
「もっと頑張らなければ」「まだ足りない」
—— そんな思いが頭から離れないことはありませんか?
資格を取得し、英語を勉強し、プレゼンの準備も怠らない。周囲から見れば十分頑張っているはずなのに、心の奥では常に不安が渦巻いている。
「同期と比べて成果が出ていない」 「せっかく取った資格を活かしきれていない」 「もっと努力しないと置いていかれる」
やるべきことはちゃんとやっているのに、なぜか満足感や達成感を得られない。この「終わりなき不安」は、時にビジネスパーソンを苦しめます。
問題は能力不足ではありません。「頑張っているのに報われない感覚」という思考パターンにあるのです。
この負のループから抜け出すカギが、心理学の「脱フュージョン」という手法。思考や感情に振り回されず、冷静に行動を続ける技術です。
「脱フュージョン」とは何か?
脱フュージョンとは、「思考や感情と適切な距離を保つこと」で、「ネガティブな思考や感情が浮かんできても、それらを『ただの思考』や『ただの感情』として認識し、その影響を受けずに行動する力を身につけること」を指します。*1
私たちは不安や焦りが生まれると、その感情と一体化しがちです。
- 「英語力がまだ足りない」→「自分には英語力がない」と思い込む
- 「同期と比べて成果が出ていない」→「自分は劣っている」と感じる
しかし、脱フュージョンの視点に立つと、こうした思考を「ただの頭の中の言葉」として扱えるようになります。
臨床心理士の藤本志乃氏は、脱フュージョンの実践は以下のメリットをもたらすと述べています。*1
- ネガティブな思考や感情に支配されることなく、冷静に対処できるようになる
- メタ認知能力の向上
メタ認知能力とは「自分の思考や感情、行動を客観的に把握し、適切に調整する力」のことを指します。*2
つまり、思考や感情、そして行動までもをコントロールできるところが脱フュージョンのメリットなのです。

「脱フュージョン」の具体的な実践法
1. 思考にラベルを貼る
仕事や勉強をするなかで不安を覚えたら、その不安に「名前」をつけましょう。
たとえば
「私は今、“比較思考” をしているようだ」
「私は “過剰達成意欲” に駆られている」*3
このように、不安に名前をつけていくのです。
- 「上司の期待に応えられないかも」 → ラベル:評価不安
- 「もっと勉強しなければ」 → ラベル:過剰達成意欲
- 「資料作成が同期より遅い」 → ラベル:比較思考
不安に名前をつけると、それは「自分の本質」ではなく、「頭の中の一時的な思考」だとして扱えるようになります。
💡 キャリア活用のヒント
プロジェクトの準備や資格勉強のときに「まだ不十分」と思ったら、手帳やメモアプリにその感情をラベルとして記録してみましょう。
思考にラベルを貼ることを繰り返すうちに、自分がどんな場面で不安を抱きやすいのか、パターンが見えてくるはずです。

2. 書き出した不安ラベルをデータ化する
手帳やメモアプリに繰り返し書かれた思考のラベルは、あなたが改善すべきポイントであることが明らかです。
- 明日のプレゼン準備をしたのに不安 → ラベル:評価不安
- 同僚は英語でスムーズに商談を進めているのに、自分はうまく話せずに落ち込む → ラベル:比較思考
数日書き出してみると、自分が陥りやすい傾向がはっきりします。
💡 キャリア活用のヒント
繰り返し出てくる思考は、スキルアップ計画の改善点に直結します。
「プレゼン準備への不安」が多いなら練習方法を見直す、「比較思考」が多いなら評価基準を自分軸に戻す、といった改善につながります。

3. 不安の本質を探り行動を選択する
思考にラベルを貼り、それを書き出したら、次はその不安の正体を探ることが大切です。
- 「本当に業務に必要なスキルなのか?」
- 「他人の評価を気にしているだけなのか?」
不安を探ることで、その不安が達成への意欲を高める建設的なものなのか、単なる承認欲求なのかを見極めることができるでしょう。
筆者は、最近の自身の勉強についての不安にラベルを貼ったうえで、その思考の本質を探ってみることにしました。
使用したのは手帳のウィークリーページです。
5日間書き出した様子がこちら。

※この画像は筆者が作成した
5日間実践してみると、筆者の不安の正体は「焦り」と、過度な「自責思考」だと気づきました。
「焦り」も「自責思考」も、自分の目標達成に向けての「あがき」であるため、建設的な不安であると判断。
この不安は「頭の中の一時的な思考」だととらえ、「勉強を続ける」という行動を選択することに自信が湧いてきました。
思考にラベルを貼ることで、感情の波に飲み込まれるのを防ぎ、自分の行動を客観的にとらえ直すことができたと感じます。
💡 キャリア活用のヒント
- 「自分の成長につながる不安」なら、行動を継続。
- 「他人の目を気にする不安」なら、行動を修正。
これを繰り返すと、あなたの成長の軸がぶれにくくなります。

脱フュージョンがキャリア形成に効く理由
1. 不安に消耗せず行動し続けられる
不安と一体化すると「足りないから努力し続けなければ」と自分を追い込みがちです。
脱フュージョンで思考を客観視すれば、感情に飲み込まれず、冷静に学習や仕事を継続できます。
2. メタ認知能力が高まり、成長の戦略を描ける
脱フュージョンにより「私は比較思考をしている」と気づけば、学習計画や行動を軌道修正しやすくなり、成長戦略を描けます。
3. 真に必要なスキルに気づける
他人軸の不安に振り回されると、目的に関係ないスキル習得に走ってしまいがちです。
脱フュージョンによって不安を切り離せば、自分のキャリアに直結するスキルを見極め、集中して伸ばせるようになります。

***
スキルアップを続けているのに「まだ足りない」と感じてしまうのは自然なことです。
大切なのは、不安をゼロにするのではなく「思考と距離をとる技術」を身につけること。
- 思考をラベル化して客観視する
- 書き出してデータ化し、改善につなげる
- 不安の本質を確認して行動を修正する
これが「脱フュージョン」をキャリアに活かす方法です。
不安に振り回されるのではなく、不安を成長のヒントに変えていきましょう。
その積み重ねが、キャリアアップとスキル向上の確かな土台になるはずです。
※引用の太字は編集部が施した
*1 コグラボ|脱フュージョンとは?ACTの理論やエクササイズもご紹介
*2 カオナビ|メタ認知とは?【意味をわかりやすく】能力のトレーニング方法
*3 People Focus Consulting|ストレスを減らしてより多くを達成する: 過剰な達成意欲をコントロールしながら
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。