の共通点
- よくある質問(FAQ)
西郷隆盛に学ぶ 「問い」をつくれば思考は深まる
幕末から明治初期に活躍した西郷隆盛は、『南洲翁遺訓』のなかで自省の姿勢を繰り返し説いています。
なかでも有名なのが次の言葉です。
「人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして己を尽くし、人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし」
うまくいかない出来事に直面したとき、相手を責めるのではなく、「自分の誠意に足りないところはなかったか」と自らに問いかける。
この一節は、西郷が内省を「問い」の形で実践していたことを示しています。
こうした「問いを自ら生み出す行為」は、現代の心理学でいう「セルフクエスチョニング(Self-Questioning)」に相当します。
自分への問いかけが、メタ認知(自分の思考を客観視・点検する力)を高めることは、研究でも実証されています。*1
西郷流 自分を深く見つめる3つの問い
西郷が自らに投げかけていた格言も、「視点を変える」発想です。
「我が誠の足らざるを尋ぬべし」 → 現代なら「自分の準備や誠意に足りないところはなかったか?」となるでしょう。
ここでは、その精神をビジネス向けに応用した、3つの問いを紹介します。
西郷流|自分を深く見つめる3つの問い
- ✔︎ 問い1 | 事実に向き合う ― 「何が起きたのか?」
- ✔︎ 問い2 | 誠意・準備を検証する ― 「自分の準備・配慮で、足りなかった点はどこか?」
- ✔︎ 問い3 | 視点を転換する ― 「相手は何を求め、どんな不安を抱えていたのか?」
問いを立てたら、次は「行動」への変換です。
いくら深く考えても、動かなければ現実は変わりません。

吉田松陰の実践 「学びを行動に翻訳する」アクティブ学習術
江戸後期の思想家・教育者である吉田松陰は、黒船来航の動乱期、塾生に対して読書の内容を即座に「何を変えるか」という具体的な行動目標へ結びつけて伝えていました。
インプットの価値を「知識」ではなく、「明日からの行動」に変換して共有する。
まさにアウトプット前提の学び方です。
このスタイルは、アクティブラーニングの本質そのものといえます。
教育心理学の研究でも、学習内容を具体的な目的と行動に変換するプロセスが、理解の深まりと応用力の向上を促すことが示されています。*2
これこそ、知識を活きたスキルに変えるカギなのです。
松陰式・行動メソッド 完了条件まで設計する
インプットした学びを「明日やること」に変換し、達成を客観的に判断できる完了条件まで決めておく。
これが松陰式の基本です。
松陰の言葉を現代に活かす例
松陰は塾生にこう説きました。
「読書をせよ。だが学者になってはいけない。人は行動することが第一である」
この教えを、明日の行動に翻訳してみましょう。
- ✔︎ 例1 | 本で学んだことを、すぐ試す
学び |「部下には背景から説明せよ」(読んだ本の内容)
行動目標 | 明日の朝会で、指示の前に「なぜやるか」を30秒で話す
完了条件 | 朝会終了時に「背景を話したかどうか」をセルフチェックする - ✔︎ 例2 | 疑問をメモして、翌日に検証する
学び |「知的好奇心を止めるな」(松陰の姿勢)
行動目標 | 今日感じた疑問をメモする
完了条件 | 翌日、疑問を調べて答えや仮説をひとつ書き足す
行動したら、最後は「振り返り」です。
やりっぱなしでは、同じ失敗を繰り返してしまいます。

松下幸之助の習慣 就寝前の「振り返り」が行動を変える
戦後の日本経済復興に大きく貢献した松下幸之助は、毎晩、布団に入ってから1時間ほど、その日を振り返る習慣を持っていたそうです。
「あれはこうすればよかった」「あれはうまくいった」「次はもっと良くするにはどうすればいいか」という成功も失敗も、次の行動につなげることを徹底していたのです。
松下自身、こう語っています。
「反省する人はきっと成功する。正しく反省すれば、次に何をすべきか、何をしたらいかんか、きちんとわかる。それで人間として成長していく」と。
興味深いのは、この習慣が現代の教育心理学と一致している点です。
「行動を振り返り、原因を見つけ、ひとつだけ改善する」過程は、最も再現性の高い成長プロセスとされています。*3
松下流 就寝前の振り返り術
忙しいビジネスパーソンでも今日から始められる、「明日変えること」だけに絞った振り返り法です。
寝る前に、短時間でも次の3つを頭のなかで巡らせてみてください。
松下流 振り返り術 | 行動を変える3ステップ
- ✔︎ 今日の出来事をひとつ思い出す
例 |「商談で質問にうまく答えられなかった」 - ✔︎ 原因を、短いひとことでとらえる
例 |「話す準備ばかりで、相手の "不安ポイント" を想定していなかった」 - ✔︎ 明日、変えることをひとつだけ決める
例 |「次は、想定される質問や意図を書き出してから商談に臨む」
まずは寝る前の5分で構いませんので、頭のなかで振り返ることから始めてみてください。

まずひとつだけ変える。それが偉人の共通点
今回ご紹介した3人の習慣には共通点があります。
どれも小さく、すぐ始められ、続けやすい方法だということです。
今日からできることはシンプルです。
うまくいかなかったことをひとつ思い出し、「なぜ?」ではなく「どうすれば良かったのか?」と視点を変えて問い直す。
そこから、明日変える行動をひとつだけ決めて、実践してみましょう。
***
偉人の習慣は、時代を超えて再現できる成長メソッドです。
今日から「問い」をひとつ立て、行動をひとつ変える。
その小さな積み重ねが、明日のあなたをつくります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 西郷隆盛の「セルフクエスチョニング」とは何ですか?
セルフクエスチョニングとは、自分自身に問いを投げかけることで思考を深める手法です。西郷隆盛は「我が誠の足らざるを尋ぬべし」という言葉で、うまくいかないときに他責にせず、自分の準備や誠意を振り返る姿勢を説きました。心理学の研究でも、この自己への問いかけがメタ認知(自分の思考を客観視する力)を高めることが実証されています。
Q2. 吉田松陰の「アウトプット前提の学び方」を実践するにはどうすればいいですか?
吉田松陰は「読書をせよ。だが学者になってはいけない。人は行動することが第一である」と説きました。実践するには、本や研修で学んだ内容を「明日やること」に変換し、達成を判断できる完了条件まで設計することが重要です。たとえば「部下には背景から説明する」と学んだら、「明日の朝会で指示の前に30秒で理由を話す」という具体的な行動目標を立てましょう。
Q3. 松下幸之助の振り返り習慣は、忙しい人でも実践できますか?
はい、実践できます。松下幸之助は毎晩1時間ほど振り返っていましたが、最初は寝る前の5分で十分です。ポイントは3つ。今日の出来事をひとつ思い出し、原因を短いひとことでとらえ、明日変えることをひとつだけ決める。この「ひとつだけ」に絞ることで、忙しいビジネスパーソンでも継続しやすくなります。
Q4. 3人の偉人の習慣に共通するポイントは何ですか?
3人の習慣に共通するのは「小さく始められ、続けやすい」という点です。西郷の「問いを立てる」、松陰の「行動に変換する」、松下の「振り返って改善する」は、いずれも大きな準備や特別な道具を必要としません。今日から「問い」をひとつ立て、行動をひとつ変える。この小さな積み重ねが、着実な成長につながります。
*1 King, A. (1992). Facilitating elaborative learning through guided student-generated questioning. Educational Psychologist
*2 Prince, M. (2004). Does Active Learning Work? A Review of the Research. Journal of Engineering Education(ワイリーオンラインライブラリ)
*3 Schön, D. A. (1983). The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action. Basic Books
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。